君は、お、俺の事なにも知らないし、俺だって君の事知らないのに結婚て……? え? それでもいい?

猫宮乾

文字の大きさ
27 / 34
―― 本編 ――

【027】焦燥感が滲む瞳(★)

しおりを挟む

 玲瓏亭へと戻ると、まだ静森達は帰ってきていないと分かった。普段通りのアバターにした砂月は、その足で滴のもとへと向かう。滴は玲瓏亭の縁側で、緑茶を飲んでいた。

「滴くん」
「あ、砂月。今日は見かけなかったけど、出かけてた?」
「うん。ちょっとね。あのさ――」

 砂月はハロルドのことを聞きたかったが、言い方を考える。

「――【Harvest】って生産者の集まりだと思うんだけど、医者って呼ばれるようなスキルツリーの上げ方をしてる人、何人くらいいるの?」
「たとえば僕だって砂月と同じでカンストしてるからそう呼ばれることもあるけど、専門外だなぁ。昔はうちのギルドにも医者専門の人がいたけど、抜けた」
「へぇ。誰々?」
「ハロルドっていって、ちょっと前までうちのサブマスだったんだけどね」

 上手く名前が出てきたので、砂月は滴の隣に座りつつ頷いた。

「今は何処で何をしてるの?」
「東の最下層で街医者をしてるらしい、って聞いたことがあるよ。一回だけ、素材の支援を頼まれた時に聞いた」
「支援はちょくちょくしてるの?」
「そんな余裕はありません。砂月とは違うんだよ」

 はぁっと滴が溜息をついた。

「【Harvest】として出来るのは、カレーを振る舞うのが精一杯かなぁ。それは【エクエス】も同じだと思うけどね」
「なるほどねぇ」
「各タウンの全員にというのは無理。自分達のことをするので精一杯だから、支援したいと思ったとして、ハロルドの行いに僕は賛同は出来ないな。みんなを助けるなんて無理なんだよ。それなら――出来る攻略の支援、ここでしか出来ないことを、【Harvest】としては手伝うかな。炊き出しも言われればそれまでだけど焼け石に水」

 滴の言葉ももっともなので、砂月は頷いた。
 砂月の倉庫を仮に開放したとしても、ハロルド達の食生活を維持するとすれば、そんなに長い間は出来ないように、砂月は考える。特に医薬品は、砂月としてはため込んでおきたいというのもある。静森の力になれるかもしれないからだ。ただ、期間限定のちょっとした炊き出し程度なら出来るかもしれないとは、砂月は思った。偽善かもしれないが、見過ごすことが苦しい。

 そこへ、静森達が帰ってきた。滴と並んで、砂月は出迎える。
 見たところ、静森と遼雅の二人に怪我はない。それに安堵していると、静森が砂月に歩みよってきて、柔和な微笑を浮かべた。心を掴まれる、ぐっとくる笑みだ。

「ただいま、砂月」
「おかえり、静森くん」

 静森が腕を伸ばしたので、砂月はその腕の中に収まる。そして静森の胸板に手を当てて、じっと静森を見た。果たして、静森ならば、どうするだろうかと思ったが、攻略とギルド管理で大変な静森に、事情を伝えるのは躊躇われる。

 遼雅と滴は、【Harvest】から出る聖職者について話し合うとのことだったので、砂月は静森と共に、食事をすることにした。静森がシャワーに向かったので、静森の部屋で待ちつつ、砂月は水の用意をしておく。そして静森が出てきたので、コップに入った水を渡した。

「生き返る」
「水、美味しい?」
「それもある。ただ砂月を見ていると、一日の疲れが取れるんだ」

 砂月の隣に座りコップを置いた静森が、隣から砂月を抱き寄せる。静森の肩に頭を預けた砂月は、嬉しさから両頬を持ち上げた。そうして暫し雑談しながら頭を預けていると、静森の部下達が食事を運んできた。

 今日も和食だ。西京焼きだ。
 二人で箸を手にする。いただきますと口にしてからだ。
 最初に手に取ったきのこ汁が美味しい。

「紫晶竜アメザスはどうだった?」
「やはり計画通り、【Genesis】の銃術士を【エクエス】の魔術師が補佐する形を検討している。火力面では不安は取り急ぎない。ただ、前衛役は本来銃術士のすべきことではないから、各々のタンク職――鉄槍士や豪剣士に担ってもらう形となるが、その二職と聖職者の数はやはり万全とは言えないな」

 考え込む顔をした静森は、それから小さく首を傾けて目を伏せる。睫が長いと、砂月は思う。真剣な表情をしている静森は、格好良い。これまではいつも自分の前では笑っているばかりだったが、ここへ来てからは、時折笑み以外も見るようになった。それは全体集会の時のような怜悧でどこか冷たい顔とはまた違う、静森の普段の表情に思える。少しずつ、そうした新しい横顔を知ることが出来て、砂月は嬉しくてたまらない。それだけ、気を許してもらえているのだと感じる。

