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―― 第二章 ――
【三十二】家族からの問いかけ
しおりを挟む僕が目を見開いていると、父上が腕を組む。
「事実なのかね?」
「そんな……僕は、そんな事は――」
「Usualである私やジェイスには、性差の知識はほとんどない。だが、一般的な理解として、Subは《命令》を欲するという知識はある。お前が、ヘルナンド卿の愛を求めるあまりに、支配されたいがために、それを確固たるものにしたいという理由から、肉体関係を迫っていたという話を耳にしても、私達には判断材料はなく、そしてそれは、この王都に住まう貴族の大部分と同じだ。皆、ヘルナンド卿の言葉を信じ、その上で、ヘルナンド卿の現在の伴侶への愛の深さを疑ってはいない」
つらつらと語った父上の声は、とても暗かった。
僕は何か言おうと唇を震わせる。
「事実であれば、クライヴ殿下にも申し訳が立たないと俺は思うよ。本来国外追放されてもおかしくなかったとすると、ルイスを引き受けてくださったクライヴ殿下に不誠実としか言いようがない」
兄上がどこか怒りの滲む声を放つ。兄上は、僕から見ても誠実な人だ。
「それもあるが……事実であるならば、クライヴ殿下にこのことが露見すれば、離婚もあり得る。王家を敵に回すことにもなる。ルイス、お前はこのベルンハイト侯爵家を潰すつもりか?」
二人は、僕が答えるのを待ってはくれない。いつもゆったりと耳を傾けてくれるクライヴ殿下とは異なる。誠実な兄と、世間体を気にする父は、双方ともに、僕を信じようとはしていないと、伝わってくる。それでも、僕は必死に伝える事に決める。家族に疑われることも辛かったが、僕は今、自分から踏み出さなければ何事も変わらないと、少し学んだからだ。
「違う……違います」
僕の振り絞ってはなった声音は、しかしながら非常に小さかった上、震えてしまった。
「ならば、ヘルナンド卿が嘘偽りを述べ、吹聴していると?」
兄上がじっと僕を見る。僕は勇気を出して、視線を返し、頑張って頷いた。
すると父上が溜息を零した。
「だとしても相手は、公爵家の跡取りだ。爵位が低い私達には、反論するすべはない」
「っ……」
僕は息を飲む。ヘルナンドのニタニタ笑う顔が、再び僕の脳裏を染める。
「父上、ルイスが無罪なのだとすれば、クライヴ殿下に状況をお話した方がよいのではないですか? 兄としては、俺はルイスが違うというのならば、それを信じたい」
兄上は嘆息交じりにそう述べた。
「お前はルイスに甘すぎる」
しかし父上は、信じてくれているのかいないのかも不明だが、諦観したような眼差しを、時折僕に向けるだけだった。
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