左義長の火

藤瀬 慶久

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山形屋の大番頭

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「起きて」

 甚兵衛は何度目かの声に耳を傾けながら、心地よい眠気に誘われてまどろんでいた。
 何度かまぶたを開けようとするが、強烈な眠気は強引にまぶたを押し下げて来る。その誘惑に勝てず、とりあえず曖昧な返事を返した。
 返事が言葉になったかどうかは分からないが、甚兵衛にはどうでもよかった。

 だが、そんな甚兵衛の頭上に突然怒鳴り声が降って来た。

「こらぁ!甚四郎! 怠けてたら旦那さんに言いつけるよ!」
「わあ! 堪忍や!」

 慌てて飛び起きた甚兵衛の横で、妻の多恵が頬を膨らませて仁王立ちしている。部屋の中には明け方の薄明かりが差し込んでいた。

「やっと起きた。今日から別家出勤やろ。ええ加減顔洗っといで」

 言い捨てて多恵は再びかまどの前に戻る。背には数えで三歳になる次男の亀助を背負っていた。甚兵衛の傍らでは長男の甚吉がまだグーグーと眠っている。

 のそのそと起き出した甚兵衛は取り井戸に行って顔を洗った。
 視線を空に向けると、東の空から鮮やかな青色が急速に広がって来ている。雲一つ無い晴天が目に眩しかった。

 ――今日もいい天気だ

 顔を洗って身支度を整えると、山形屋の屋号が染め抜かれた紺色の羽織を羽織る。退役登を済ませた、別家だけに許された羽織だ。
 身支度を整え終わった甚兵衛は、竈の前に立つ多恵に声を掛けた。

「じゃあ、行ってくる」
「は~い。行ってらっしゃい」

 子供ができると女は変わると言うが、多恵も最近では子供中心の暮らしで新婚当初の甘い関係は鳴りを潜めている。今では送り出す時に振り向きもしない。
 やむを得ないと理解はしつつも、どこか釈然としない気持ちのまま甚兵衛は大杉町に向かって歩き出した。

 町の通りでは商家の丁稚達が起き出して掃き掃除をしている。八幡町のいつもの朝の光景だった。

 店に着くと早速帳場に座って帳簿を確認する。新入りの丁稚が拭き掃除を行っていたが、帳簿に集中しだすと途端に周りの声が耳に入らなくなった。

 江戸店では伊助が二年前から江戸支配人を務め、昨年は年間の売上がついに二千貫を超えた。頼りないと思っていた伊助の手腕に驚くと共に、江戸での業績の拡大は八幡町内での山形屋の地位もますます押し上げており、大番頭を務める甚兵衛の肩にもズシリと重みを感じさせた。

 もっとも、伊助本人は江戸で別家している嘉兵衛や茂七からさんざんに苛められて辛いと文を寄越している。支配人になったとはいえ、いつまでも先輩に頭が上がらないのも奉公人の悲しい所だ。

 ふと帳簿から顔を上げると、掃除中のはずの丁稚が厨を覗き込んでいるのが見えた。つまみ食いでもしに行っているのだろう。一度叱っておかねばならんと腰を浮かしかけるが、丁稚が後ろから下女に頭を叩かれているのを見て動きを止めた。

 ――まあ、いいか

 甚兵衛は妙に微笑ましい気持ちになって帳場に座り直した。

 再び書類に目を落とし、今度は今日の商談予定を確認する。
 朝一番から目利きの者と品質管理についての打ち合わせが入っていた。午後からは堅崎藩の勘定方を務める能見山のみやまという武士と面談の予定が入っている。その次は上田藩の勘定方、岡山藩の勘定方など。
 いずれも借金の申し込みだ。相変わらず武士はカネに苦労しているなと思うとため息が出る。