「悠迅くんって豪剣士だったよね?」

 前に一緒にフィールドボスを討伐した時のことを思い出しながら、砂月が問いかける。すると目を開けた静森が頷いた。

「そうだ。だから最前列のタンクの指揮は悠迅が執る。その次からの火力を遼雅、後衛での補助の指揮を俺が執る。最寄りの教会に、【Harvest】の聖職者も待機する。死者が出ないとよいのだが――ただ、分からない。たとえば、腕を失った場合、教会で蘇生すれば元に戻るが、死ななかった場合は腕を損傷したままとなるようなんだ。切り離された腕があれば、医者スキルで縫合が可能のようだし、生産の他錬金術師のスキルツリーを全て上げていれば失っていても再生が出来るようでもある。だがどちらも時間がかかる。装備やエルスを気にせず、恐怖にも耐えうるならば、死した方が楽な場合もあるのではないかというのが、俺と悠迅の見解だ。遼雅も同じだった」

 つらつらと語った静森の声に、砂月は箸を持つ手を止めた。すると静森が慌てたような顔をした。

「食事時に話す事では無かったな。すまない」
「ううん。俺だったらどちらを選ぶか考えていただけだから。俺も教会での蘇生もありだと思う。一度試そうかとも思ってたくらいだから」
「試す? 絶対にやめてくれ。俺は蘇生すると分かっていても、砂月の死になど耐えられない」

 静森の声が深刻になった。今度は砂月が慌てる。

「ちょ、ちょっと考えてみたことがあるだけだから! やらない、やらないよ!」
「約束だ」
「う、うん」
「絶対に約束してくれ」
「わ、分かったよ」

 本気の顔をしている静森に気圧されて、砂月は大きく何度も頷いた。

 ――食後。
 同じ布団に入ると、静森が抱き枕をするのではなく、すぐに砂月にのしかかった。寝間着代わりの浴衣姿だった砂月は、驚いて目を丸くする。

「ンっ」

 すぐに荒々しく口づけをされ、砂月は息をするのも忘れた。舌で舌を絡め取られる濃密なキスの後、やっと呼吸の仕方を思い出しながら、砂月が目に生理的な涙を浮かべていると、静森が真剣な顔で、射貫くように砂月を見る。その表情に、砂月は見惚れた。

「絶対に、死なないでくれ」
「静森くん……ッ、俺は大丈夫だよ」
「俺が大丈夫ではないんだ」

 そう言うと、静森が砂月の首の筋に指で触れてから肩口に口づけた。ツキンと疼いて、キスマークを残されたのだと砂月は分かった。そのままするすると浴衣を開けられながら、今日の静森はどこか獣のように見えると砂月は思う。本日の静森は乱暴という意味では無いが性急で荒々しく、獰猛だ。

「ンぁ……」

 右胸の突起に吸い付かれる。いつもより強く食まれ、きゅっと砂月は目を閉じる。
 もう一方の胸は、親指と人差し指で抓まれ、朱く尖る。

「ぁあ……あっ」

 砂月が嬌声混じりの息を吐いた時、静森の手が砂月の陰茎に触れた。そして緩く扱いてから、右手で砂月の後孔を解し始める。一緒に暮らすようになってから頻度が増え、少しずつ砂月は慣れてきたが、まだまだ自分の体の反応についていけない。静森が巧みすぎて、いつも余裕が消えてしまう。

「ンぁ」

 静森がいつもより性急に砂月に押し入る。なにか焦燥感を抱いているような静森の目と、砂月の潤んだ目の視線が重なる。静森がその時、砂月にキスをした。腰の後ろに手を回す。膝を折り曲げた砂月は、脚を静森に絡めた。そして深く交わる。静森の動きは激しい。

「ああ、あ、あ、あ」

 砂月が声を零すのと同じくらい、静森も荒い吐息をする。

「ンぁ……だ、だめ、もうイっちゃ……ン――!!」

 感じる場所を容赦なく貫かれ、砂月は陰茎を静森の腹部にこすりつける形で放った。静森の引き締まった腹部を、砂月の放ったものが濡らす。砂月が上がった息を落ち着けたのを見計らい、静森が律動を再開する。

「ぁ、あ……あン――っ、ひぁ! ぁああ! ァ!」

 静森にしがみつきながら、砂月は再びもたらされた快楽に耐える。
 その後暫く交わっていて、静森が内部に放った時、砂月もまた果てた。

 事後、ぐったりとした砂月が必死で息をしていると、陰茎を引き抜いた静森が砂月の背に腕を回して抱き寄せた。正面から抱きしめられ、肩に静森の顎が乗る。

「砂月、死なないでくれ」
「静森くん……」
「怖くなってしまった」

 本当に心配させたらしいと気がつき、砂月は苦笑した。それから視線を合わせて、二人はまた唇を重ねた。

「うん。俺は大丈夫」
「そうか」

 そう口にすると、やっと静森が微苦笑した。やはり静森の笑顔の方が好きだと感じながら、その後はいつも通り、静森に横から抱き寄せるように腕枕をされる。その温もりが大好きだなと思いながら、静森のためにも危ないことはしないようにしようと考えつつ――あくまでも生命的に危なそうなことは止めようと誓いつつ、砂月は眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...