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―― 本編 ――
【034】信じて待つ・待たない
しおりを挟む「お祭りは、一週間後にあるんだよね?」
シャンパングラスを手に持ちながら、砂月が問いかける。すると口元を綻ばせて静森が頷いた。
「そうだと決まっている。今日とは異なり、出店が並ぶそうだ。今日も随分と豪華だが」
静森の言葉に、砂月が照れくさそうに笑う。
多くの料理を、たとえば今静森が手にしているチキンの香草焼きを、作ったのは砂月だ。多くかは倉庫から取り出したが、手作りした品も多い。
「おそろいの浴衣、作っておいたんだ」
「そうか。砂月とおそろいか」
「嫌?」
「まさか」
そんなやりとりをしながら、二人でグラスを傾ける。
アルコールの炭酸を舌の上で飛ばすと、肩から力が抜けていく。
「明日はゆっくりとお休みする?」
「――そうしたいが、少々気にかかることがあってな。この後、俺は中座する」
「そうなの? もしかしてさっき遼雅くんが言ってたこと?」
「ああ。落ち着いたら砂月にも必ず話す。だから俺を信じて待っていてほしい」
そう言ってぐいっとシャンパンを飲み干すと、静森がグラスをそばのテーブルに置いた。
「それでは、また」
「うん。待ってる」
砂月が頷いたのを見てから、静森が歩き去った。砂月は漠然と、先ほど悠迅が縄でぐるぐる巻きにされた子供を連れて入っていった玲瓏亭の地下の方だと確認した。
――子供、だ。
なにごともなく静森が、まだ幼い者を拘束するとは思えない。
自然と現の話が思い浮かんだ砂月は、自分のグラスを傾けながら遠くを見るような目をした。
「砂月」
するとそこへ、遼雅が歩み寄ってきた。滴が隣から別の方向へと歩いて行ったのが見える。やはり連合を組んでいた【Genesis】と【Harvest】のマスター同士は親しい様子だ。だが一切そこに恋愛色は見えない。
「遼雅くん、お疲れ様」
「おー! 疲れたわ。料理で生き返ったけども」
「どれが美味しい?」
「海鮮焼きがたまらん。なんだこれ、美味すぎだろ」
遼雅が皿から串焼きを手に取る。ホタテや海老がささった品だ。それも砂月の倉庫から取り出した品である。
「それ美味しいよね。俺も試食したけど最高だった」
「分かる」
さて、砂月は、静森が話してくれるというのを決して信じていないわけでは無かった。だが、情報収集すること、己の好奇心には常に貪欲である。そこで遼雅にカマをかけることに決める。遼雅に新しい麦酒のジョッキを手渡す。
「ねぇ、遼雅くん? 子供に襲われたのは、どんな状況だったの?」
「ああ、もう静森に聞いたのか? いやぁ、驚いたわ、あれは。いきなり撃ってきた。静森が暗殺者のスキルで弾丸を真っ二つにしなかったら、俺もあいつも教会送りだ。自分だけで無く俺のことも助けてくれたから、俺にとっては恩人になったぞ。お前の亭主、いいやつだな」
遼雅が笑顔でぺらぺらと喋った。さっと砂月は背筋が冷えたが、表情にはそれを出さない。同時に、静森も暗殺者のスキルを上げているという話を思い出す。
「うん。静森くんは、僕には過ぎた旦那様だよ」
「惚気ー! いいなぁ、俺も寂しくなってきた、さすがに」
「誰か気になってる人はいないの?」
「いないこともねぇかもよ?」
「滴くん?」
「それはない」
遼雅の本当か嘘か分からないそれらの発言に、砂月は肩を竦める。だが終始背筋は冷えていた。冷え切っていた。もしかしたら、静森が危なかったのかもしれないのだから。
「砂月、お前も疲れただろ」
その時、遼雅が言った。
「え? 俺が?」
「大好きな奴を待ってるって、疲れないか? 心配だろ?」
「それ、は……」
このような気の遣われかたをしたことが無かった砂月は、言葉に窮する。
「お前はよく待ってたよ。頑張ったな」
「なに、それ……なんか、遼雅くんが大人で悔しい」
「お前に大人だと言われたら、こりゃあ喜んでいいな」
遼雅がくすくすと笑う。その笑顔が、砂月は好きだ。
「遼雅くんも、無事に帰ってきてくれて本当によかった」
「おう」
フレ同士、というのは、これが正常な関係なのかもしれない。砂月は、遼雅がフレで本当によかったと感じた。
祝宴が終わってからは、砂月は部屋で待っていた。
この日静森は深夜の三時過ぎに帰ってきた。
「疲れてるよね?」
砂月が問いかける。すると静森が苦笑した。
「そうだな、少し休みたい」
何と言っても討伐明けだ。聴きたいことは山ほどあったが、頷いて砂月は布団を見る。
その時静森が砂月の腕を引いたので、本日も腕枕をされる。
思わず砂月は、ペタペタと静森の胸板に触れた。本当に怪我はない様子だ。
「おやすみ、静森くん」
「おやすみ、砂月」
その後、静森が目を閉じたので、砂月は大人しく腕の中にいた。聞きたいことは大量にあるけれど、まずは目の前に無事な姿があって、そしてこうして確かな腕の温もりがあることに満足する。静森が無事ならそれでいい。そう感じながら砂月は少し微睡んだ。
――翌朝。
静森が目を覚ますと同時に砂月も起きた。すると額にキスをされたので、両頬を持ち上げてから砂月側からもキスを仕掛ける。
「ん」
すると静森に両頬に手を置かれて、よりキスを深くされた。
そのまま暫くキスをし、そして視線を合わせる。
