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―― 序章 ――
【八】初夜(★)
しおりを挟む会話は夕食の時も続いた。
僕はその後、ゆっくりとお湯に浸かった。こんなにも長い間、家族以外と話をするのは久しぶりだったし、家族と話す時も専ら僕は聞くのが専門だったから、少しだけ喉が痛む。口数が少ない僕の声を、ゆっくりとクライヴ殿下は待って、そして耳を傾けてくれた。僕の無表情にも何も言わない。
「どうして、あんなに優しいんだろう……僕を好きだというのは、本当なのかな……」
いまだ信じる事は出来ないが、本日は初夜だ。
僕は念入りに体を洗った。そして薄手の服に着替え、ガウンを羽織って寝室へと向かった。それぞれの私室はあるが、寝室は二人で一つなのだと聞いていた。扉にそっと触れて開けると、既にそこには、クライヴ殿下の姿があった。
「《おいで》」
「っ」
力が込められた声に、僕はビクリとしてしまった。
「ああ、悪い。つい《命令》を発してしまった」
「い、いえ……」
僕は慌ててふるふると首を振る。あんまりにも優しい声音の《命令》だったものだから、どちらかというと驚きの方が強い。僕は過去に、力で支配するような《命令》しか受けた事が無かったからだ。
「嫌なときは、『セーフワード』を使ってくれ。今後もたまに無意識に、《命令》を発してしまうかもしれない。なるべく気を付けるが」
「は、はい……」
答えつつも、僕は言われた通りに、クライヴ殿下の方へと歩み寄っていた。全身が、《命令》に歓喜している。僕の従いたいという本能が、僕の足を動かした。
「《命令》を使っても構わないか?」
「はい……」
「ありがとう、ルイス。それでは――《お座り》」
その言葉に、僕は毛足の長い絨毯の上に、ぺたりと座った。太股を下り、少し開いて座り、その間に両手をつく。オーソドックスな命令で、ダイナミクスが判明してすぐに、家庭教師の先生に見せられた解説書を見て覚えた姿勢だが、ヘルナンドは僕にこういった命令はしなかったから、胸がドクンとした。
「その体勢のルイスは、反則的に可愛いな」
「……」
「キスをしてもよいか?」
それまで寝台に座っていた殿下が立ち上がり、僕の前で屈んだ。初夜なのだし、僕に拒否権は無いと思い、小さく頷く。すると殿下に手を差し伸べられて、立つように促された。おずおずと立ち上がると、右腕で体を抱き寄せられ、左手で顎を持ち上げられる。
「ん」
そのままクライヴ殿下の唇が振ってきた。最初は優しく触れるだけで、続いて下唇を舌でなぞられたから、僕がうっすらと唇を開くと、口腔にクライヴ殿下の舌が挿入された。そして僕の舌を舌で追い詰め、絡めとる。僕は、人生で初めてキスをしたから、息継ぎの方法が分からない。だから、長い口づけが終わった時には、すっかり力が抜けてしまい、僕は殿下の厚い胸板に倒れ込んだ。
「本当に可愛いな、ルイスは」
クライヴ殿下はそう言うと、僕のガウンの紐をほどき、服を乱した。
僕の足元に衣服が落ちて、すぐに僕は一糸まとわぬ姿になる。すると再び顎を持ち上げられ、二度目のキスが降ってきた。
「優しくする」
微笑したクライヴ殿下が、僕の手を引き、寝台の上へと押し倒した。枕に軽く頭をぶつけた僕は、クライヴ殿下を見上げる。真正面に端正な顔がある。クライヴ殿下は僕の首の筋を指先でなぞってから、鎖骨の少し上を舐め、そして吸い付いた。ツキンと疼いて、キスマークをつけられたのだと分かる。
「ぁ……」
それから右胸の突起を唇ではさまれ、左手の中指と人差し指では左の乳首を挟まれた。左手を振動させるようにしながら、クライヴ殿下がチロチロと舌を動かす。
「んン」
少し強めに右の乳頭を吸われた時、僕の口からは、鼻を抜けるような声が零れた。それに気を良くしたように、暫くの間、クライヴ殿下は僕の両胸を愛撫していた。次第に僕の体はポカポカしてきた。
「ほら、朱く尖ってる」
