婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
8 / 84
―― 序章 ――

【八】初夜(★)

しおりを挟む





 会話は夕食の時も続いた。
 僕はその後、ゆっくりとお湯に浸かった。こんなにも長い間、家族以外と話をするのは久しぶりだったし、家族と話す時も専ら僕は聞くのが専門だったから、少しだけ喉が痛む。口数が少ない僕の声を、ゆっくりとクライヴ殿下は待って、そして耳を傾けてくれた。僕の無表情にも何も言わない。

「どうして、あんなに優しいんだろう……僕を好きだというのは、本当なのかな……」

 いまだ信じる事は出来ないが、本日は初夜だ。
 僕は念入りに体を洗った。そして薄手の服に着替え、ガウンを羽織って寝室へと向かった。それぞれの私室はあるが、寝室は二人で一つなのだと聞いていた。扉にそっと触れて開けると、既にそこには、クライヴ殿下の姿があった。

「《おいで》」
「っ」

 力が込められた声に、僕はビクリとしてしまった。

「ああ、悪い。つい《命令コマンド》を発してしまった」
「い、いえ……」

 僕は慌ててふるふると首を振る。あんまりにも優しい声音の《命令》だったものだから、どちらかというと驚きの方が強い。僕は過去に、力で支配するような《命令コマンド》しか受けた事が無かったからだ。

「嫌なときは、『セーフワード』を使ってくれ。今後もたまに無意識に、《命令コマンド》を発してしまうかもしれない。なるべく気を付けるが」
「は、はい……」

 答えつつも、僕は言われた通りに、クライヴ殿下の方へと歩み寄っていた。全身が、《命令》に歓喜している。僕の従いたいという本能が、僕の足を動かした。

「《命令コマンド》を使っても構わないか?」
「はい……」
「ありがとう、ルイス。それでは――《お座りニール》」

 その言葉に、僕は毛足の長い絨毯の上に、ぺたりと座った。太股を下り、少し開いて座り、その間に両手をつく。オーソドックスな命令で、ダイナミクスが判明してすぐに、家庭教師の先生に見せられた解説書を見て覚えた姿勢だが、ヘルナンドは僕にこういった命令はしなかったから、胸がドクンとした。

「その体勢のルイスは、反則的に可愛いな」
「……」
「キスをしてもよいか?」

 それまで寝台に座っていた殿下が立ち上がり、僕の前で屈んだ。初夜なのだし、僕に拒否権は無いと思い、小さく頷く。すると殿下に手を差し伸べられて、立つように促された。おずおずと立ち上がると、右腕で体を抱き寄せられ、左手で顎を持ち上げられる。

「ん」

 そのままクライヴ殿下の唇が振ってきた。最初は優しく触れるだけで、続いて下唇を舌でなぞられたから、僕がうっすらと唇を開くと、口腔にクライヴ殿下の舌が挿入された。そして僕の舌を舌で追い詰め、絡めとる。僕は、人生で初めてキスをしたから、息継ぎの方法が分からない。だから、長い口づけが終わった時には、すっかり力が抜けてしまい、僕は殿下の厚い胸板に倒れ込んだ。

「本当に可愛いな、ルイスは」

 クライヴ殿下はそう言うと、僕のガウンの紐をほどき、服を乱した。
 僕の足元に衣服が落ちて、すぐに僕は一糸まとわぬ姿になる。すると再び顎を持ち上げられ、二度目のキスが降ってきた。

「優しくする」

 微笑したクライヴ殿下が、僕の手を引き、寝台の上へと押し倒した。枕に軽く頭をぶつけた僕は、クライヴ殿下を見上げる。真正面に端正な顔がある。クライヴ殿下は僕の首の筋を指先でなぞってから、鎖骨の少し上を舐め、そして吸い付いた。ツキンと疼いて、キスマークをつけられたのだと分かる。

「ぁ……」

 それから右胸の突起を唇ではさまれ、左手の中指と人差し指では左の乳首を挟まれた。左手を振動させるようにしながら、クライヴ殿下がチロチロと舌を動かす。

「んン」

 少し強めに右の乳頭を吸われた時、僕の口からは、鼻を抜けるような声が零れた。それに気を良くしたように、暫くの間、クライヴ殿下は僕の両胸を愛撫していた。次第に僕の体はポカポカしてきた。

