40 / 43
第38話 特攻作戦
しおりを挟む「ねぇ。何か味、変じゃない?」
同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。
シャクッ。
私も一口、パイをかじる。
最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
ん~。
言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
モニカの皿は既に空っぽだった。
「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。
既に二皿目ももう完食。
いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。
「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。
「えっ……薬品!?」
イヤな予感が、一瞬走り抜ける。
……この展開って、いつものパターンじゃ……?
「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?
言おうとして、私は愕然と気がついた。
なんか……顔が熱い。
いや、顔だけじゃない。
身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
これ、絶対変だ!
パロマの奴!またやったわね!
自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。
「ダルバぁ~」
目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。
「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。
ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。
「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
いきなり、低い声でモニカが呟いた。
「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
モニカの目がすわっている。
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
「……」
それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
……何なの?この空間は。
「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」
「正気に戻りなさい! モニカ!!」
私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!
「うぎゃぁっ!!」
ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。
……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。
「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。
「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。
なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。
……本当に何してくれてんだか、パロマは。
私、これから出かける予定があるのに。
「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。
「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。
……本来は美味しいレモンパイなのに。
あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
同僚の黒髪ロング、サッパリお姉さん系メイドのダルバはパイを大胆に口に放り込み、ゆっくりと咀嚼しながら私、マリン・ハーランドを見た。
シャクッ。
私も一口、パイをかじる。
最初はサクサク、後で口の中でジュワ~っととろけるシェフご自慢の生地の歯触りはいつもとなんら変わりはない。
ん~。
言われてみると、少しレモン風味が強いような……?後味もいつもよりも、しつこく口の中に残っているような気がする。
「えー、何が?」
「モニカ! あんた、もう食べちゃったの?」
モニカの皿は既に空っぽだった。
「おかわりいいかなぁ?」
「良いけど、後で夕飯入らなくなっても知らないよ」
「これぐらい大丈夫だって」
私も嫌いではないが、カフェ巡りが趣味のモニカは特にスイーツに目がない。
既に二皿目ももう完食。
いや、ほっといたら一人で全部食べちゃうかも……。
「気のせいかもしれないけど、レモンがいつもより濃くて、なんか薬品臭い気がしない……?」
ダルバの言葉に私はフォークをカラン、と取り落とした。
「えっ……薬品!?」
イヤな予感が、一瞬走り抜ける。
……この展開って、いつものパターンじゃ……?
「さっき、これ。パロマが運ぼうとしていたって執事長、言ってたわよね?」
ダルバも皿を置いて私を見た。
「まさか……」
……薬物混入未遂じゃなくて、事後だったとしたら?
言おうとして、私は愕然と気がついた。
なんか……顔が熱い。
いや、顔だけじゃない。
身体の中心から、モヤモヤとした熱が広がってきていた。
「うぇっ……!」
これ、絶対変だ!
パロマの奴!またやったわね!
自分の身体を思わず抱きしめた私の耳に、トロンとしたモニカの甘ったるい声が……。
「ダルバぁ~」
目の前に座っていたモニカが背後からガバッとダルバに抱きついていた。
「ちょっ……やめ! モニカっ!!」
イケイケメイド、モニカは実はこの邸一番の怪力メイドである。
ダルバにもそれなりに体術の心得はあるが、物凄い力で背後から押さえ込まれ、身動きがとれない。
「ダルバもマリンも良いわよねぇ……」
いきなり、低い声でモニカが呟いた。
「……何が?」
「こんなに! こんなに二人ともデカい胸があって!」
モニカの目がすわっている。
「ちょ、あんた何して……、うわぁぁぁっ!」
両手で掴んでも溢れるほどのダルバの巨乳をメイド服の上から、モニカはもニュッと鷲掴んだ。
「あたしなんか! あたしなんか何枚パットいれてもバレちゃうのにぃぃぃ!!」
「……」
それはパットを詰めすぎて日頃からズレてるからだよ、とツッコミたかったが、あえて沈黙する私とダルバ。
彼女のAカップに対するコンプレックスは根深い。明らかに様子がおかしい彼女を刺激するのは得策ではないだろう。
静寂の中、無言で胸を揉むメイド。
……何なの?この空間は。
「あたしにも、あたしにもコレ、ちょーだいよぉぉぉ!」
ダルバのメイド服の胸元からグイッと強引に手を突っ込むモニカ。
「わっ、バカ! 痛っ、マリンっ、助けっ」
「正気に戻りなさい! モニカ!!」
私の渾身の回し蹴りが、モニカの側頭部にヒット!
