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―― 第四章 ――
【五十八】欲しいモノ
しおりを挟む本日の夕食は豚肉がメインだった。僕の食欲は、昨年の今頃に比較するならばかなり増加していると思う。ただあまり筋肉や脂肪がつきにくい体質のようで、相変わらず僕の体躯は貧弱だ。葡萄酒の味には少しずつ慣れてきたから、今もワイングラスに手を伸ばしている。クライヴの好きなものを、僕はもっと一緒に楽しみたい。
「そうだ、ルイス」
「なに?」
意識して敬語の癖を抜く努力をしている僕は、最近それには成功しつつあると感じている。僕が視線を向けると、ワインを一口飲みこんでから、クライヴが微笑した。
「聖夜のあと、年末に客人が来るんだ」
「そうなんですか」
この国では年末年始の新年期間は家族で過ごす事が多いけれど、まとまった休みがとれる時期でもあるから、他の領地に出かける貴族もいるとだけは、僕も知識として知っていた。ただ、僕の知識は脆弱だから、もっともっと学ばなければならないと思う。クライヴの伴侶として隣に立つためにも、執務上での知識を増すという意味でも。
「ただ、そう忙しない客人ではないから、ゆっくり過ごす事は出来る。年が明けたら、俺達は披露宴の準備が本格化するからな、年末年始は体をしっかり休めよう」
「はい」
僕は静かに頷く。自然と、両頬を持ち上げる事が出来た。最近本格的に笑い方を思い出した僕の体は、逆に気を抜くと、クライヴが視界の中にいるだけで頬を緩ませそうになる。穏やかな日々が幸せで、そこに愛する相手がいるのだから、嬉しさからの笑みはいつも浮かんできてしまう。
「と、ところで、クライヴ」
僕は会話を頑張る決意を新たにした。普段の僕は頷いて、聞いてばかりだから、もっと率先して話ができるように変わりたい。
「ん?」
「そ、その……えっと……今一番欲しいものは何?」
「俺の欲しいもの? ルイスはもう俺だけの存在だと考えているが、もっともっと君が欲しい。それ以外で? 今日の夕食も美味で、葡萄酒も潤沢にある」
「……僕はクライヴのものです」
想像していた通りの台詞だったが、僕は露骨に照れてしまって俯いた。
しかし僕は物品ではない。僕は僕自身のプレゼントの仕方が分からない。
「俺もまた、ルイスのものだ。ルイスが俺を欲してくれたら、それだけで幸せだよ」
「……うん」
「逆に問うが、ルイスは何か欲しいものがあるのか?」
「え?」
「なんでも必要ならば言ってほしい」
優しい声音に、僕は言葉を探して、唇を動かしてみたけれど、何も思いつかない。理由は簡単だ。
「僕はクライヴがそばにいてくれて、僕がおそばにいられたら、ほかには何もいりません」
「俺達は、同じ気持ちらしいな」
「あ……」
確かにそれもそうだと思ったら、僕は思わず微苦笑してしまった。
食後はそれぞれ湯浴みをしてから、寝室へと移動した。
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