ブラックベリーの霊能学

猫宮乾

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新しい季節

【六十三】神楽①

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 ――その内に、九月も終わりに近づいた。
 この新南津市においては、九月には特殊な獅子舞が行われる。
 それこそが、この土地の人々にとっての、特に肝要な祭りだと、火朽は聞いていた。

「稲荷流の亜種みたいなんだ。ほら――」
「ああ、インドにこの国の神が狐を派遣し、人の代わりに悪魔を退治するようにという伝承の?」
「うん。火朽くんは、なんでも知ってるね」

 紬がそう言うと、穏やかに笑った。火朽は頷いて返す。

 夏祭りには、結局行けなかったに等しいので、この祭りにこそ出かけようと話をしている最中だ。火朽は郷土史の書籍で見た、獅子舞の面を思い出す。

 季節や面の形態は、獅子舞には様々なものがあるし、稲荷流のような、風流系に分類される特殊な各地域の伝統芸能が存在する事は、火朽も知っている。

 ただ、あの面は少し奇っ怪だった。
 大抵の面は、それこそ獅子を象っているし、龍や鹿といった例も耳にした事がある。
 しかし、この新南津市の神楽は、ただの白い面なのだ。

 目鼻が無い。ただし、口はあり――そこから、長い二本の牙が覗いている。
 頭部には、中央に長い一本の角がある。

 端的に言って、鬼、あるいはのっぺらぼう……そんな印象だが、火朽は牙を見てすぐに、吸血鬼を連想したものである。その面は、神隠れの面と呼ばれているらしい。

 是非とも実物を見てみたいと、火朽は考えていた。

 並びに、この地方でのみ、九月は、『神隠月』と呼ばれているそうだ。
 続く神無月あるいは神在月に先んじて、神々が旅立つ季節とされているらしい。

「夏祭りよりも、派手さは――ある意味でしかないし、出店とかは無いんだけど、見る価値はあると思う」

 続けた紬の声に、火朽は静かに頷いた。

 祖霊信仰にも関係し、神楽とも縁があるらしいが、この土地の習合っぷりは半端がないので、火朽はツッコミたいと思ったが、やめておいた。せっかくの、友達と出かける機会だからである。

 それから談笑しつつ、火朽は、手際良く待ち合わせ時間を指定した。
 紬はそんな火朽に、もう慣れている様子である。

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