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―― 本編 ――
【023】伴侶が欲した情報(★)
しおりを挟むこうして話し合いの場が持たれたところで、砂月は静森の真実を知った。
「――とりあえず、今日は以上としよう」
攻略に関する話し合いに突入し、関係ギルドの二名も加わって二時間ほど話した時、一段落すると静森が述べた。一同が頷く。
「解散とする。出て行ってくれ」
その間も静森の腕の中にいた砂月は、それから耳元で囁かれた。
「砂月は残ってくれ」
「う、うん……」
正体が露見してしまった――と、なるのか、その動揺が戻ってきた。話し合いの最中は、意識を攻略についてになるべく集中させて忘れるよう試みていたわけであるが、今はまた露骨に静森の腕のぬくもりを意識してしまう。
「ま、まぁなんだ。これから宜しく頼む」
遼雅が言うと、立ち上がりながら悠迅が頷いた。
「別室に食事を用意させてあるから、親睦を深めよぉ、な?」
「あ、ああ」
「ほ、ほら! 夜宵も滴も、行こう。な? な?」
空気を読んでいる悠迅に、全力で遼雅が頷いている。しらっとした顔に戻った滴と、瞳を輝かせている夜宵も頷き、彼らはその和室を後にした。
こうして残された砂月は、そっと静森の腕に触れ、小さく振り返る。
「静森くんが……トーマ様だったんだね」
「これまで通り、静森と呼んで欲しい」
「うん。いきなり変えろと言われても、俺も困るよ。静森くんは静森くんだから」
砂月が微笑すると、視線を合わせた静森が頷いた。そして腕の力を少し緩めると、砂月の肩に顎をのせてから、より強く抱きしめた。
「砂月も、砂月だ。ただ、情報屋というのは、どういうことなんだ? 聞いても構わないか?」
「えっ、と……その……」
「話したくないなら構わない」
「……うん」
砂月は小さく頷いた。前に遼雅に、『伴侶は距離の取り方を見抜いている』というようなことを言われたが、実際にこの距離感が心地よいので、気を遣って貰ったのかもしれないと砂月は考える。
「その……俺、情報を集めたりするのが好きなんだ。だから、静森くんもなにか困ったら聞いて。俺、調べるの得意だから。色々知ってるし、教えられると思う」
「そうか。ならば早速教えて欲しい情報がある」
「なになに?」
砂月は静森の腕に両手で触れて、それから腕をほどいて静森へと向き直った。
そして静森と顔を合わせる。
「砂月が俺の何処をどんな風に好きか事細かに教えてくれ」
「っ!?」
「教えてくれるのだろう?」
綺麗な顔で静森が笑う。不意打ちの笑顔に、砂月は真っ赤になって震えた。
「そ、そんな情報は扱ってないよ!」
「つまり惚気は周囲には話さないと言うことか? 寂しいな」
「そ、そうじゃなく! 恥ずかしいから……第一……聞いてくれたら、情報屋としてじゃなくちゃんと話すよ。伴侶なんだから……」
声がどんどんか細くなった砂月に対し、静森が嬉しそうな顔を向ける。静森は砂月の両手に自分の手を重ねると、まじまじと砂月を見た。
「では聞かせてくれ」
「えっと……」
「悩まないと出てこないというのは寂しいものだな」
「そうじゃなくて……好きじゃない部分がないから、全部好きだから、何処といわれるとさ。細かく、かぁ。たとえば今、笑ってる顔も好きだよ」
「そうか。そういうことならば、嬉しい」
静森はそう言って柔和に笑ってから、顔を少し傾けて、砂月の唇に唇で触れる。
その柔らかな感触に、さらに砂月は赤面した。
「砂月、しばらくはこの玲瓏亭に滞在してくれないか?」
「うん?」
「一緒にいたい。会えないと思っていた分、会えた途端に離したくなくなってしまった。俺は仕事で家に戻れない日が続いているから、ギルドホーム内にもプライベートスペースを持っているんだ。そこに滞在して欲しい。夜はお前を抱きしめて眠りたい」
そう語った静森が真面目な顔をしたので、砂月は微笑を返し頷いた。
「それにこうなったからには、お前のことを俺の伴侶だと公表したい。お前は俺のものだと公的に宣言したい。俺のもの……無論砂月は砂月自身のものだが、俺は独占欲が強いんだ」
「う、うん。ちょっと照れるけど、静森くんがそうしたいなら、それでいいよ」
砂月は照れくさそうに笑ってから、静森の触れている手をきゅっと握った。
「では部屋へ案内する」
「うん」
こうして二人は立ち上がった。
静森が戸を開け、砂月が外へと出る。既に宵闇が訪れており、廊下は薄暗い。だが等間隔に蝋燭のオブジェがあるので、灯りはある。
砂月の腰に触れて促しながら、静森が歩く。砂月もゆっくりと促されて前へと進む。
「静森くんの和服姿、初めて見たけど似合うね」
「そうか。砂月の和服は、いつ見ても似合う」
「そ、そう?」
そんなやりとりをして歩き、角を二度曲がった奥の襖を静森が開ける。
そこには書き物机と箪笥、雪洞、布団が敷かれている部屋があった。畳の部屋だ。
お香の匂いがしていて、とても精悍な香りがする。
「ここが玲瓏亭での俺の部屋だ」
「静森くん、時々このいい匂いがしてたけど、このお香?」
「ああ、俺もこの香りは気に入っている」
「他には墨の匂いがした日もあったし、石けんの匂いがしたこともあったけど、どれも好きだよ」