「うぎゃぁっ!!」
ガードも出来ず、まともにくらったモニカは悲鳴をあげて床に昏倒した。
……白目剥いて転がってるけど、モニカは身体が丈夫なのが取り柄!大丈夫でしょ……。
「……ゲホっ。サンキュー、マリン」
胸だけでなく、肋骨ごと押し潰されていたダルバが激しく咳きこんだ。
「大丈夫?ダルバ」
「あぁ、骨は無事だよ。ったく、相変わらずのバカ力なんだから。あ~あ、痣になっちゃってるじゃないの……」
ダルバは自分の胸をのぞき込み、ため息をついた。バッチリ、モニカに掴まれた五本指の痕が白い胸についてしまっている。
「マリン。あんたは大丈夫?」
「えっと……、半分ぐらい食べちゃった、かな」
以前、パロマに媚薬を盛られた時と似た感覚が沸き上がってくる感じはあるが、あの時ほどの激しい衝動性はない。
なんか、モヤっとしたものが奥からジワジワとクる感じだ。他事をしていれば紛れる程度の、ムラムラ感。
……本当に何してくれてんだか、パロマは。
私、これから出かける予定があるのに。
「あたしは食べたの一口だけど、それでも何かちょっとモヤモヤするわ~。今回は何が入ってたのかしらね?」
「う~ん。こないだみたいな自白剤でもないし。いつもの催淫剤にしては即効性が薄い気がする。……あえていうなら、怪しい発情系?」
「絶対、あの子。どっかで隠れてあたしらを観察してると思わない?」
ダルバはキッとした表情で部屋中を見回した。
「間違いないわ……」
「とりあえず、片付けよっか」
私たちは深い溜め息をつくと無言で皿に残ったパイを片付けはじめた。
……本来は美味しいレモンパイなのに。
あぁ、もったいない。覚えてなさいよ、パロマ!
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
妖刀 益荒男
地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女
お集まりいただきました皆様に
本日お聞きいただきますのは
一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か
はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か
蓋をあけて見なけりゃわからない
妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう
からかい上手の女に皮肉な忍び
個性豊かな面子に振り回され
妖刀は己の求める鞘に会えるのか
男は己の尊厳を取り戻せるのか
一人と一刀の冒険活劇
いまここに開幕、か~い~ま~く~
黄昏の芙蓉
翔子
歴史・時代
本作のあらすじ:
平安の昔、六条町にある呉服問屋の女主として切り盛りしていた・有子は、四人の子供と共に、何不自由なく暮らしていた。
ある日、織物の生地を御所へ献上した折に、時の帝・冷徳天皇に誘拐されてしまい、愛しい子供たちと離れ離れになってしまった。幾度となく抗議をするも聞き届けられず、朝廷側から、店と子供たちを御所が保護する事を条件に出され、有子は泣く泣く後宮に入り帝の妻・更衣となる事を決意した。
御所では、信頼出来る御付きの女官・勾当内侍、帝の中宮・藤壺の宮と出会い、次第に、女性だらけの後宮生活に慣れて行った。ところがそのうち、中宮付きの乳母・藤小路から様々な嫌がらせを受けるなど、徐々に波乱な後宮生活を迎える事になって行く。
※ずいぶん前に書いた小説です。稚拙な文章で申し訳ございませんが、初心の頃を忘れないために修正を加えるつもりも無いことをご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる