NPCのストーカーの件について

草薙翼

文字の大きさ
上 下
44 / 67

忘幻の森

しおりを挟む
俺と同じようにリーフリード様になにか頼まれたのか?
でもそれだったらリーフリード様から彼も連れていってくれとお願いされる筈だよな。

少年はギュッと手を握りしめて思いつめた顔をしていた。

「リーフリードは記憶喪失なんです」

「えっ!?そうは見えなかったんですが…」

「一応エルフを束ねる王なので、弱い部分は見せませんよ」

少年は苦笑いして俺に話してくれた。

リーフリード様にはお互い約束し合った本当の婚約者がいるそうだ。
しかしリーフリード様は婚約者に捧げる贈り物を忘幻の森で探していた時、うっかり忘れ草の匂いを嗅いでしまったという。

忘れ草とは忘幻の森でしか採取出来ないレア素材だがあらゆるステータス異常がランダムで発生するから欲しい時はステータス回復魔法やアイテムを持たないと少々キツい。
この世界では名前の通り、甘い匂いを嗅ぐと記憶の一番大切な部分を忘れてしまうという。
それがリーフリード様にとって婚約者との思い出だった。

「俺はたまたま忘幻の森で幻キノコを探しててリーフリードに初めて会ったんです、その時リーフリードが忘れ草の前で倒れていたから口を押さえて森の外まで連れ出したんです」

第一印象はとても美しい人形のような方だと思ったそうだ…俺もそれは思った、ゼロとはタイプが違う美形。
忘れ草の前で倒れていたから記憶が一部ないのは分かっていて、とりあえず倒れた衝撃で擦れてしまった傷を手持ちの回復薬で手当てした。
介抱した甲斐があり、リーフリード様はすぐに目を覚ました。

そして抜けていた婚約者の存在を少年と勘違いして今となる。
ちなみにリーフリード様に少年と出会う前に心に決めた婚約者がいた事を教えてくれたのはリーフリード様の幼馴染みで右腕のエルフの青年らしい。

急にポロポロと涙を流してしまい驚いた。

「リーフリードは勘違いしてるんだ、このままだと望まぬ結婚をしてしまう…だからお願いだ、リーフリードのために解毒薬の材料を採りたい…連れて行ってくれ」

彼はずっとリーフリード様のためだと言っていた。
自分のためではなく…
深い意味はないのかもしれないが、もしかしたらリーフリード様と共に過ごし彼は少しでもリーフリード様に恋愛感情が芽生えたのではないだろうか。

だからリーフリード様が記憶を取り戻し自分の元を離れる、それがとても悲しいと思ってるのではないか?
でも、自分よりリーフリード様の幸せを一番に望み…勇気を出して俺にこんな事を頼んだような気がする。
…全て俺の妄想かもしれないけどな。

「…そこまで言われたら、ついでだし…いいけど…自分の身は自分で守れる?」

「うん、大丈夫…リーフリードに弓を教わったから!」

腕前は分からないが自信満々だし、信じてみよう。
後は風呂から帰ったゼロに話してみよう。

それにしても恋か、俺にはよく分からない。
相手から好意をストレートにぶつけられたら好きになるものなのかな。
それとも元々好きになっていたのか?一目惚れ、的な?

レイチェルちゃんを盲信的に好きになるとはなんか違うんだよなー…
相手のために、自分が出来る事…か…

「じゃあ早速今から行こう!」

「待て待て!今から!?もう遅いし、明日の朝でも…」

「明日の朝じゃダメなんだ…解毒薬の材料は夜しか存在を現さない蛍草ほたるそうだから…」

「そうは言っても…」

彼のリーフリード様への愛を感じて断るつもりがつい一緒に行くことになってしまったがちょっと早まってしまった感じがする。
俺も恋してるから弱いんだよなぁ、そういうの…

お互い一歩も譲らずどうしようか考えていたら襖が開き、ゼロが帰ってきた。
次は俺の風呂の番か…

解決しないまま少年と話を終わらせるのは一人で無茶しないか心配だが、一度忘幻の森に行った事があるなら危険さは分かってるだろう。
昼間とはわけが違う、夜のモンスターはレベル二倍だからな…俺でも勝てる気がしない。

「とりあえず!明日だぞ!じゃあおやすみ!」

少年は不満そうな顔をしていたが何も言わなかった。
分かってくれてたらいいんだけど…

会話の内容が分からないゼロは首を傾げていた。
ゼロには後で言えばいいよな、今日は早く風呂に入って寝よう。






屋根付きの大きな露天風呂。
天然温泉が湧き出ていてリラックス効果抜群。
それに夜景が幻想的だ。

忘幻の森が見える絶景ポイントがウリなのかもしれない。

そして忘幻の森に向かう人影………人影?

勢いで立ち上がり、水面が大きく脈打つ。

な、な、な…

「なんで一人で行ってんだぁぁぁぁ!!!???」

急いで脱衣所に戻り、服を着て魔法陣に乗りエルフの滝の泉を出た。
ゼロのところに行く時間はない、早く彼を連れて帰らなければ…今の森はとても危険だ。
冷たい風に湯冷めして身体を震わせながら進む。

早く着いたからか入り口のすぐ先に少年はいた。

俺はそのまま魔法陣から降りて少年に飛び蹴りを食らわした。
これしか止められないんだ、許せ。

「ぶぶっ!!」

「明日って言っただろうが!!夜の森は危険なんだよ!!」

久々にこんなにキレたかもしれない、ゼロにもこんなにムカついた事ないかも…
やっぱり命が掛かってるからだろうな。

倒れこむ少年を引きずり森の外に出ようとしたら少年は立ち上がり微動だにしなくなった。
…反抗期か?
俺とあまり変わらない身長に多分俺の方がレベルが高いから俺の方が力ある筈なのになんで動かないんだ!
少ししたら俺が疲れてしまい荒い息を吐いて少年から手を離す。

「明日じゃダメなんだ」

「明日の夜でもいいんじゃないのか?」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!

彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。 何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!? 俺どうなっちゃうの~~ッ?! イケメンヤンキー×平凡

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

ヤンデレ蠱毒

まいど
BL
王道学園の生徒会が全員ヤンデレ。四面楚歌ならぬ四面ヤンデレの今頼れるのは幼馴染しかいない!幼馴染は普通に見えるが…………?

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

処理中です...