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記憶をなくす薬
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「ん…おいしいよ」
「なっ…食ったのか?」
「もったいないから、俺にちょうだい」
ゼロはそう言って、粉のクッキーを食べていた。
中身は無事だろうけど、絶対に美味しくない。
なのに、美味しいと言って全部食べてしまった。
元々量が多くないのに、なんで…
ゼロは「美味しかったよ」と言って、俺の頭を撫でていた。
そんなに優しくしないでくれよ、目元が熱くなる。
「俺、お前をフったんだぞ…分かってるのかよ」
「分かってる、でも…そんな顔のツカサは放っておけない」
ゼロに言われて、俺は今どんな顔をしているのか分からず頬に触れる。
自分では分からない、近くに鏡もないから確認も出来ない。
ゼロはまだ俺の事を好きでいてくれるのか?こんな俺を?
ゼロは「ツカサの役に立ちたい、それだけだから」と言っていた。
自分をフった男なんて、無視すればいいのに…
俺の事、嫌いになればいいのに…俺なんて…
魔法陣を出して、そのままゼロから逃げるように飛んでいった。
このまま歩いていてもまた追いかけて来そうだったから…俺の事はほっといてくれよ。
自分の家の近くまで帰ってきたら、師匠がいた。
いたといっても、俺の家の前ではなく近くの家に住んでいる弟子と会話していた。
「ししょうぅぅ~」
「なんじゃなんじゃ!?」
縋り付くように師匠のところに行って泣き喚いた。
師匠と話していた弟子にドン引きされていたが、そんな事どうでもいい。
俺が今頼れるのは師匠しかいないんだ!哀れな弟子に慈悲の心を~!!
「師匠!嫌われる薬ない!?」
「まだそんな事言っているのか」
「これ以上アイツを見てるのは辛いんだよ!」
「…意味が分からん」
「俺は、俺は!」
ゼロはまだ俺が好きなのか分からない、分からないけど嫌われたいんだ。
俺みたいな最低な奴、好きになったっていい事なんてない。
どんなに酷い事してもゼロはさっきみたいに声を掛けてくる気がした。
応えられない想いを抱いていると、お互い前に進めない気がした。
そんな事を言って、ゼロを見ていると自分が辛いだけなんだけどな。
師匠はそんなものないと俺に言っていたが、俺はどうしても欲しかった。
最初に師匠に言っていた時よりも欲しかった。
ゼロを俺から解放するために、旅商人なんて待ってられない!
それに、今までそんな奴見た事がなかった。
薬ならだいたいクラフト出来る筈だから、貴重な薬でもクラフトの方法がある筈だ。
師匠をジッと見ていると、弟子の方から思いがけない事を言われた。
「嫌われる薬ってのは分からないけど、記憶をなくす薬はあるよ」
「記憶?」
「うん、エルフの国の近くにある忘幻の森に生えている忘れ草から作る薬だよ」
「…なんでそんなものを」
「嫌な事を忘れたいって思うじゃん、そういう人におすすめなんだよ」
そして弟子は自分の家に入って行って、少ししたら出てきた。
手に持っていたのは真っ黒な小瓶で、俺の前に見せてきた。
毒々しい瓶だけど、飲んでも平気なのだろうか。
それを弟子に言ったら「一度飲んでみる?」と言われた。
でも俺が今忘れたら意味がなくなってしまう。
飲むなら、ゼロが俺の事を忘れてからがいい。
薬を貰ったけど、どうやって飲ませたらいいのか分からない。
手で瓶を弄りながら自分の家に入って、どうするのかと考えてとりあえず瓶をカバンに入れた。
いざ手に入れると震えが止まらない、本当に俺の記憶がなくなるだけ?無関係なゼロの大切な記憶まで消す権利は俺にはない。
俺って本当に酷い奴だよな、誰かを想う気持ちだって消す権利なんて俺にはないのに…
ゼロもいい加減俺に愛想つかせてもいいのに、なんで俺に優しくするんだよ。
やっぱり返そう、弟子には悪いけど俺にはこの薬を使う勇気なんてない。
カバンから瓶を取り出すと、ドアを叩く音が聞こえた。
控えめな音で、師匠ではなさそうだった。
「…ツカサ」
「なんで、ここに…」
「心配だったから」
扉を挟んだ向こう側にゼロがいる、心配だからここまで来たのか。
ゼロの力なら扉の隙間から影を忍ばせて俺の家に入る事は出来る。
いつもならズカズカ俺のプライベートに踏み込むのに、俺が拒絶したからゼロは扉という距離を挟んでいるんだ。
今後もう、この扉を越えてやって来る事はないだろう。
瓶を机に置いて、俺はドアの前で膝を曲げて座った。
小さな声で「もう、大丈夫だから」と言った。
「なっ…食ったのか?」
「もったいないから、俺にちょうだい」
ゼロはそう言って、粉のクッキーを食べていた。
中身は無事だろうけど、絶対に美味しくない。
なのに、美味しいと言って全部食べてしまった。
元々量が多くないのに、なんで…
ゼロは「美味しかったよ」と言って、俺の頭を撫でていた。
そんなに優しくしないでくれよ、目元が熱くなる。
「俺、お前をフったんだぞ…分かってるのかよ」
「分かってる、でも…そんな顔のツカサは放っておけない」
ゼロに言われて、俺は今どんな顔をしているのか分からず頬に触れる。
自分では分からない、近くに鏡もないから確認も出来ない。
ゼロはまだ俺の事を好きでいてくれるのか?こんな俺を?
ゼロは「ツカサの役に立ちたい、それだけだから」と言っていた。
自分をフった男なんて、無視すればいいのに…
俺の事、嫌いになればいいのに…俺なんて…
魔法陣を出して、そのままゼロから逃げるように飛んでいった。
このまま歩いていてもまた追いかけて来そうだったから…俺の事はほっといてくれよ。
自分の家の近くまで帰ってきたら、師匠がいた。
いたといっても、俺の家の前ではなく近くの家に住んでいる弟子と会話していた。
「ししょうぅぅ~」
「なんじゃなんじゃ!?」
縋り付くように師匠のところに行って泣き喚いた。
師匠と話していた弟子にドン引きされていたが、そんな事どうでもいい。
俺が今頼れるのは師匠しかいないんだ!哀れな弟子に慈悲の心を~!!
「師匠!嫌われる薬ない!?」
「まだそんな事言っているのか」
「これ以上アイツを見てるのは辛いんだよ!」
「…意味が分からん」
「俺は、俺は!」
ゼロはまだ俺が好きなのか分からない、分からないけど嫌われたいんだ。
俺みたいな最低な奴、好きになったっていい事なんてない。
どんなに酷い事してもゼロはさっきみたいに声を掛けてくる気がした。
応えられない想いを抱いていると、お互い前に進めない気がした。
そんな事を言って、ゼロを見ていると自分が辛いだけなんだけどな。
師匠はそんなものないと俺に言っていたが、俺はどうしても欲しかった。
最初に師匠に言っていた時よりも欲しかった。
ゼロを俺から解放するために、旅商人なんて待ってられない!
それに、今までそんな奴見た事がなかった。
薬ならだいたいクラフト出来る筈だから、貴重な薬でもクラフトの方法がある筈だ。
師匠をジッと見ていると、弟子の方から思いがけない事を言われた。
「嫌われる薬ってのは分からないけど、記憶をなくす薬はあるよ」
「記憶?」
「うん、エルフの国の近くにある忘幻の森に生えている忘れ草から作る薬だよ」
「…なんでそんなものを」
「嫌な事を忘れたいって思うじゃん、そういう人におすすめなんだよ」
そして弟子は自分の家に入って行って、少ししたら出てきた。
手に持っていたのは真っ黒な小瓶で、俺の前に見せてきた。
毒々しい瓶だけど、飲んでも平気なのだろうか。
それを弟子に言ったら「一度飲んでみる?」と言われた。
でも俺が今忘れたら意味がなくなってしまう。
飲むなら、ゼロが俺の事を忘れてからがいい。
薬を貰ったけど、どうやって飲ませたらいいのか分からない。
手で瓶を弄りながら自分の家に入って、どうするのかと考えてとりあえず瓶をカバンに入れた。
いざ手に入れると震えが止まらない、本当に俺の記憶がなくなるだけ?無関係なゼロの大切な記憶まで消す権利は俺にはない。
俺って本当に酷い奴だよな、誰かを想う気持ちだって消す権利なんて俺にはないのに…
ゼロもいい加減俺に愛想つかせてもいいのに、なんで俺に優しくするんだよ。
やっぱり返そう、弟子には悪いけど俺にはこの薬を使う勇気なんてない。
カバンから瓶を取り出すと、ドアを叩く音が聞こえた。
控えめな音で、師匠ではなさそうだった。
「…ツカサ」
「なんで、ここに…」
「心配だったから」
扉を挟んだ向こう側にゼロがいる、心配だからここまで来たのか。
ゼロの力なら扉の隙間から影を忍ばせて俺の家に入る事は出来る。
いつもならズカズカ俺のプライベートに踏み込むのに、俺が拒絶したからゼロは扉という距離を挟んでいるんだ。
今後もう、この扉を越えてやって来る事はないだろう。
瓶を机に置いて、俺はドアの前で膝を曲げて座った。
小さな声で「もう、大丈夫だから」と言った。
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