平穏な日常の崩壊。

猫宮乾

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……二年目……

【19】初体験(★)

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 目を覚ました俺は、遠園寺に腕枕をされている事に気がついた。何だよ朝から恥ずかしいなぁ……! 赤面した俺は、布団の中に潜った。遠園寺はすやすやと寝ているようだ。起こしても悪いだろうが、居心地が悪い。そう思って抜け出そうとすると、ギュッと抱きしめられた。

「起きたのか、郁斗」
「お前こそ起きていたのか!?」
「ああ。そろそろ朝食にするか」
「……俺はシャワーを浴びてくる」
「良いだろう。俺が用意しておいてやる」

 こうして俺達は寝台から出た。
 俺は真っ直ぐに浴室へと向かう。そして体を洗いながら、首筋についているキスマークを見た。それを見るだけで、頬が熱くなるから困る。

 シャワーから出ると、ハムエッグが完成していた。意外と上手だ。
 二人で皿に向かい、俺達は手を合わせた。

「今夜は花火大会だったな?」
「おう。俺様も小さい頃に一度行ったきりだが、かなり大きいぞ」
「そうか。それまではどうする?」
「一つは、近くにある温泉に行く」
「却下だ」
「何故だ?」
「遠園寺が俺にキスマークを付けたから以外の理由が必要か?」
「! お、おう」

 俺が引きつった顔で笑いながら睨むと、遠園寺は逆に嬉しそうな顔をした。睨まれて喜ぶとはやはりドMのままの部分もあるのかもしれないな。

「もう一つは、自然公園があるから、見て回るというのもアリだな。ま、俺様としては――昼間からベッドでも問題はゼロだが?」
「問題しかない」
「足腰が立たなくなって花火を見られなくても思い出が一つ減るからな」
「な」
「照れている郁斗を見ていると、俺様は気分が良くなる」
「俺は気分が悪いからな!」

 そんなやりとりをしつつ朝食を終えて、この日は皿洗いは俺がかって出た。
 洗い終えて布で拭いていると、遠園寺がそれをしまっていく。
 俺は、単独で家事をする可能性を考えていたが、遠園寺は非常に積極的だ。遠園寺が家事を好きだというのは、非常に意外だった。

「なんだ?」

 俺が見ていると、高い戸棚に皿をしまいながら遠園寺が首を傾げた。

「いや。お前が案外家庭的で驚いている」
「俺様は家庭的じゃないぞ」
「違うのか?」
「おう。単純に、郁斗の力になりたいだけだ。郁斗じゃなかったら、そもそも使用人は絶対に呼んでいた」
「そ、そうか……」

 ちょっと嬉しかった。こうして朝を終えてから、俺達は外へと繰り出した。見に行った自然公園では、名産のハチミツを味わった。昼食も自然公園のはずれの土産物屋さんの一階にあったカフェで簡単に食べる事に決めた。二人で飾られている写真を見ながら食べたのだが、魚の天ぷらが美味しかった。俺は肉も好きだが、魚も嫌いじゃない。

 その後、花火大会の前に、一度別荘へと戻った。遠園寺が浴衣を着ると言い張ったからである。俺は浴衣を持っていなかったのだが、遠園寺が俺の分も持ってきてくれていたのだ。簡単に着られる浴衣を、二人で身につけた。遠園寺が紺色、俺は黄緑色の浴衣だ。服装が違うだけで、確かにお祭り気分は盛り上がる。そんな事を考えつつ、俺達は時間を待ってから、花火大会へと向かった。場所取りの必要は無かった。皆、それぞれの別荘でみるらしく、出店が並ぶ付近は、そこまで混雑していなかったのである。