 ふと思い出して裏庭へ向かった。裏庭では丁稚が蚊帳を広げて汚れを払っているところだった。

「おう、その蚊帳な、そのままにしといてくれ。朝飯の後で目利きに確認させるさけな」
「へえい」

 間延びした返事を背中で聞きながら、そのまま朝飯を食いに広間へと向かった。

 朝食が終わり、暖簾を出して今日の営業を開始する。一月の休みで鈍った勘を取り戻しつつ仕事を捌いていくと、あっという間に午後になった。

 店内に目を配っていると、堅崎藩勘定方の能見山が暖簾をくぐって来るのが見えた。
 帳場を別の者に任せ、商談予定の座敷に向かう。

 途中で丁稚に指示を出した。

「奥のお座敷、お茶出してくれ。竜胆やさけな」
「へえい」

 相変わらず間延びした返事を聞くと、そのまま座敷の前に行って室内に声を掛けた。

「失礼いたします」

 返事を待たずに襖を開けて中に入ると、能見山が端座したまま一礼をしてくる。能見山とは何度も顔を会わせているので、ある程度気心は知れていた。

 甚兵衛が対面に座ると、おもむろに能見山が話し始めた。

「番頭殿には常々我が藩の産物を扱って頂き、感謝の言葉もござらん。さらには此度はこのような頼み事で合わせる顔が無い事も承知しておる。だが、そこを曲げてお願いに上がり申した。この能見山たっての願いでござれば、どうかお聞き届けいただけませぬか」

 そう言って能見山が両手を着く。堅崎藩からはこのほど五千両の借入を申し込まれていた。

「いやいや、お手をお上げ下さい。お武家様にそのような事をされると手前どもも困り果ててしまいまする」

 甚兵衛がそう言うと、能見山が素直に頭を上げる。能見山の物言いは大仰なものだったが、今では一種の儀式のようなものと化している。
 つまりは、毎度のことだった。

「して、此度はどのような事情でこういう仕儀になったのです?」
「お恥ずかしい話であるが、我が藩では三年前の地震からの復旧が立ち遅れており申す。その上、近頃では物成も良くなく、米の値も年々下がっているのは御承知の通りである。
 家中からは半知借上げなどを致しておるが、それでも六月の支払の目途が付かず、行き詰まっており申す。何卒、借入をお願いできぬでしょうか」

 そう言って再び平伏の姿勢になろうとする能見山をなだめすかして上体を起こさせる。目を見て話さねば決められるものも決められない。

「困りましたな。先年の地震では八幡町も大きな被害を受けました。江戸でも火事に見舞われ、我らも勝手元は苦しくなっておりますし……」

 甚兵衛が惚けたようにそう言うと、能見山の口元に力が籠った。
 話の途中で丁稚が茶を出したが、能見山は茶に手を付けようともしない。だが、丁稚が部屋を下がる時に一礼したところを見ると、まったく周りが見えなくなっているわけでもないらしい。まだ冷静さを保つ余裕があるのかと甚兵衛は値踏みした。

 丁稚が退出すると、能見山は懐から書付を取り出した。

「これは、某の独断で藩の財政状況を書き出して参った。かくなる上は山形屋殿に隠し事は一切致さぬ。これを持って、どうかご検討いただけまいか」
「拝見します」

 そう言って書付を受け取ると、内容を見て内心ため息を吐いた。

 ――適当な数字を書き出されてもな……

 能見山が甚兵衛に差し出したのはいわゆる返済予定表だ。書面上は元利ともに三十年で返済できるようになっている。
 だが、ぱっと見ただけでも怪しげな数字が三か所はある。

 そもそも歳入が多く見積もられ過ぎている。これだけ百姓から搾り取れば、たちまちに堅崎藩は飢饉に苦しむことになるはずだ。
 それ以外にも、参勤費用が過小に過ぎる。腐っても三万石の大名なのだから、それに見合う格式を整えなければ幕閣から文句が出ぬとも限らない。
 とてもアテになる数字とは思えなかった。