「ほら、朱く尖ってる」

 漸く口を離した殿下に言われ、羞恥から僕は頬を染めた。
 どこか獰猛な色を紫の瞳に浮かべたクライヴ殿下は、それから僕の陰茎に触れた。

「ぁァ……」

 そして左手で緩く扱きながら、端正な唇で僕の先端を口に含んだ。最初は上下するように顔を動かされ、それから鈴口を舌で嬲られると、すぐに僕のものは、硬く反り返った。あまり自慰をした事も無かったから、初めて他者に触れられ、口淫される感覚に、僕の腰から力が抜けかけ、代わりに熱が集中し始める。

「ぁ、ぁ、ぁ……」

 僕が喉を震わせると、チラリと殿下が僕の様子を窺うように見た。その瞳と目が合う度に、僕の中で羞恥心が膨れ上がっていく。思わず両手で、僕は唇を覆った。そうして出てしまいそうだと思ったところで、クライヴ殿下の口と手が離れた。もどかしさで僕が震えていると、寝台脇にあった香油の瓶を、殿下が手繰り寄せた。そして蓋を開けると、タラタラと手にぬめる液体をまぶした。

「ゆっくり慣らそうな?」
「っ、ぁ……」

 クライヴ殿下の右手の人差し指が、僕の中へと入ってきた。第一関節、第二関節と進んできた骨ばった長い指は、根元まで入ると、僕の菊門を広げるように、弧を描くように動いた。それからゆっくりと抜き差しが始まった。香油のおかげか、痛みはない。緩慢な指の動きが続き、それから一度引き抜かれ、香油をさらに垂らして、今度は二本の指が入ってきた。その指先を押し広げるようにされ、僕の内壁が広げられる。それからまた、指を揃えられて、抜き差しされた。それが繰り返されて少しした時、クライヴ殿下が指先を折り曲げた。

「あ、あ!!」

 僕は思わず声を上げた。ある個所を刺激された瞬間、腰に集まっていた熱が酷くなり、明確に射精したくなったからだ。

「ここがよいところか」
「ひ、ぁ」

 クライヴ殿下がグリグリとそこばかり刺激する。そうされると、ジンと背筋を快楽が走り抜ける。

「前立腺だ。よく覚えておくといい」
「ぁ、ぁア……ひゃっ、ッ……あ、あ、ンんっ」

 その後、指が三本に増えた頃には、僕は目を生理的な涙で潤ませていた。

「随分と解れてきたが、まだキツいかもしれない。だが――俺を受け入れてくれるか?」
「ぁ、ハ……」
「嫌か? 《教えてくれ》」
「嫌じゃないです、ぁあ……ああ……」
「そうか。ありがとう、ルイス」

 そう言って指を引き抜くと、香油でドロドロになった僕の窄まりに、クライヴ殿下が巨大な先端をあてがった。それが、グッと挿いってくる。

「やっと先が挿いったぞ」

 雁首までが挿いったところで、少し掠れた声で殿下がいった。硬い熱に、僕の体は熔けてしまいそうになる。それからまた、クライヴ殿下は挿入した。

「ほら、根元まで」
「んぅ……っッ……」
「辛いか?」
「へ、平気です……ぁァ」

 どちらかといえば、強い快楽が怖くはあるが、体が辛いとは思わない。
 するとゆっくりとクライヴ殿下が抽挿を始めた。最初は腰を揺さぶるようにしていたが、抜き差しが始まる。ギリギリまで引き抜いては、より奥深くまで陰茎を進める。そうされると、満杯の内側から、僕の全身に快楽が響いてくる。

 僕は全身にびっしりと汗をかいた。僕の金色の髪が、肌に張り付いている。
 どんどんクライヴ殿下の抽挿は激しさを増し、何度も何度も打ち付けられる。

「出すぞ」
「あ、ぁァ……ああああ――!!」

 一際激しく打ち付けられ、中に白液が飛び散るのを感じた瞬間、僕もまたほぼ同時に射精した。必死で上がった息を落ちつけながら、僕は寝台に沈む。すると僕からゆっくりと陰茎を引き抜いたクライヴ殿下が、僕の隣に寝転がり、僕の額にキスをしながら、僕の髪を撫でた。

「悪いな、今日は余裕が無かった。ずっと夢見ていた事が叶ったものだからな」
「……」
「本当に可愛かった。これから、大切にする」

 僕はそれを聞いてすぐ、寝入ってしまったようだった。



しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした

水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。 好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。 行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。 強面騎士×不憫美青年

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

処理中です...