「おはよう、砂月」
「おはよう。今日はゆっくりできる? まだ後処理がある?」
「気持ちとしてはゆっくりしたいが、紫晶竜アメザスのいたダンジョンのマップや罠罠、効いた攻撃や前衛がボスを釣った方法の分析と解析、記録があるからな」
「倒したからと言って休めるわけではない、かぁ」
「――ギルメン達には、今日は一日急用を命じているが、これでも俺はギルマスだからな」
「そういう責任感、好き」
「お前にそう言われるならば、仕事にはりも出る」
そんなやりとりをしてから、この日は静森は朝の訓練を休んだので、二人でゆっくりと起きて、一緒に朝食を食べた。
向かい合って座っていると、平穏な日常が戻ってきた気持ちになる。
だがこれはまだまだ序章であるし、今後も討伐はある。果たして終わりがあるのかも不明だ。厚焼き卵に箸を伸ばした砂月は、その甘い味に、それでも確かに穏やかな空間が戻ってきたのだと、胸の内で念じる。静森は味噌汁を飲んでいる。チラリとその表情を窺えば、そこには優しい微笑が浮かんでいた。
「昨日の話だが、今日の午後は早く帰るから、そうしたら聞いてほしい」
「うん」
本当に静森は約束を守って話してくれるようだと判断し、先に聞いた自分を砂月は内心で少しだけ恥じた――が、後悔はない。静森を信じることと、己の好奇心を満たすこと、それはまた別のことだからだ。自分は情報屋なのだと、砂月は強く考えている。
その後食事を終えると、静森が立ち上がった。
「では、そろそろ出る。砂月、また後ほど」
「うん。頑張ってね」
砂月もまた立ち上がり見送りに立つと、静森がギュッと砂月を抱きしめた。その温もりが嬉しくて、砂月も腕を回し返す。幸せだな、と、幸せが戻ってきたな、と、そう感じた。
さて、静森が出かけたので、砂月は午前中は暇になった。
「なにをして待っていようかなぁ」
腕を組んで、うーんと唸る。
「そうだ、露店の管理をしようと思ってたんだった」
ふと思い出して、砂月は座り直すと、露店機能にアクセスした。そして最近の売れ筋や新着アイテムを確認する。
「あ」
すると、出品者名【タクト】で、【銀鉱】の販売履歴があり、全て売り切れ表示になっていた。
「ハロルド達、採掘をやりはじめたんだ」
自分の助言が少し役に立ったようだと感じたら、砂月の胸がほんのりと温かくなる。同時に、やはり生産スキルを上げはじめた者や、武器を求める者も多いのだろうと考える。武器は例えば【筒抜けの殻】のメンバーも求めていた。やはり需要がある様子だ。
「初級の武器を露店に流すのもありかなぁ」
生産武器の場合には、生産者の【銘】が刻まれる。それは名前ではなく、自由に一つだけ持てるものなので、砂月は【銘・水ノ月】といつも入れている。
「料理の味が生産スキルを上げていると変わるってことは、武器の善し悪しも変わるのかな? ちょっと試す価値はあるよね」
そう呟いた砂月は、まずはテスト用にいくつか作成しようと決めた。続いて倉庫にアクセスしながら、素材を確認しつつ、漠然と【慧山】のことを想起する。ただ慧山に連絡を取るのは、静森の状況がもう少し落ち着いてからにしようと考えていた。
「うん、とりあえずこの玲瓏亭でテストするんだから上級武器で試すのが良いな。他の人が作った視円銃があるから、俺も今から視円銃を作ろう」
視円銃というのは、銃ではあるが銃術士の装備ではなく、暗殺者の装備だ。背後をスキルで取ってから、後頭部に突きつける、という形で使う。勿論【ファナティック・ムーン】においてはモンスターの後頭部だったわけだが、この状況下では人間同士で用いることもあるかもしれないから、暗殺者のスキルを上げている者には、護身用に配るのもありかもしれないと砂月は思った。
「一度家に戻ろう」
こうして砂月は、久しぶりに自分の家に一度戻ることに決める。
玲瓏亭を出て少し歩き、転送鏡の前に立って家へと移動すると、星空の下に浮かぶ島と、その上の風見鶏が立った一軒家――慣れ親しんだ自分の家が視界に入ってきた。
「やっぱり落ち着くなぁ」
そんなことを呟いてから庭で生産を行う。素材を全て取り出して、金鎚でそれをコンコンコンと叩いていくと、光が溢れて素材が合成され、目の前に拳銃に見える視円銃が出現した。銘が水ノ月と入っている。
「うん。三つくらいとりあえず作ろう」
砂月が作業を続ける。そうしていたら、手紙が届く音がした。
「ん?」
確認すると遼雅からだった。
『どこにいる? ちょっと会わせたい奴がいるから、時間作ってくれないか? なるべく早く』
その文面に丁度銃を作り終えた所だった砂月は、それらを鞄にしまってから、返信した。
『家にいるから、今から行くね。逆にどこにいるの?』
するとまたすぐに返事が来た。
『玲瓏亭で借りてる【Genesis】の部屋だ』
それを見てから、一人頷き、砂月は玲瓏亭へと戻ることにした。
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是非続きをお願いします🙇
ありがとうございます!
マイペースにですが今年も頑張って更新しようと思いますので、ご覧頂けましたら嬉しいです(*'-')!
本当に感謝です!
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