婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
43 / 84
―― 第二章 ――

【四十三】王領への帰還(★)

しおりを挟む

 王領センベルトブルクに帰還し、馬車を下りてコーラル城を見上げた瞬間、僕の両肩から、一気に力が抜けた。道中で黄色い銀杏の絨毯を目にし、クライヴ殿下と眺めていた頃から少しずつそれまでまだ残存していた緊張感が抜けはじめ、地に降りた瞬間僕は思わずほっとして大きく吐息をしてしまった。

 ――帰ってきた。
 とても強く、そう感じた。
 もうこここそが、僕の家なんだなと、そう実感した瞬間でもある。

「ルイス?」

 僕の背に手を触れて、クライヴ殿下が僕を見た。歩みを止めていた事に気づき、慌てて僕は足の動きを再開させる。ずらりと並んで出迎えてくれた使用人達は皆笑顔だ。その一人一人の表情にすら、僕は安堵してしまった。執事のバーナードは笑っていたわけではないが、それはいつもの事でもあるし、逆に彼に関してはいつも通りの無表情に安心した。バーナードに荷物を手渡したクライヴ殿下は、その後僕を見て、両頬を持ち上げる。

「少し休もう。食事はそれからだ」
「はい」
「今宵はシェフも張り切ってくれているようだしな。それまで俺達は、旅疲れを癒すとしようか」

 クライヴ殿下の声に頷き、僕達は一度二人の寝室へと向かってから、それぞれ別の浴室にて湯浴みをした。馬車の旅の疲れが溶け出していくようで、僕は掌でお湯を掬いながら、何度も何度も『帰ってきたんだ』と内心で考える。僕は家――コーラル城が、このように自分の大切な居場所になっていた事に、気づいていなかった。いつの間にか、僕の中で、この城こそが安心できる場所になっていた。それを得られた僕は、本当に幸せだ。

 入浴後寝室へと戻ると、既にクライヴ殿下の姿があった。
 クライヴ殿下は僕を見ると立ち上がり、両腕でぎゅっと僕を抱きすくめた。

「ルイス、《キス》」
「んン……」

 響いてきた心地の良い《命令コマンド》の声に、僕は多分蕩けた顔をしたと思う。夢中でクライヴ殿下の唇に、背伸びをしてキスをしていると、腰を抱き寄せられた。そしていつの間にか主導権を奪われ、より深く口づけされ、舌を絡めとられていた。

「《言ってくれ》、俺が好きか?」
「好き、好きです。大好きです」
「俺もだ、ルイス。愛している」

 そのまま僕達は、寝台へとなだれ込んだ。僕を押し倒し、クライヴ殿下が僕の服を乱していく。されるがままになっていた僕は、すぐに一糸まとわぬ姿になった。

「ぁ……」

 僕の鎖骨の少し上に、クライヴ殿下が口づける。ツキンと疼いて、キスマークをつけられた事が分かった。

「クライヴ殿下」
「ん?」
「もっと……」
「ああ、いくらでも」

 その後クライヴ殿下は、僕の全身にキスの雨を降らせた。そうしながら僕の後孔を解し、僕の体が熱を帯びて震え始めた頃に、屹立した先端をあてがった。

「んあ……ああ! ァ!」

 甘い挿入の刺激に、僕は涙ぐむ。硬い殿下の陰茎が、僕を穿っている。思わずクライヴ殿下に抱き着いて、僕はその快楽に浸った。

「あ、あ、あ」

 クライヴ殿下がゆっくりと動き始めると、僕の口からは勝手に嬌声が零れ始める。僕の腰を掴んだ殿下は、次第に抽挿を早くし、僕の感じる場所ばかりを突き上げる。

「んン――!!」

 そのまま穏やかに快楽を煽られて、僕は放った。クライヴ殿下も僕の中で果てた。
 その後は、一緒に寝転がり、僕は殿下の腕の中で瞳を潤ませる。幸せでならなくて、思わず隣から抱き着いた。ずっとこうして、二人でここにいたい。けれどそれを上手く言葉にできなくて、思わず《命令》されていないのに、キスをしてしまった。

「ルイス」
「はい」
「夕食をとったら、朝まで君にキスをしていたい。いいか?」
「……はい」

 僕が頬を染めて頷くと、そんな僕の髪を優しく撫でながら、クライヴ殿下もまた頷いた。
 このようにして、僕達は王領センベルトブルクへと帰還をした。
 その日の夜は、採れたての栗を用いたケーキが出てきて、皆が僕達の帰還を改めて祝ってくれた。そして朝が来るまでの間は、僕はずっとクライヴ殿下の腕の中にいた。幸せで幸せで、いつの間にかspaceに入っていた僕が目を覚ましたのは、翌日の日が高くなってからの事である。王都への旅は、このようにして幕を下ろした。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。 好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。 行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。 強面騎士×不憫美青年

悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。 子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。 ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。 神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。 公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。 それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。 だが、王子は知らない。 アレンにも王位継承権があることを。 従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!? *誤字報告ありがとうございます! *カエサル=プレート 修正しました。

愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹
BL
獣人の国にあって、神から見放された存在とされている『後天性獣人』のティア。 獣人の特徴を全く持たずに生まれた故に獣人とは認められず、獣人と認められないから獣神を奉る神殿には入れない。神殿に入れないから婚姻も結べない『半端者』のティアだが、孤児院で共に過ごした幼馴染のアデルに大切に守られて成長していった。 しかし長く共にあったアデルは、『半端者』のティアではなく、別の人を伴侶に選んでしまう。 傷付きながらも「当然の結果」と全てを受け入れ、アデルと別れて獣人の国から出ていく事にしたティア。 蔑まれ冷遇される環境で生きるしかなかったティアが、番いと出会い獣人の姿を取り戻し幸せになるお話です。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

処理中です...