甘いマスクは、イチゴジャムがお好き

猫宮乾

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―― 第一章:マスク ――

【十一】歪んだ悦楽

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 本日も、吹屋は宿直だ。宿直室に入り、鍵をかける。そして窓の前へと立ち、寮の光を見た。多数の生徒や教職員が、校舎の向かいの寮にいる。

「ああ、食べ放題で最高だ。次はどれを食べようか」

 そう言うと、紫色の薄い唇の両端を持ち上げて、楽しそうに吹屋が笑った。

「それにしても、先日の捜査官の脳漿はとても美味だったなぁ。久しぶりに人の体から直接飲んだわけだけれど、やはり新鮮なものは違うねぇ。もう少し、この学園で食事をしても露見しないだろうし、私は高等知能を持つマスクなのだし、処理も完璧にこなせるからねぇ」

 ニヤニヤと笑ってから、窓の前で踵を返し、吹屋は室内を見渡す。
 そこには、普通のマスクとなった生徒が三名いて、皆イチゴジャムを貪っている。
 続いて逆側の寝台の上を、吹屋が見る。
 そこには、今宵マスク達に食べさせ上げようと連れてきた生徒を、拘束している。口には布を噛ませ、両手両脚は縄でぐるぐる巻きにしている。呻くように声を漏らしながら体を跳ねさせている少年に対し、小馬鹿にするように、吹屋は笑った。

「さぁ、食事の時間だ。ジャムはまた明日にしよう」

 吹屋の言葉に三名のマスクが従い、ベッドへと近づいていく。今宵餌になる少年が震え始め、目を剥いている。

 それを眺めながら、吹屋は斑目の最期を思い出していた。
 階段を降りていき、吹屋は斧で斑目の頭部を跳ねたのである。そして愛用している鉄製のストローを用いて、美味しい食事を楽しんだのだ。首を刎ねる直前に、振り返った斑目の凍りついた顔が、とても滑稽だった。斧を構えた時は絶叫し、ずっと悲鳴を上げていた。そんな斑目を哄笑しながら、吹屋は屠ったのである。飲食物である人間は、多くの場合悲鳴を上げる。その声を聞くのが、吹屋の密やかな楽しみでもあった。

「さて、私もご馳走になろうかな」

 にこやかな表情を浮かべ、吹屋が寝台へと歩みよる。そして彼は、ポケットから医療用のメスを取り出すと、迷いなく振り下ろした。



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