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ブラックベリーの霊能学
【五十七】ブラックベリーと鸞①
しおりを挟む「だけど、驚いた」
次に僕が火朽くんと顔を合わせたのは、翌々日の事だった。
存在しないと表示されていたトークアプリが復活し、火朽くんから連絡が来たのだ。
それだけで嬉しくて、僕は呼び出されるがままに、すぐに出かけた。
「何がです?」
待ち合わせをしていたのは、cafe絢樫&マッサージというお店で、過去に一度だけ僕も入店した事がある場所だった。あの日は気分転換だったが、ローラというマッサージ師が死ぬほど下手だけれど、何故か終わった後は体が爽快になった事を思い出す。
「なんていうか……」
以前火朽くんが話していた、バイトをしているらしき、知っているcafeとはこのお店らしい。確かにショウケースの中身は空で、メニューには飲み物が、珈琲しか存在しない上……僕達がいるcafeスペースには、他の客の姿も無い。これは、他のお店と比較するべきだろう。
しかし、驚いたのは、その部分ではない。
「僕、狐火という現象が――つまり、火朽くんが、吸血鬼より強いっていうのに驚いたんだ。吸血鬼って、玲瓏院では鬼の一種とされていて、すごく強いと聞いているから」
僕の言葉に、何故なのかマッサージ側を一瞥してから、火朽くんが向き直った。
そして微笑した。なんだか、前よりも優しく見える。
「狐火、鬼火――他にも様々な名称があって、それぞれが違うという説もあれば、同一だという説もありますが……僕に限って言うならば、僕は、”狐火という現象を象っている”というのが正確です」
意味が上手く把握できず、僕は小首を傾げた。
「その上で、さらに人間の形になっているんです」
「じゃあ、元々は、何なの?」
率直に尋ねると、火朽くんが喉で笑った。
「死と再生と火を司る青い鳥――それが僕です。記憶している名前の中で、そうですね、よく通っているものとしては、鸞でしょうか」
本当に通っているのか、問い返したかったが、自分の無知を曝け出すようで恥ずかしい。
そんな僕を見ると、クスクスと笑いながら、火朽くんが続けた。
「『三才図会』でもご覧になって下さい。だいぶ近い記述があります」
「和漢三才図会の元ネタの方?」
「ええ」
曖昧に僕は頷いた。名前しか知らない……。
「僕自身、僕が正確にどのような存在であるかは分かりません。ただ――だからこそ、知りたいと思い、思った時に僕は生じ、今は師を見つけて、人の世界で暮らしています」
その言葉に、僕は首を傾げた。
「先生がいるの?」
「ええ。ブラックベリーを名乗っている、人間研究の第一人者が僕の師であり、人間ではない友人の一人です。彼は人間を対象にする前は、神霊を対象にしていた事があります。僕が出会ったのは、それがきっかけでした」
火朽くんはそう言うと、静かに笑った。
「特に、人間の霊能力を観察研究していて、ブラックベリーの霊能学という論文は、僕達のような人ならざるものの中では有名です。一部の人間も、手に入れた場合は参考にしているようですね。相応に尊敬を集めているのですが……まぁ、本人はいたって残念な、夏瑪先生と同類の吸血鬼です。まぁ、見境なく人を襲うわけではなくて、特定の人間を餌にしている分、いくらかはマシでしょうね。餌というのか、何というのか……今は、そこでマッサージ師をしていますが」
その言葉に、僕は驚いた。ローラという名前の青年の姿を漠然と思い出した。
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