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―― 第四章 ――
【五十七】聖夜の風習
しおりを挟む年末年始の新年期間が始まった。コーラル城の内装も、侍女や侍従達が飾り立てている。僕はエントランスホールに運び込まれた大きなもみの木を一瞥した。毎年コーラル城では飾り付けた木をエントランスホールに展示していたらしく、今年はその配置などを決めるのも、僕の役割となった。
新年期間の最初の行事は、この国の記念日の一つである『聖夜』がある。
聖夜はこの王国の初代国王陛下と王妃様の結婚記念日であり、恋人同士や夫婦・伴侶の日として広く知られている。風習としては、好きな相手とプレゼントを交換し合う日でもある。家族や友人に贈り物をする場合もあるが、それは義理的なもので、一番は、愛する相手へのプレゼントとなる。つまり、僕であればクライヴに何かを贈るという事で、今、僕にはその権利がある。
僕は首に嵌まる首輪に触れた。既にその存在感に慣れ始めていて、首輪がないと僕は不安だ。逆に首輪の存在を意識すると、クライヴが不在でも、遠くにいても、そばにいられるような、そんな心地になる。それがとても嬉しい。
エントランスホールの飾り付けが終わったので、僕は執務室へと戻った。
するとバーナードが、僕の前に紅茶の揺れるカップを置いた。
「ありがとう」
礼を言って受け取った僕は、ふと思いついた。バーナードならば、僕よりもクライヴの好みについて、詳しいだろう。まだ僕とクライヴは、話をしようと語ったものの、お互いの好みを深く知らなくて、僕にはクライヴについての知識が全然ない。僕はもっと、自分からクライヴに歩み寄りたい。いつも優しさに浸っているだけだから、もっと自発的に出来る努力をしたい。だから、クライヴが何を好きなのか、じっくりと知りたい。
「ねぇ、バーナード」
「なんでございましょうか?」
「クライヴの好きなものって、何かな?」
おずおずと僕が尋ねると、バーナードが一瞬動きを止めた。
勿論クライヴ本人に聞いてもよいのだけれど、贈り物の中身は当日まで秘密とする事も多いから、僕なりには周囲にリサーチしてみたいという気持ちがある。
「ルイス様のことでは?」
「え?」
「いいえ……そうですね……」
バーナードの声で我に返った僕は、首を傾げる。するといつもの通りの無表情で、執事は思案するような瞳をした。
「ルイス様がお選びになった品ならば、なんでもお喜びになると存じます」
「そ、そうかな……?」
「直接伺ってみては?」
「……気にしなくていいとか、なんでもいいっていう返事が来る未来しか見えないよ」
「まぁ、その通りでしょうね。そしてそれは、クライヴ様の本心だと存じます」
「形に残る品がいいとおもうんだけど……難しいね」
そんなやりとりをしながら、僕は紅茶のカップを傾けた。
その後、クライヴが帰還したという知らせを聞き、僕は出迎えのために席を立つ。
おかえりのキスをするためだ。
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