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火朽桔音という現象
【十六】興味、関心①
しおりを挟むキッチンのテーブルの上に、火朽は購入してきた食材を並べる。
それから真新しい冷蔵庫を見た。ローラが気分で、新調したらしい。
気分というのは、引越しらしい事をしたい、というような感覚だろう。
野菜室にレタスなどをしまってから、一度、火朽は自室に戻る事にした。
二階――火朽や砂鳥の私室があるフロアからも、店舗スペースに直通できる階段がある。
その前を素通りし、火朽は奥の新しい部屋へと入った。
綺麗に整理整頓されたその部屋は、誰が見ても大学生の部屋らしいだろう。
講義で用いる教科書類も、ルーズリーフを挟んだファイルも、クローゼットに並ぶ男子学生が好みそうな私服も、卓上ライトや観葉植物といった小物まで――誰を呼んでも恥ずかしくない部屋だ。
これまでにローラが、自分達……妖怪が暮らすこの家に、人間を招いた事は一度もないし、火朽とて、誰かを呼ぶ予定も特にはないが、今後は大学生として生活するのだからと、形から入った結果である。
「もっとも、僕が妖怪――狐火という現象であると気づくような人間なんて、いくら心霊大学とはいえ、一人もいないでしょうけどね」
退屈そうに、ポツリと火朽が呟いた声は、室内で溶けていく。
その後、形から入る主義の火朽は、住居スペースを見て回った。
いつもの常であるが、地下一階、地上三階建てのこの洋館において、地下と三階は、全てがローラの専用の場所だ。そこにだけは、特に立ち入らない。何故ならば、そちらはローラの私室というよりも、『研究室』だからである。
何を研究しているのか――過去に、火朽は尋ねた事がある。
「俺は、人間を研究してるんだよ」
ローラは、そう答えた。その後何度か、砂鳥が同じ質問をした時も同様だった。
その結果として、ローラは『研究室』に、ダーツやビリヤードを置いている。
火朽はそれを知っていたが、別段興味もない。
――火朽が興味を抱いているのは、人間ではない。人間の学問だ。
正直彼は、すぐに死んでしまう人間という生き物よりも、めったなことでは、『死』が訪れない自分達妖怪の方が、科学にしろ、どの分野においても、世界を進歩あるいは退化させる事が可能なのではないかと考えている。
だからこそ、人間の学問に興味があるし、勉強をしてみたいと常々考えていたのである。
その後、全てのスペースを確認し整えてから、火朽は、ローラと砂鳥の声がする店舗スペースへと向かう事に決めた。
二階の自分や砂鳥の私室も既に万全であるし、一階のキッチンやリビングといった住居スペースにも問題がない以上、それを報告するのが適切だと判断した結果である。
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