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―― 第二章 ――
【四十一】国王陛下と王妃様からの呼び出し
しおりを挟む塔に戻り、その夜は抱きしめられて僕は眠った。嘗てだったらヘルナンドにあのように唐突な《命令》を受けたら、その夜はSub dropして影に飲まれていたと思うのだけれど、この夜、クライヴ殿下の腕の中にいた僕は、存分に甘やかされていたせいか、腕の温もりを感じたまま眠ってしまった。
翌朝、僕は額にキスをされて瞼を開けた。窓からは陽の光が差し込んでいる。
「おはよう、ルイス。朝食にしよう」
「はい……」
こくりと頷き、僕は起き上がった。そうして身支度をしてから、二人でテーブルへと向かえば、侍従達が用意してくれた朝食が並んでいた。既に僕には、食欲も戻っている。フワフワのスクランブルエッグを口に運んでいると、正面の席でクライヴ殿下が微笑した。
「王宮のシェフの腕前も中々だろう?」
「とても美味しいです」
頷いてから、僕は顔を上げた。そして優しいクライヴ殿下の眼差しに、胸が温かくなった気がした。ノックの音がしたのはその時で、何気なく僕が扉を見ると、「入るように」とクライヴ殿下が声をかけた。すると返答があり、近衛騎士が一名入室してきた。
「国王陛下と王妃様がお呼びです。朝食後、ぜひとの事です」
それを耳にし、僕は俯いた。やはりお叱りを受けるのだろうかと考える。クライヴ殿下にはお立場があるのに、僕を優先してもらった事が思い浮かんでくる。僕はこの優しさに守られてばかりで、本当に良いのだろうか。ご迷惑をおかけしてばかりだ。
「分かった、後程顔を出すと伝えてくれ」
クライヴ殿下が同意すると、近衛騎士が退出していった。その扉が閉まった音を聞いていると、クライヴ殿下がゆっくりとパインジュースの入るグラスを持ち上げる。
「王宮には、各地から食材が集まるから、様々な季節の品が食べられる。俺としては、王領のシェフが作った、その時々の食材を用いた料理も好きだが、たまにこうして味わうと、懐かしくなる」
クライヴ殿下には、気にした様子は微塵も見えない。僕は頷きながらも、震えそうになる体を制していた。
そうして朝食後、僕達は玉座のある謁見の場へと向かった。
そこにはゆったりと座している国王陛下と、傍らの椅子にいる王妃様の姿があった。
「おはようございます、国王陛下。王妃様」
クライヴ殿下が挨拶をすると、二人は微笑し大きく頷いた。僕も挨拶をする。
それが終わると、国王陛下が不意に吹き出すように笑った。
「聞いたぞ、クライヴ。昨日は派手にやったようだな」
やはりその話だと悟り、僕は蒼褪めた。
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