「何を食べる?」
「焼き鳥だな」
「本当にお前は肉が好きだな」
「遠園寺は何を食べるんだ?」
「俺様はとりあえずイカ焼きが食いてぇ」

 昨日のBBQでもイカは焼いたのだが、そういえば、遠園寺は完食していた。イカは冷凍庫に入れた記憶も無い。

「お前はイカが好きなのか?」
「まぁな。刺身も好きだが」

 その内に、花火が始まった。巨大な音がして、二人で揃って空を見上げると、夜空に大輪の花が咲いていた。数発連続で上がるなどし、BGMも流れている。幻想的な光景に感動しながら、俺は焼き鳥を食べた。途中で豚や牛の串焼きも購入したが、今回は肉ではなく花火に集中していた。目を惹きつけられた。花火って良いな……。

 帰宅する頃には、俺の頭の中は興奮でいっぱいだった。

「すごく良かったな」

 俺がそう言うと、遠園寺が俺の手をギュッと握った。恋人繋ぎである。俺は反射的に周囲を確認したが、誰もこちらを見てはいない。それに知人もいないのだから、まぁ良いかと、俺も手を握り返した。

「また一緒に来ような」
「ああ。そうだな――それに、確かに星空も、プラネタリウムよりずっと良いな」
「だろう?」
「あ、蛍!」
「蛍も結構幻想的だろう?」

 遠園寺の言葉に頷き、俺は周囲や星空を見ながら歩いた。繋いでいる手の温度は気恥しかったが、すぐに慣れた。

 こうして帰宅し、着替えるために、一度着替えがある寝室へと俺達は向かった。
 すると――入ってすぐに、遠園寺が俺を後ろから抱きしめた。

「浴衣のお前は、やばい」
「なんだよ、やばいって。離せ」
「キスマークに絆創膏を貼ってる所が逆に目の毒だ」
「な、っ……ン」

 振り返ろうとした俺の頬に手を添えて、遠園寺がキスをしてきた。薄らと唇を開けた俺に、遠園寺が舌を差し込む。そのまま舌と舌を絡め合い、俺達はキスをしていた。

「っ、ハ。んっ……ば、馬鹿。盛るな!」
「もう我慢が出来ねぇ」

 遠園寺が俺の体を、ベッドに向かって軽く押し飛ばした。咄嗟の事だったのでそのままベッドに座り込んだ俺に、遠園寺がのしかかってくる。

「おい、って! ン」

 そのままベッドの上で、再びキスをした。何度も何度もキスをされて息が苦しくなってくる。そうして――俺は唇が離れた時に、小さく息を呑んだ。そこには、未だかつて見た事が無いほど、獰猛な瞳をした遠園寺の顔があったのである。見ているだけで、ゾクリとした。壮絶な色気が滲んでいて、ある種の威圧感すら覚えるほどだった。

「今夜こそ、郁斗をもらう」
「……」

 気圧されていて、俺は何も言えなかった。呆然としていると、浴衣をはだけられた。帯が解かれて、俺はあっさりと下着を取り去られた。唾液を嚥下し落ち着こうと試みたが、無理だった。肉食獣のような顔をしている遠園寺は、昨日と同じように、まずは俺の首筋に吸い付いた。ツキンと痛み、また本日もキスマークを付けられたのが分かる。


 こうして――二日目の夜が始まった。

「ん、あっ――ッ、ああ! ア!」
「きつッ」
「待ってくれ、うあ、熱い……ん――!!」

 遠園寺が俺に、ゴムをつけたブツを挿入した。確かに、指とは比べ物にならないサイズである。喉を震わせながら、俺はギュッと目を閉じた。ゆっくりと根元まで挿入した遠園寺は、そこで一度動きを止めた。

 俺の体がじっとりと汗ばんできた。髪が肌に張り付いてきた。全身がとにかく熱い。繋がっている箇所から蕩けてしまいそうな心地になり、俺はゾクゾクとした快楽の波に必死で耐えようとした。遠園寺は俺の感じる場所を押し上げるような状態で動きを止めている。そして確かに俺の内側はきついのだろう、中が全部遠園寺で埋まってしまっている気分だ。

