34 / 67
六日目・後編
しおりを挟む 少し前の事、デリックと対面する前に私とレオナードは事前対策の為に恋愛小説を読み漁った。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
その中で私達は同時に首を捻った表現があったのを、私は覚えている。それは───【僕の可愛い子猫ちゃん】だった。
他にもピーチ、チェリー、カップケーキ………等々。まぁそれらの登場頻度は少なかったので、見ないフリをした。けれど、この【僕の可愛い子猫ちゃん】というフレーズは、やたらめったら出てきたのだ。
…………なぜ、人間に向かって、猫呼ばわりする?そして、そう呼ばれた女子は何故、嬉しそうにする?
薄暗い図書室で、その二つの疑問を同時にぶつけた結果、私達は結局その答えを見つけられなかった。ただ、わかったことが二つあった。一つ目は、そんなことを口にする人間の心理が理解できないこと。もう一つは、そんな扱いをされるのは不快だということ。
そう、それなのに………………私は、やらかしてしまったのだ。
仕草を犬に例えられるならともかく、存在そのものを、哺乳類扱いをされたのだ。生き物の頂点に立つ霊長類ヒト科という立ち位置にいるレオナードが受けた衝撃は、きっと計り知れないものなのだろう。本当に申し訳なかった。
もし仮に、私が同じようなことを言われたら、落ち込む前に、そう言った奴を地面に埋め込ませるところ。
そんなことを考えながら、そぉっとレオナードに視線を向ければ、彼は絶望の淵にいた。本当にゴメン。マジでゴメン。
…………ただ一つ言わせて欲しい。悪気はなかったのだ。
「あのね、レオナード。そうじゃないわ…………」
そこまで言って、死んだ目をした公爵家のご長男様を見つめる。表情は臨終しているけれど、風になびくその髪はつやっつやっの、さらっさらっ。ああ、どうあってもジャスティを思い出してしまう自分が恨めしい。
「と、言いたいところだけれど、あなたの毛並みは滑らかで…………その…………ごめんなさい」
結局、私は素直な気持ちを伝え、謝罪をすることを選んだ。
そうすれば、レオナードは弱々しい声で『いや、良いんだ』と、緩く首を振った。けれど、私の目には、何一つ良いと思えるものが見当たらない。
ここは再び謝罪の言葉を紡ぐべきだろうか。それとも『ユーアーホモサピエンス!』と元気に伝えるべきなのだろうか。いや、違う。今はそっとしておくのが一番だ。
長々とそんなことを考えていたら、不意にレオナードが私に視線を向け、口を開いた。
「すまない、ミリア嬢。………………浮上するまでに少々時間が欲しい。悪いがケーキを食しながら待っててもらえるか?」
「もちろん良いわよ。レオナード」
レオナードのテンションが地に落ちたのは、間違いなく私の責だ。罪悪感で胸が痛い。けれど、やっとフォンダンショコラを食べれるこの現状に、私は食い気味に頷いてフォークを手にしてしまった。それを見たレオナードは、何も言わなかった。
もしゃもしゃとフォンダンショコラを咀嚼する。とても美味しい。
そして、完食した途端に、自分のショコラも差し出してくれるレオナードに素直に感謝の念を抱く。っていうか、項垂れているのに、良く見えたものだ。
と、そんなことを考えながら出されたスウィーツを全て食べ終えた私だったけれど、レオナードは未だに浮上中。ここで急かすような鬼畜なことはできないので、私はぼんやりと東屋の天井にいる天使さん達を見つめてみる。
本日も天使さんも微笑みを湛えている。けれど、どことなく複雑な笑みに見える。言葉にするなら『もう、お前ら勝手にしとけ』的な感じ。
まぁ、確かに今日の私達は傍から見たら、首を捻る光景なのかもしれない。
と、こっそり苦笑を浮かべた瞬間、視界の隅でようやっと顔を起こすレオナードが映った。
「………………ミリア嬢、すまない待たせたな」
「いいえ、大丈夫よ」
少し微笑んでそう伝える。けれど、私はすぐに今日の本題を切り出すことにした。なにせ、今の私には時間に限りがあるのだ。
「ねえ、レオナード。浮上したところ悪いんだけれど…………」
ちらっと上目遣いでレオナードを見れば、彼は引き攣った表情で小さく頷いた。それが痙攣の仕草にも見えなくはないけれど、ここは気付かないふりをして、言葉を続けさせて貰う。
「私、この前から保留になっている質問の回答をしたいんだけれど、あなたのメンタルは大丈夫?受け止められるかしら?」
「ああ、もちろんだ」
「え?あ、そ、そうなの」
「ああ」
ぶっちゃけ、今更かよと言われてしまうと思っていた。いや、もういいやと言われることもあると思っていた。
けれどレオナードは、この時が来たかと呟いて、居ずまいを正した。
それに倣い私も、居ずまいを正して口を開く。会えない間ずっと考えていた彼の問い掛けの答えを。
2
お気に入りに追加
839
あなたにおすすめの小説




王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。

神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる