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……第一章
親睦?
しおりを挟むさて、どうやって落とせばよいのか?
まずはやはり、親睦を深めるのがよいだろう。
フェル殿下が執務室へ行き、本日は指導するらしい宰相閣下が少し遅れて中に向かったあと、僕は宰相閣下の午後の予定に目をつけた。
宰相閣下は打ち合わせを兼ねない場合、基本的に持参したサンドイッチを食べる。今日は午後一番で打ち合わせがあるので、昼食時は準備時間となり、サンドイッチの可能性が高い。そして、フェル殿下の分のサンドイッチがあるとは考えにくい。
僕は節約のために、毎日サンドイッチなのだが、毎日作っているものだから、サンドイッチ力が上がってしまい、無駄にサンドイッチだけはうまく作れる。本日も美味な自信がある。
お昼になった時、僕は行動を起こした。
執務室の扉をノックする。
すると返事があったので、中へと入った。
「なにか用か?」
宰相閣下に聞かれたので、僕は可憐に見えると評判の微笑を浮かべた。
「そろそろ昼食時ですので、フェル殿下に差し入れをと思い、サンドイッチをお持ちいたしました」
すると窺うような顔で、フェル殿下が僕を見た。
「買ってきたのか? わざわざ」
「いえ、僕の手作りです」
「用意してあったということは、つまりはお前の昼食か? お前はどうするんだ?」
「僕は今からお昼休みですので、買いにいけます。殿下はお忙しそうだと思いまして……すみません余計なことを」
僕は悲しそうな顔をした。
なお宰相府には、毒の無効化の結界がはってある。だから毒見などは不要だ。
「フェル殿下、もらっておけ。理由は二つだ。そこにいるグレイ・エヴァンスのサンドイッチは美味い。もう一つは殿下の希望通り午後の我輩の打ち合わせへの同席をする場合、今から資料を読み込んでいただくゆえ、悠長に食事をする暇はなく、かつ打ち合わせは長丁場だから、腹になにも入れていないのは厳しいからだ」
宰相閣下がナイスアシストをしてくれた。僕の名前も強調してくれた。僕は昔、奥様と喧嘩してサンドイッチを作ってもらえなかった宰相閣下に、一回だけサンドイッチをあげたことがある。正確には買ってこいと言われたのだが、仕事が修羅場すぎて、いく暇がなく、自分のサンドイッチを献上した。まさかあの経験が役に立つとは!
「……宰相閣下がそこまで言うなら」
こうして僕は、フェル殿下にサンドイッチを渡すことに成功した。今後も餌付けは継続していきたい。ただ僕はサンドイッチ力はあるが、別に他の料理スキルに秀でているわけではないのが残念だ。仕方ない、クッキー作りの練習をするか……。
「俺は辛党だ」
すると勝ち誇ったような声が聞こえてきたので、僕はフェル殿下を見た。
「申し訳ないですが、そのサンドイッチは、普通のハムとレタス、もう一つはカツです。あまり辛くはないです。しょっぱくはありますが」
カツは昨日の我が家の夕食の残りで、僕の弟作だ。
「あ、い、いや、そうではなく、甘いものはめったに口にしないという話だ」
よくわからないが、偶発的にフェル殿下情報をゲットしてしまった。これはルークにも共有しなければ。差し入れはクッキーよりも、ポテトチップスが良さそうだ。
「グレイ、そろそろ買いに行かないと、昼を逃すぞ」
その時宰相閣下が言ったので、僕は一礼した。
「それでは、失礼致します」
執務室から外へ出るとみんなの視線が突き刺さった。僕は高嶺の花っぽいと言われる微笑を浮かべ、無言で席に戻る。
ルークはいなかった。どこだろうと思っていたら、パンを二つ買って戻ってきた。
「ほらよ」
「さすがは親友。あのね、辛党だって」
「やっぱりサンドイッチをあげたのか」
「取り柄はいかさないとね」
僕はパンを一つ受け取った。
「印象はどうだ?」
「顔と家柄と資産は良くて留学してたなら頭もいいんだろうけど、性格が疑問。国民に笑顔で手を振れるのかな?」
「なるほど」
ルークが隣の席で、パンの包みをあけながら頷いた。
「とりあえず、今日は帰りに出待ちして、印象付けをもっとしようかなって思ってるよ。ルークはどうする?」
「俺も出待ちする。儚い系美人のお前より、細マッチョ系男前の俺の外見の方が受ける可能性もある」
確かにルークもモテるので、僕は頷いた。
こうして僕達は、午後の仕事を乗り切り、宰相府一階の、王族の部屋に通じる道がある階段前に待機した。
中々出てこなかったが、僕達はねばった。同じように出待ちしている若い子は諦めて途中で帰ったものが半数だ。しかし彼らの中にもねばっている子もいた。
「あ、きた」
ルークがそう言ったのは、午後十時を回った頃だった。僕はそれとなくハンカチをとりだし、いかにも今帰るところだった風を装いながら、殿下の前に、うっかり気づかず落としたかのように、ハンカチを落とした。
「落としたぞ」
フェル殿下の声に僕は振りかえる。目があった。僕は可憐な微笑を心がけ、口元を綻ばせる。
「……いっそすごいな。わざとらしいのに、わざとらしさの欠片もなかった」
「わざとだなんて。うっかりしてしまっただけです」
僕が苦笑してみせると、フェル殿下が目を据わらせて、拾ったハンカチを僕に手渡した。
「俺は繰り返すが、結婚する気なんてないからな」
そしてそう言うと立ち去った。とりあえず印象付けは成功したといっていいだろう。
宰相補佐官の仕事は朝が早いので、この日はそのまま帰宅した。
すると弟のイクスが出迎えてくれた。イクスと僕はよく似ているのだが、僕と違いイクスは外面が悪い。ただし心は優しい。
「兄上、今日はシチューだよ」
「ありがとう」
「玉の輿計画は順調なの?」
「まぁまぁかな」
「いいかげんそんな下らない計画はやめにして、真剣に結婚相手をみつけなよ。いいじゃん、多少貧乏でも優しい方が。玉の輿にこだわらなければ、兄上ならすぐだよ」
そう言われても困る。実は僕は初恋もまだなのだ。人生が忙しかったので、宰相補佐官になるまで恋愛なんて考えたこともなく、実は今もピンと来ないので、基準はどうしても資産などになってしまう。
「そういうイクスこそ、そろそろ誰かいないの?」
「俺は好きな人がいるけど?」
「え!? 聞いてないよ!?」
「今はじめて言ったからね」
「誰? 僕の知ってる人?」
「秘密」
僕の知らないところで、弟は大人になっていたようだ。
その後、シチューを食べながら僕は追及したがかわされた。
「兄上。俺は思うんだけど、愛されて結婚するのもありだよ。なにも自分から追いかけずとも。兄上が気になってるけど、高嶺の花すぎて告白できないって層に狙いを定めなよ」
弟の言葉に、僕は唇を尖らせる。
「僕は玉の輿にのりたいんだよ!」
こうして夜がふけていった。
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