漸く口を離した殿下に言われ、羞恥から僕は頬を染めた。
どこか獰猛な色を紫の瞳に浮かべたクライヴ殿下は、それから僕の陰茎に触れた。
「ぁァ……」
そして左手で緩く扱きながら、端正な唇で僕の先端を口に含んだ。最初は上下するように顔を動かされ、それから鈴口を舌で嬲られると、すぐに僕のものは、硬く反り返った。あまり自慰をした事も無かったから、初めて他者に触れられ、口淫される感覚に、僕の腰から力が抜けかけ、代わりに熱が集中し始める。
「ぁ、ぁ、ぁ……」
僕が喉を震わせると、チラリと殿下が僕の様子を窺うように見た。その瞳と目が合う度に、僕の中で羞恥心が膨れ上がっていく。思わず両手で、僕は唇を覆った。そうして出てしまいそうだと思ったところで、クライヴ殿下の口と手が離れた。もどかしさで僕が震えていると、寝台脇にあった香油の瓶を、殿下が手繰り寄せた。そして蓋を開けると、タラタラと手にぬめる液体をまぶした。
「ゆっくり慣らそうな?」
「っ、ぁ……」
クライヴ殿下の右手の人差し指が、僕の中へと入ってきた。第一関節、第二関節と進んできた骨ばった長い指は、根元まで入ると、僕の菊門を広げるように、弧を描くように動いた。それからゆっくりと抜き差しが始まった。香油のおかげか、痛みはない。緩慢な指の動きが続き、それから一度引き抜かれ、香油をさらに垂らして、今度は二本の指が入ってきた。その指先を押し広げるようにされ、僕の内壁が広げられる。それからまた、指を揃えられて、抜き差しされた。それが繰り返されて少しした時、クライヴ殿下が指先を折り曲げた。
「あ、あ!!」
僕は思わず声を上げた。ある個所を刺激された瞬間、腰に集まっていた熱が酷くなり、明確に射精したくなったからだ。
「ここがよいところか」
「ひ、ぁ」
クライヴ殿下がグリグリとそこばかり刺激する。そうされると、ジンと背筋を快楽が走り抜ける。
「前立腺だ。よく覚えておくといい」
「ぁ、ぁア……ひゃっ、ッ……あ、あ、ンんっ」
その後、指が三本に増えた頃には、僕は目を生理的な涙で潤ませていた。
「随分と解れてきたが、まだキツいかもしれない。だが――俺を受け入れてくれるか?」
「ぁ、ハ……」
「嫌か? 《教えてくれ》」
「嫌じゃないです、ぁあ……ああ……」
「そうか。ありがとう、ルイス」
そう言って指を引き抜くと、香油でドロドロになった僕の窄まりに、クライヴ殿下が巨大な先端をあてがった。それが、グッと挿いってくる。
「やっと先が挿いったぞ」
雁首までが挿いったところで、少し掠れた声で殿下がいった。硬い熱に、僕の体は熔けてしまいそうになる。それからまた、クライヴ殿下は挿入した。
「ほら、根元まで」
「んぅ……っッ……」
「辛いか?」
「へ、平気です……ぁァ」
どちらかといえば、強い快楽が怖くはあるが、体が辛いとは思わない。
するとゆっくりとクライヴ殿下が抽挿を始めた。最初は腰を揺さぶるようにしていたが、抜き差しが始まる。ギリギリまで引き抜いては、より奥深くまで陰茎を進める。そうされると、満杯の内側から、僕の全身に快楽が響いてくる。
僕は全身にびっしりと汗をかいた。僕の金色の髪が、肌に張り付いている。
どんどんクライヴ殿下の抽挿は激しさを増し、何度も何度も打ち付けられる。
「出すぞ」
「あ、ぁァ……ああああ――!!」
一際激しく打ち付けられ、中に白液が飛び散るのを感じた瞬間、僕もまたほぼ同時に射精した。必死で上がった息を落ちつけながら、僕は寝台に沈む。すると僕からゆっくりと陰茎を引き抜いたクライヴ殿下が、僕の隣に寝転がり、僕の額にキスをしながら、僕の髪を撫でた。
「悪いな、今日は余裕が無かった。ずっと夢見ていた事が叶ったものだからな」
「……」
「本当に可愛かった。これから、大切にする」
僕はそれを聞いてすぐ、寝入ってしまったようだった。
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