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―― 第四章 ――
【六十六】カウントダウン
しおりを挟む今年最後の夜が訪れた。この王国では、一月一日になる瞬間まで、カウントダウンをするという風習がある。そんな時、民衆の家族はそろって庭に出て、領地の空に浮かぶ魔法陣による数字の変化を眺める事が多い。貴族の場合は、数字が内部で煌めく宝玉を囲んで、室内で過ごす事も珍しくはない。今回、僕とクライヴ、そしてノアは、リビングでテーブルの上に浮かべた宝玉を眺めている。シャンデリアの魔導灯の光を調整すると、室内には空のような風景が映り、そこに外でも視認可能な数字が現れた。王国で産出される魔石が散りばめられているこの宝玉は、王家から渡されたものなのだという。
「ノア、眠くない?」
僕が尋ねると、あくびをしていたノアが、大きく頷いた。
「僕はとても眠いから、カウントダウンが終わったら寝る!」
そんなやりとりをしている内に、数字がついに十になった。
九、八、七、六、五、四、三、二、一――零を数えて新年が訪れると、室内が一度暗くなり、それから眩い光が溢れた。
クライヴが僕を抱き寄せたので、僕はそちらを見て目を細めて笑う。
「今年も、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
頷いたクライヴの瞳が優しい。
「僕もよろしく! 僕は寝る!!」
ノアは元気にそういうと、早々に室内をあとにした。残された僕とクライヴは、並んで座りながら、正面にある葡萄酒の瓶を見る。新年になった直後に、コルクを抜くのも風習だ。手を伸ばしたクライヴが、葡萄酒を開封する。そしてテーブルの上の二つのグラスに葡萄酒を満たした。
「俺はルイスと新しい年を迎えることが出来てたまらなく嬉しい」
「僕も……クライヴと一緒に居られて、とっても嬉しくて……」
そのままそれぞれグラスを手にした僕達は、瞳を合わせてどちらともなく両頬を持ち上げた。ゆっくりと葡萄酒を味わってから、僕達は寝室へと向かう。カウントダウンの夜は朝まで起きている事が多いのだけれど、同じくらい伴侶がいる場合は、二人きりで過ごす事も多いらしい。伴侶がいる状態で新年を迎えるのが初めてだから、伝聞でしか知らないのだけれど。
寝室に入るとすぐに、僕は後ろから抱きしめられた。
そっとクライヴの腕に触れ、僕は目を伏せる。
「《キス》」
飛んできた《命令》に、僕は頷き、クライヴに向き直った。そして何度も唇を重ねていると、そんな僕の服をクライヴが開け始めた。気づけばするすると脱がされていて、僕はそのまま寝台に促され、押し倒されていた。
「来年も、再来年も、ずっと一緒にいよう。死がふたりを分かつまで」
クライヴはそういうと、今度は自分から、僕に深いキスをした。
その唇の感触に浸りながら、僕は歓喜で瞳を潤ませる。
幸せでたまらない。
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