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―― 第三章 ――
【五十六】幸せな朝
しおりを挟む「あ……」
行為後、僕がしっかりと理性を取り戻した時、僕は寝室付属の浴室で、お湯の中で後ろから抱きしめられていた。
「戻ったか」
クライヴは僕のそう囁くと、後ろから顎を持ち上げた。そのままそちらを向かせられると、チュッと唇に触れるだけのキスをされる。
「可愛かった」
「……クライヴ」
「ん?」
「好き」
「知ってる。そうじゃなかったら許さない」
そんなやりとりをし、僕達は何度もキスをしてから、入浴を終えた。
今、僕の左手の甲には、契約の魔法陣の証である、星形の紋章がある。黒いそれを一瞥しながら、僕は着替えた後、おそろいの紋章があるクライヴの手を握り、食堂へと向かった。本日は晴れているのだけれど、寒さもひとしおだ。
「もうすぐ新年を迎える期間だな」
席に着くと、クライヴが本日のメインの皿を見ながら呟いた。確かに、十二月が迫っている。この王国の最終月においては、十二月二十日から新年の一月十日にかけてが、年末年始の新年期間と呼ばれている。基本的に、家族で過ごす祝日週間であるから、僕は過去、王都の侯爵家以外に出向いた事は一度もない。
「今年からは、俺と君で祝うひと月となるな」
「う、うん……」
「今年だけじゃない。来年も、再来年も、ともに家族として、伴侶として、俺は君と過ごしたい。ルイス、そばにいてくれるか?」
「僕も、クライヴの隣にいたい」
「ありがとう」
そんな話をしながら、パイ生地で包んだかぼちゃのシチューを、僕達は味わった。
ニューイヤーの最初のイベントは、伴侶の日と俗に呼ばれる、十二月二十四日の聖夜がある。それはダイナミクスは無関係の、恋人や伴侶、夫婦の祝祭だ。慣例として、好きな相手にプレゼントを贈るというような俗習があって、これは貴族間でも有名だ。僕も今年は何かを、贈ってみたい。去年までは、儀礼的にヘルナンドに贈っていたけれど、僕はもらった事は、実を言えば一度もない。そして、選んだこともない。僕の方からの贈り物は、いつも侯爵家の使用人が手配していてくれたからだ。だけど、今年は……愛するクライヴのために、自分で選んでみたいだなんて、そんな風に思う。僕は、手の甲の、契約魔法陣を一瞥し、幸せに思いながら直職のひと時を楽しむ。幸せが、怖くてたまらない。いつか壊れてしまったらと、そんな怯えがある。けれど、クライヴはきっとそばにいてくれる。僕はクライヴを信じたいから、不安に思う事すら、したくはない。僕はそれくらい、クライヴの虜であり――今ここに、一つの愛がある。
僕は、クライヴを愛している。そんな自分を、赦す事に決めた。
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