 甚兵衛は内心の呆れを押し隠してニコリと笑うと、書付を手元で畳みながら話し出した。

「このような大切な書付、手前だけでは判断が付きかねます。店主と相談して参りますのでしばしお待ちください」

 そう言って頭を下げると、甚兵衛は能見山を置いて座敷を出た。廊下に出て一つため息を吐くと、表の丁稚に声を掛ける。

「ちょっとお話の内容を旦那様と相談してくるさけ、お茶のお替りを出しといてくれるか」
「へえい」

 返事を確認すると、当主の甚五郎の部屋に向かった。

 当主の部屋に入ると、十五歳になる当主甚五郎が書き物をしていた。傍らには後見人の仁右衛門の姿もある。
 甚兵衛は二人に能見山の書付を差し出しながら内容を報告した。

「堅崎藩より、五千両の借入の申し入れと、これを」
「……へえ。返せるならええんちゃうんか?」

 甚五郎は書面の数字だけを追って気楽な調子で甚兵衛に尋ねてきた。甚兵衛はまたも内心でため息を吐いてしまった。

「とてもアテになる数字ではありません。そんだけ百姓から搾り取れば、たちまちに一揆がおきます」
「そうなんか? しかし、この書付ではちゃんと返せることになってるやんか」
「筆先一つでカネが稼げるんなら、誰も苦労はしません。カネはどこぞから湧いて来るわけやありませんので」

 若い甚五郎にはまだ世の中を信じすぎる所があった。そもそも堅崎藩が真面目に返済を考えていれば、このような出鱈目な数字にはならないだろう。
 つまりは、今目先の金を引っ張るための方便に過ぎない。甚兵衛から見れば、子供だましのような手口だった。

「そうか……。ほなどうする?」
「堅崎藩で必要なんは、とりあえず目先の利息分だけです。まあ、百両といったところでしょうか。ですんで、二百両をお土産として手渡したく思います」

 甚五郎が『ほう』と声を上げる。甚兵衛は、堅崎藩の懐具合を完全に知悉していた。今回の借り入れに必要な額までも完全に把握している。
 だが、そこまで把握しているのに百両も余分に渡すことに甚五郎から疑問が呈された。

「必要なのは百両なのに、二百両渡すんか?」
「はい。余りの百両で、何とか立て直しの策を考えてもらいます。また、次に借入の申し込みがあった際には尾州様の名目みょうもくでなければ受けられぬという事も条件に付けたいと思います」
「名目な……」

 そう言って甚五郎はチラリと仁右衛門を見る。仁右衛門が頷くと、甚五郎は甚兵衛に向き直って頷いた。

「わかった。ほな、甚兵衛の言う通りに任せる」

 名目貸みょうもくがしとは、貸金の名義人を山形屋ではなく尾張徳川家などの有力大名や公家などに依頼することだ。尾張藩の名目で貸すとなれば、堅崎藩は形式上は尾張藩からカネを借りたことになり、踏み倒すのは尾張藩の貸金ということになる。
 踏み倒しを防ぐための商人の知恵だった。
 もっとも、そのために尾張藩にもそれなりの手数料を払うのだから、尾張藩としても悪い話ではない。

 甚五郎の部屋を辞した甚兵衛は、帳場に行って二百両の小判を袱紗ふくさに包んだ。
 大番頭として、今や甚兵衛にはあらゆる案件を独断で決裁する権限を与えられていたが、甚五郎の教育の為に相談を投げるようにしていた。

 甚兵衛自身、別家として独立する道もあったが、引退した利右衛門に代わり、請われて出勤別家として引き続き山形屋に勤務している。
 利助から託された山形屋を支えるべく、全力を尽くしていた。

 ――まだまだ旦那様ほどの器量には届かんか

 だが、自分の頭で考えようとする姿勢は感じられる。これからの甚五郎の成長には期待していた。

 甚兵衛が袱紗包みを持って座敷に戻ると、丁稚がお替りのお茶を出して下がっている所だった。丁稚と入れ替わるように座敷に入ると、能見山の対面に座って袱紗包みを手元に置く。

 チラリと能見山が袱紗に視線を投げたが、甚兵衛は構わずに話を切り出した。

「ご依頼いただいた借入金の方ですが、申し上げたように手前どももいささか不如意ふにょい(資金不足)でして……」

 言いさすと能見山の顔がたちまち強張る。アゴの辺りに力が籠っているのが見て取れた。
 それにも構わず甚兵衛は続ける。

「しかし、手ぶらでお帰しするわけにもいかぬと思い、手元の資金をかき集めて参りました。こちらはお殿様へのお土産としてお渡しいたしますので、証文などは結構でございます」