「そうだったのか?」
「うん。細かく好きなところを挙げるのに、今俺は必死だけど成功してる?」
「大成功だ。嬉しい」
部屋の襖を閉めるなり、ぎゅっと静森が砂月を抱きしめた。そして腕の中で砂月を反転させると、今度は正面から抱きしめる。砂月もおずおずと腕を回し返す。
「砂月が現れたときは、驚きすぎて、怪我が無いかじっと見てしまった」
「ありがとう、やっぱり驚いたよね」
「驚いた部分と納得した部分があったが――あまり危ないことはしないでほしい。それだけは約束してくれ」
「うん。俺は自分に優しいから、危険なことはしないよ」
砂月がそう答えると、静森が砂月の頬に手を添え、目を閉じてから唇を重ねた。
今度の口づけは深く、静森の舌が砂月の口腔へと忍び込んでくる。ねっとりと舌を絡め取られ、追い詰められる。歯列をなぞられ、深々と貪られる内に、砂月の体の奥が熱くなった。
「砂月、すぐにでも欲しい」
「……俺も」
キスが終わってすぐ、獰猛な目をした静森に言われ、ぽつりと砂月は返す。
するとすぐ、静森が布団に砂月を押し倒した。
寝転がって、砂月は静森の首に両腕を回す。
それからは互いに脱がせ合った。その間、何度も何度もキスをしていた。
「っん……」
静森が挿入した時、砂月が甘い声を零す。いつもより性急に挿いってきた静森の陰茎が、砂月の中を擦り上げるように貫く。
「ぁァ……」
思わずぎゅっと締め付けてしまった砂月は、中に感じる静森の存在感に、喉を震わせ甘く喘ぐ。
「ぁ、ぁあ……あっッ……っ……」
「愛している、砂月」
「俺も静森くんが好き……あぁァ……あっ、ンん……ん!」
静森に抱きつきながら、砂月は与えられる快楽に浸る。
緩急をつけて動いていた静森が、次第に激しく打ち付け始める。
「あ、あ、あ」
太ももを持ち上げられて、斜めに深く貫かれると、感じる場所にダイレクトに刺激が響いてくるものだから、どんどん体が熱くなっていく。すぐに砂月の体はじっとりと汗ばんだ。綺麗な髪が肌に張り付いている。
「あっ……も、もう……イきそっ……んっ」
「俺はまだ足りない」
「ひゃっ!」
静森が砂月の腰に片方の腕を回し、少し体を起こして、砂月の胸の突起を噛んだ。
同時にぐっと内部では砂月の感じる場所を突き上げる。
「あ、ああっ……やっ、気持ちいい……んっぅ」
そのまま胸と中を同時に刺激され、呆気なく砂月は放った。そんな砂月の呼吸が落ち着くのを待ってから、静森が律動を再開する。
「ああっ、ン……んぅ……っハ」
この夜、砂月はその後二度ほど果てさせられ、意識を飛ばすように眠ってしまった。
――朝方。
砂月が起きると、隣に静森のぬくもりが無かったものだから、それが寂しく感じながら視線を彷徨わせた。すると書き物机の前で、筆を動かしている静森の姿が視界に入った。上半身を起こすと、布団が衣擦れの音を立てる。体は清められていた。
「砂月、起こしてしまったか?」
「ううん。静森くんは寝た?」
「ああ。先ほどまで砂月を抱きしめていた。ただ朝一番で、【Genesis】との連合の件を、正式にギルメンに周知することになるから、そのために配布する文書をしたためていてな」
「本当に、きちんとギルマスさんしてるんだね」
「本当に?」
「うん。前にも言ったけど、静森くん、俺には優しいからギルマスに思えなかった。でも、【エクエス】のギルマスっていったら、ワンマンって評判だったから、びっくりした。人は見かけによらないね」
「そうか」
「うん。でも静森くんならきちんとギルド、運営してるんだろうなって思うよ。実際、こんなに朝早くから仕事してるし。俺のこと抱きしめたまま会議をしてた時は大丈夫なのかなって思ったけど」
「砂月は特別だ」
静森はそう言って筆を置いてから、振り返ると微笑した。布団から這い出して、砂月は近づくと、書き物机の上の紙をのぞき込む。
「達筆だね」
「よく言われる」
静森の声に、砂月は『だろうなぁ』と思い純粋に頷いた。
「連合の件の最後に、俺の結婚報告も書き加えておいた。伴侶の名前は砂月だと書き添えた」
「えっ、本当にみんなに言うんだ?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど……連合の件は公的なもので、結婚は私的じゃないかな?」
「俺にとっては、比べようもないくらい砂月との結婚の方が大切な話だが、皆に話すには丁度いい機会だと思ってな。朝一で、臨時朝会を開くから、そこで配布しつつ口頭でも宣言する」
そう言うと、静森は砂月の頬へと手で触れた。
「砂月も俺のことを伴侶だと、皆に紹介してくれるか?」
「も、勿論。静森くんがいいなら……いいよ。でも、俺でいいのかな? 本当に。釣り合わないって思われないかな? 思われても、俺は静森くんが好きだから気にしないけどね」
「砂月以外に俺の伴侶など誰も考えられない。口出しするような者がいたら、すぐ俺に話してくれ。対処する」
「ありがとう」
そんなやりとりをしてから、二人は唇を重ねた。これが最初のおはようのチューとなった。
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