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ブラックベリーの霊能学
【三十六】観察結果④
しおりを挟む見えていなかったのだとすれば、納得できる事がいくつもあった。
声も聞こえていなかったのだろう。
視線が合わないのも当然で、返事がないのも当然だ。
無視――そこに存在しないように扱っていたのではなく、紬が心から存在しないと確信していたらしい事実に、ようやく火朽はたどり着いた。
「あの、何点か伺わせて下さい」
「はい……僕は、手品に興味がないので、被験者が上手く出来ず、すみません……」
「……手品、は、ちょっと取り置いて下さい」
「はぁ……」
完全にどんよりしてしまった紬を見ながら、火朽が尋ねる。
「――まず、ブラックベリーの霊能学に沿って、根本的な点を伺いますが、玲瓏院くんは、この世界……いいえ、具体的に、か……ここ、新南津市に、吸血鬼や妖怪、怪異、アヤカシ、幽霊、そういった名称で括られる存在が、いると思いますか?」
すると紬が顔を上げた。
「え? いるわけないと思いますけど……?」
「では、僕は、何だと思いますか?」
「手品師さんですよね?」
「……手品師は忘れて下さい。今ここに、玲瓏院くんは何のために訪れたんでしたっけ?」
「それは火朽くんという目に見えない編入生との打ち合わ――……今は見えています。僕の力がいたらないばかりに……」
再び悲しそうな顔をした紬の前で、遠い目をしながらも必死に笑顔を浮かべて火朽は首を振る。
「いいえ。貴方には十分すぎる力があります。存在するだけで全てを吹き飛ばしていくかのような。足りないのは、頭の中身ですね」
「え?」
「失言でした。忘れて下さい。編入生というと……僕を、人間の大学生だと思っているという事で良いのですか?」
重要なことなので、じっと火朽は紬を見る。
「は、はい? 人間以外が大学に入学するというのは、ちょっと上手く想像ができないんですが……特に、警察犬の訓練学科? みたいなのは、無いですね。あれって大学の学科にもあるんですか?」
しかし、紬は首を捻っているだけだった。
その後、エレベーター前での反応や、以前腕を振り払われた件など、心に突き刺さってモヤモヤをもたらしていたトゲを、一本ずつ抜くように、火朽は事実確認をしていった。
そうしてよくよく話を聞いてみて、出した結論は――やはり、紬が己を見えていなかったというものである。
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