 そう言って手元の袱紗包みを滑らせて平伏する。能見山は困惑していたが、やがて包みを手に取ると中を改めて安堵の色を浮かべた。
 甚兵衛が見破った通り、能見山に必要なのは当面の利息返済金の百両だけだ。五千両という借り入れは、駄目で元々という気持ちで言い出したに過ぎない。

 だが、次に続く甚兵衛に言葉には不審な顔を隠せなかった。

「それと、何か新しい産物の開発にも取り組んでいただけば幸いでございます」
「新しい産物とな?」
「はい。今のままでは堅崎藩は次の支払いに行き詰まりましょう。新たな収入の道があれば、また違って来るのではないかと。もちろん、良い産物ならば手前どもでも取り扱わせていただきます」
「ううむ……。しかし、我らにお手前方のように売れる産物を作れるかどうか」
「売れるかどうかではなく、人々にどういう風に使ってもらうか、ですよ。民の暮らしの役に立つ物であれば、手前どもは喜んで扱わせて頂きます」
「左様か。まあ、戻って殿とご相談申し上げよう」

 ――真面目にやる気がないな

 甚兵衛は再び心の中でため息を吐いた。予想通りとはいえ、どうせ金は借りればいいと甘え切っている態度だ。一度きつく思い知らせる必要があると感じた。

「それと、今後の堅崎藩からの御用は尾州様の名目にてお願い致しまする。主人も領主様への御用ということであれば、多少の無理は聞くと思いますので」

 甚兵衛がそう言うと、能見山の顔色がさっと変わった。
 要するに踏み倒しを警戒しているぞと伝えたのだが、それで顔色を変える時点で真面目に返す気が無いと言っているも同然だ。

「よろしいですね?」

 甚兵衛が顔を上げると、能見山が蒼白な顔で頷く。御三家や幕閣ともコネを持つ山形屋がそう言うのならば、小藩に過ぎぬ堅崎藩には否も応も無いのが現実だ。
 無論、甚兵衛もその辺りは承知の上で敢えて念押しした。


 商談を済ませると、甚兵衛は表まで能見山を見送りに出た。肩を落としながら去っていく能見山の後姿を頭を下げて見送り、見えなくなったところで顔を上げる。

 ふと見ると、今年も道端に左義長の山車が準備されていた。

 ――もうすぐどんどの季節やな

 昨年は亀助の世話に追われて多恵は外に出られず、甚兵衛は長男の甚吉を伴って左義長を見物していた。決してそれを不満に思っている訳ではないが、左義長どんどの火は、やはり多恵と一緒に見たかった。

 吹く風はまだ冷たかったが、空はよく晴れ渡り、ほのかに梅の香りが混じって来ている。
 甚兵衛は胸いっぱいに息を吸い込むと、大きく息を吐いて気持ちを切り替えた。

「さて、次は上田藩やったな」

 そう呟いた後、甚兵衛は振り返って歩き出した。
 その背中には、大きく染め抜かれた山形屋の屋号がひらめいていた。

 (完)



 『左義長の火』以上で完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 日本史において、明治維新の前後では大きな変革があり、日本人の意識も大きく変わりました。ですが、江戸時代の人々の暮らしを調べた時、私は非常に親近感を持ちました。
 仕事の成果に一喜一憂し、酒を飲んでは上司の愚痴を言い合い、遊女を見れば鼻の下を伸ばし、賞与を貰っては喜んで遊びに行く。
 現代に生きる我々と少しも変わらない生活がそこにありました。
 拙い筆ではありましたが、そういった当時の商家奉公人の生活を少しでも感じて頂けたならば幸いです。

 本作品は第八回歴史・時代小説大賞にエントリーしております。投票の方もよろしくお願い致します。
 今後もなにがしかの物語を書いてゆきますので、また別の物語でお目に掛かれることを祈って。
 
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