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―― 第四章 ――
【六十二】Switchの少年の問いかけ
しおりを挟む応接間に入ると、バーナードが紅茶のカップを三つ用意してくれた。
ミルクティーだ。
僕とクライヴは並んで座り、テーブルをはさんで対面する席に、ノアが座した。
「僕には聞きたいことがあったんだ。クライヴ殿下、ルイス様」
「なんだ?」
クライヴが視線を返すと、ノアが瞳を輝かせた。
「僕はSwitchだから、DomにもSubにも転化出来る。だから好きになった相手のダイナミクスにあわせたいとは思うけどな、どちらがお勧めだ?」
その声に、僕は目を丸くした。
――僕は、自分がSubに生まれてきた事を、結婚してクライヴと出会う前は、ずっと呪い嘆いていた。だが、ノアの声の響きには、Subを侮蔑する色は微塵もない。僕にとってSubに生まれた利点……そう考えた時、それはクライヴと出会えた事しか思い浮かばない。
「俺としてはそれこそ相手によるとしか言えないが、ノアはSubに転化して過ごしてもいいと考えているぞ」
「それは僕がDomでいると、ルイス様と一緒にいる時に心配だから以外の理由でか?」
「いいや? まさにその理由だ」
「……私情! クライヴ殿下は、伴侶に甘すぎる。伴侶以外にも甘くするべきだ。たとえば、僕にも優しくするべきだぞ!」
「人当たりはいいといわれる方だけどな?」
「ルイス様が絡まなければ、そうかもしれないな!」
ノアとクライヴはとても親しそうに話している。仲の良い兄弟を見ているような、そんな感覚がする。僕は末っ子だったから、ノアの年代の少年と話すのは、はじめてに近い。
「ルイス様は、どっちがいいと思う?」
「……そうだね……僕も……愛する相手に寄り添えるダイナミクスを選択するのがいいと思います。ノアは、気になる人や許婚はいるの?」
「んー……」
僕の問いかけに、ノアが両腕を組んだ。その仕草は大人びている。
「僕、初恋がまだなんだ。多分。まだ、クライヴ殿下が昔から言うような、誰かしか見えなくなるっていう体験がないんだ。クライヴ殿下は昔から、ルイス様の話しかしなかったけど、僕は基本的に僕の話をするのが好きだから、僕は自分自身がとても好きなんだ!」
素直で可愛らしい。僕はノアを見ていると、つい楽しくなってしまった。
「サーレマクス公爵家は、昔から恋愛結婚を推奨しているから、公爵家の父上と母上は、僕にも恋愛を迫る。でも、僕、枯れてるからな!」
大人びたことを述べる少年が、愛らしくて、僕はくすくすと笑ってしまった。
実際、国王陛下と王妃様の恋愛譚は、歌劇になったほどに、国内でも有名だ。
「だから許婚はいないんだ。そこは、王国最古の貴族家ではあるが、とても最先端だと僕は思うぞ! 貴族は、二言目には『許婚』『政略結婚』とばかりいうからな! 僕は寂しい独り身だけど、自分の事が大好きだから、今のところ悲しくはないんだ!」
ノアの言葉に、クライヴも笑っている。
こうして和やかに、お茶の時間が流れていった。
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