「あ、はッ、ん――っ……う、うあ、あああ!」

 その時、遠園寺が腰を動かした。軽く揺さぶられただけなのだが、その瞬間に、俺の腰骨が熔けた。あんまりにも気持ちが良くて、俺は目を見開き、声を上げた。慌てて片手で唇を覆ってみたが、声が出るのを止められない。

「あ、ああっ、ゃ、ァ……あ、あア! ん――!」
「痛いか?」
「平気だ……け、けど、うあ、あ、熱い……遠園寺……んッ、あ!!」
「――いい加減、采火と呼んでくれ」
「采火……あ、ああ! あ! ああ!」

 俺が名前を呼ぶと、遠園寺が緩慢にとではあるが、抽挿を始めた。はっきりとその形を内側で理解し、次第に早くなっていく動きに、俺の呼吸が上がる。体の統制権が自分から外れたようになってしまい、遠園寺にもたらされる刺激に俺は絡め取られていった。

「ずっと郁斗に名前を呼ばれたかったんだ」
「そんなの早く言えば良かっただろうが! って、あ、うあ、ああああ!」
「だからお前はその空気を破壊する癖をなおせ」
「あ、ああ! ぁ、ぁ、ゃ、ャっ――うあ、ン――!!」

 遠園寺の動きが更に激しくなった。肌と肌が奏でる音が、静かな室内に響く。長く巨大な遠園寺のブツが、俺を貫いている。感じる場所をグッと突き上げられる度に、俺は快楽から涙を零した。酸素を求めて口を開くと、嬌声しか出てこない。自分のものだとはとても信じられないような、甘ったるい声だ。

「あ……ぁ……ああ! あ、あああ! もうダメだ、出る、うあああ!」

 その時一際激しく動かれて、俺は果てた。同時に、遠園寺も放ったようだった。一度引き抜いた遠園寺が、新しいゴムに手を伸ばす。

「まだまだ足りねぇな」
「嘘だろ、俺はもう――っ、ぁ……」

 それからすぐに、再び挿入された。今度は、後ろからだった。先程までの正常位とは異なり、後ろから貫かれると、遠園寺の顔が見えない。それがちょっとだけ怖くて、俺はシーツを握り締めた。そんな俺の腰を掴み、遠園寺が先程までよりも激しく動く。

「ん……ぁ……ぁ、ァ……ああ! あ!」
「だんだん、お前の好きな場所を覚え始めたぞ、俺様は」
「待ってくれ、そこ、うあ、あああ」
「ここ、好きらしいな」
「ん――! ン、ん、ぅ……ゃ、ぁ、あああ! ンん!!」

 こうして――その夜は、散々交わった。俺は、自分がいつ、眠るように意識を手放してしまったのかを、覚えていない。


 以降の俺達は、昼夜を問わず……ヤりまくっていたとしか言えないだろう。
 帰宅する頃には、俺の体は疲れきっていた。疲れきっていたが、同じくらい、遠園寺の体温にも慣れていた。

「今日から夏休みが終わるまで会えないんだな」

 帰り際、思わず俺は呟いた。すると遠園寺が俺を抱きしめた。

「お前の家にも遊びに行きたいし、他にも色々出かけるぞ。良いだろう? 郁斗」
「そうだな……折角の夏休みだからな……」

 そんなやりとりをしてから、俺達はキスをし、迎えの車を待った。
 乗り込んで途中からは、夜の疲労があったからなのか、俺は爆睡してしまった。
 目を覚ましたのは遠園寺に起こされた時で、俺はずっと寄りかかって眠っていたらしい。

 遠園寺は有言実行であり、その後、俺の家へと来たり、テーマパークを貸し切ってくれたり色々と遊んだりした。海にも山にも行った。一緒に夏休みの宿題もこなした。そうして、夏休みは終わった。夏期講座や通学日等は澪標学園には無いし、俺も遠園寺も補習も無かったので、遊びほうけていたと言って良いだろう。

 こうして――新学期が始まった。


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