61 / 84
―― 第四章 ――
【六十一】王領への来客者
しおりを挟む聖夜が終わり、数日が経過した。十二月の二十八日である本日、以前クライヴが話していた客人が訪れた。馬車が停車するのを、城の玄関前で僕は、クライヴと並んでみていた。家紋が入っていて、僕はそれを過去に家庭教師から学んだ貴族の一覧で見た事があったため、すぐに出自を理解した。
――サーレマクス公爵家の家紋だった。
王妃様のご実家でもあり、国内ではヘルナンドのバフェッシュ公爵家を除くと、唯一の公爵家だ。ユーデリデ侯爵家の親類であるし、僕の生まれたベルンハイト侯爵家よりも家格が上の貴い家柄である。それも手伝い、幼少時から家紋だけは僕も教わっていた。
ただめったに表舞台には出てこないため、僕は王妃様やユーデリデ侯爵夫妻以外の関係者を見た事は一度もない。それは僕が家にこもっていたからではなく、昔から城の催し物などにもあまりサーレマクス公爵家の方はお見えにならないからだ。
公爵家は王家に次ぐ力がある、というのは間違いないとされているが、実態を僕は全然知らない。見守っていると、馬車の扉を御者が開けた。すると雪の上に飛び降りるようにして、一人の少年が地面に立った。すぐに扉は閉められ、他の人間の姿もない。
てっきり大人が降りてくると思っていた僕は、一人旅をしてきた様子の少年を見て驚いた。年齢は二次性徴手前に見えるから、十二・三歳といったところだろうか。黒い髪をしていて、その艶やかな質感が、クライヴに似ている。瞳の色は、エメラルドのような緑だ。
「久しぶりだな、ノア」
クライヴが明るい声をかけると、まだ背の低い少年が頷いてから、じっと僕を見た。直後、気おされそうになり、僕は思わず息を詰める。
――グレア……?
と、身構えた時、隣からクライヴが僕の肩を抱き寄せ、ハッとしたように前方にいたノアという名の少年も力を抑えた。
「失礼した。あんまりにも綺麗な方だったものだから、つい……」
「つい、で、俺の伴侶を支配しようとされては困るぞ」
「クライヴ殿下、そんなつもりは無かった。まだダイナミクスを測定されたばかりで、力の使い方は、習っている最中なんだ。許してくれ」
「許さない、俺は心が非常に狭いぞ」
「――そのようだな。今回の件で、クライヴ殿下を敵に回すと大変恐ろしいと僕は理解した。怖い怖い! 怖くてたまらないぞ! しかしクライヴ殿下は、本当に容赦がないなぁ。父上や兄上達も笑っていた。ひきつった顔で、な!」
ノアはそう述べてから、改めて僕を見た。そして――花が舞い散るような可憐な笑みを浮かべる。
「お初にお目にかかります、ルイス様。僕はサーレマクス公爵子息、三男のノアと申します。クライヴ殿下とは従兄弟という関係になります。ダイナミクスは、Switchだから、おびえさせたらすみません。でも誓って、ルイス様に酷い事をしたりはしない。以後、お見知りおきください!」
明るい声は少し高い。僕は我に返り、必死に何度も頷いた。
「ルイスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
僕に対して頷き返してから、改めてノアがクライヴを一瞥した。
するとクライヴが嘆息してから、気を取り直したように笑う。
「俺は敵には怖いと理解しているのならば、そのようにな」
「ああ、ああ! 分かっている。分かっていますよ、クライヴ殿下!」
「そもそも、俺は敵には容赦する必要性を感じないが、それは敵に対してだけだ。俺はそう、好戦的な方ではないし、ルイスの前で到着早々語るに相応しい内容だとも思わない。ノア、会話の技量も磨くように」
「怖い怖い! だから、怖い!」
「俺はルイスに怖がられなければ、それで構わない」
「のろけ! それは聞くのが面倒だ!」
「さて、歓迎の用意をしてあるよ。中に入ろう」
クライヴが僕の腰に腕を回し、背後に振りかえる。
こうして僕達は、城の中へと戻った。
敵、というのがどういった趣旨の話なのか、僕は分からなかったから、ノアの方が子供なのに難しい話をしていてすごいと思ってしまった。
74
お気に入りに追加
2,441
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど?
お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる