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イギリス産業革命と資本主義社会の進展
しおりを挟む藤瀬の独り言にお付き合いいただきありがとうございます
本編『近江の轍』も各商人の列伝的な話から、マクロ経済的視点や金融経済論的視点を織り交ぜた『経済大国ニッポン誕生の物語』へと展開していくわけですが、その前に比較経済論の対象としてイギリス産業革命を振り返っておきましょう
〇中世~1600年頃
まずイギリス産業革命の契機となったのはカトリックによるヨーロッパ支配の崩壊です
ネーデルランド独立戦争(八十年戦争)によって新教徒がイギリスに流入し、農村の労働力が供給過剰になります
一方、イギリスはそれまで毛織物を輸入に頼っていましたが、八十年戦争後は輸入を停止され、必要に迫られる形で国産毛織物が勃興していきます
当初イギリスで行われていた毛織物は農家の奥さん達による内職的な副業でした(家内制手工業)
しかし、農村の労働力が過剰となった事で専門の毛織物職人さんが年がら年中生産するようになります
そうすると原材料である羊毛が不足していきます
そこで、小規模に分割されていた農地を問屋(=領主)が取り上げて一つの広大な牧羊地として整備していきます(第一次囲い込み運動・エンクロージャー)
問屋さん達は囲い込んだ広大な農地から取れる羊毛を毛織物職人さん達に前貸しし、織賃を払って商品を作らせる方式に移行します(問屋制家内工業)
さらに生産効率のアップを模索した問屋さん達は、大きな建物(工場)を建ててそこに毛織物職人さん達を集めて流れ作業で毛織物生産をするようになりました(工場制手工業)
こうして、17世紀を迎える頃にはイギリスの毛織物は一大輸出産業へと変貌していきました
要するに生産方式の進展は『どうすれば効率よく商品(カネ)を作れるか』ということを追求した結果進展していくわけです
こうした生産→流通→販売→投資→生産という流れでカネを稼ぐ人たちを『産業資本家』と呼びます
一方イギリスは17世紀までに北部アメリカ大陸やインドなどの植民地を獲得しました
植民地との貿易や古くからヨーロッパ内での貿易を行い、商品流通によってカネを稼ぐ人たちを『商業資本家』と呼びます
つまり商業資本家は『安く買って来て高く売る人たち』と考えればわかりやすいです
産業資本家は商品の生産手段を持っているので、カネを稼げばまた投資して商品作ってさらに稼ぐということが出来ます
それに対し商業資本家は商品は買ってくるものなので、次に同じところに行って同じ値段で買えるかどうかはわかりません
商業資本家から産業資本家へと産業構造の脱皮を図る過程がいわゆる産業革命と呼ばれる一連の流れになります
〇1600年~1700年頃
さて、1600年に成立した東インド会社から持ち込まれた綿織物は毛織物よりも便利で、たちまち商業資本家たちによってイギリス国内に持ち込まれ、イギリスは一時莫大な貿易赤字を計上します
これはヤバいと思ったイギリスは、原材料である綿花を輸入して国内で綿織物を生産し、逆に綿織物を輸出品として貿易赤字の改善を図ります
生産方式は毛織物で確立していますので、すぐに綿織物はイギリスの主要産業の一つにまで成長しました
また、大航海時代によって新大陸やアジアから金銀が大量に流入し、一時ヨーロッパではインフレによる物価上昇が引き起こされます
度重なる戦争の為の戦費調達の必要性もあって新たに植民地から得た銀をガンガン貨幣に鋳造していきますが、1663年にギニー金貨が鋳造されるとシリング銀貨との交換比率が設定され、計数貨幣同士の金銀両建制が始まります
この交換比率は銀高金安だったため、銀を削り取ってギニー金貨と交換し、削り取った残りは銀地金として輸出するということで銀の流出と商品交換によらない貨幣の増殖(投機)が生まれます
対応策として銀貨の品位を落とす改鋳が検討されることになりますが、ここで激論を戦わせたのが『改鋳論争』です
銀地金としての価値以上の額面(名目)を持たせるべきではないというジョン・ロックと通貨としての名目価値を地金としての価値よりも優先させるという大蔵大臣のラウンズとの改鋳論争を経て、1717年に万有引力の発見で有名な英造幣局長のアイザック・ニュートンによって金貨1ギニー=銀貨21シリングという金銀比価を設定する金銀複本位制へと移行します
〇1700年~1800年頃
この頃には全ヨーロッパで移民が発生し、それに伴ってイギリスでは人口の増加に対応するため食糧生産を強化する必要に迫られます
そこで、再び農地を大規模に統合し、ノーフォーク農法によって食糧生産力を増強します(第二次囲い込み運動)
この第二次囲い込みで地主と小作農(農業資本家と農業労働者)という格差が現れる事と、都市部の人口を養いきれるだけの余剰生産を生み出します
食糧が完全に不足していれば略奪目的の戦争が発生しますが、充足していれば人々は合法的に、より豊かな食糧を得ようと模索します
その結果、都市部でも賃金を求めて労働力を提供する労働者と、生産設備を整備して労働力を買い入れてより大規模により効率的に商品を生産し、カネを稼ごうとする産業資本家のニーズが合致します
こうして農村部・都市部それぞれで貧富の格差が現れるようになります
労働者を使ってより効率よくカネを稼ごうとすれば機械化へと生産方式を傾けるのは自然の流れです
1733年
ジョン・ケイによって飛び杼が発明されます
飛び杼の発明によってそれまでの職人の経験による手作業で生産していた織物が、決められた手順通りにやれば均一の品質に仕上がるという『作業の機械化』が行われます
1765年
ニューコメンの発明した蒸気機関を発展・改良する形でジェームズ・ワットによる蒸気機関が誕生します
これによってそれまであった紡績機の動力を蒸気機関に変更することで飛躍的に生産能力を伸ばします
1779年
ジョニー紡績機や水力紡績機を経てクロンプトンがミュール紡績機を発明します
ミュール紡績機によって織物の大量生産に耐えられるだけの大量の糸の生産が可能になります
1785年
エドモンド・カートライトによって画期的な機械式織機である力織機が発明されます
また、蒸気機関の発明と石炭をコークス化する技術が発明されることで水力や人力を動力源としていたエネルギーが石炭という新たなエネルギー源へと発展します(エネルギー革命)
あとは蒸気機関の発展・応用によって蒸気鉄道・蒸気船などの輸送手段にも技術革新がもたらされます(交通革命)
〇1800年以降
この後、イギリスの産業革命はヨーロッパやアメリカに伝播し、世界の先進国は工業国へとクラスチェンジを果たします
金融制度においてはニュートンの金銀比価の設定以降、事実上の金本位制が始まります
ヨーロッパ各国はラテン通貨同盟などで銀本位制や金銀複本位制を維持しようとしますが、産業革命によって巨大化する大英帝国の経済圏に飲み込まれるように続々と金本位制へと転換していきます
ロンドンが国際金融センターとなり、金貨との兌換を約束したイギリスポンドは国際決済の手段となり、事実上金本位制下での世界の基軸通貨としてポンドが機能していくことになります
そして、ポンド建て国債などで各国は資金調達を行い、国債によって富を増強して重工業を興し、より沢山の資源を必要として世界的に資本主義経済を広げていきます
帝国主義時代の幕開けです
以上のように産業革命と言われる技術革新と資本主義社会が進展するわけですが、この前提となっている条件は
『資本の集中と貧富の格差によって労働力を売り買いできるようになること』
『食糧生産の向上で農業従事者以外にも供給できる余剰生産力が生まれること』
この二点に集約されます
集中された資本が商品生産の効率化を求める過程で新たな科学技術が生まれ、また金融システムが整備されていくことでより商品流通が活発化し、より一層の資本の集中を見るという循環の果てに現在の世界が生まれていると考えていいでしょう
つまり産業革命の本質は、金融システムの発展と生産システムの発展であると考えられます
では、我らが日本は江戸時代にこの二つをどのように発展させていったのか
本当に日本は鎖国によって遅れた国になり果てたのか
これからの『近江の轍』によってその辺を観察していきましょう
参考文献
『貨幣論』 堀江帰一 著
『イギリス史』 川北稔 編
『円の誕生―近代貨幣制度の成立―』 三上隆三 著
他多数(基礎理論部分は大学の時に読んだ物がベースで、著作名覚えてません。申し訳ありません)
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