ブラッティ×マギカ

草薙翼

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激情

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飛鳥くんに守ってもらわなくてもいいように俺は鍛えた。
自己流でそれなりに強くなった。
そして俺は今、人を超えた力を手に入れて…この非現実的な世界でも守れる力を手に入れた。

「好きな人を守りたいと思うのは当然だろ?」

「……好き?」

「飛鳥くんが弟だからって思っていたのは事実だ、でも守りたいって純粋な気持ちは飛鳥くんも英次も玲音も誓司先輩も同じなんだ」

「……」

「飛鳥くんも俺を守りたいって思ってくれているのは分かるが、俺だって男なんだから大切な人を守りたいって思うのは当たり前だろ?」

俺が玲音と誓司先輩と契約したのは、受け入れていいと思っていたからなのは当たり前で…それだけじゃない。

大切な人を守るために、俺は強くならなきゃならない。
この決意は軽いものではない。

俺を受け入れてくれた人達と共に生きていく覚悟でもあるんだ。

「俺はこの学院に来て、自分の無力さを知った…そして戦う術がある事を知った…玲音、誓司先輩に人を愛する気持ちを教えてもらった…だから今度は俺が飛鳥くんに教える番だ」

「…瑞樹」

「拳で語り合おう、飛鳥くん」

俺の言葉を静かに聞いていた飛鳥くんだが、さすがに意味が分からないのか目を丸くしていた。

野蛮だとは思うが、男同士なら喧嘩で生まれるものだってある。
俺と飛鳥くんは男兄弟のような殴り合いの喧嘩はした事がない。
そもそもお互いを怒る事はなくて、いつも喧嘩になる前に俺か飛鳥くんが謝っていた。

本気で相手にぶつけるならまずは身体からと思った。

自分を防御する殻なんて捨ててしまえばいい。

「俺が瑞樹を殴れると思うか?」

「俺は殴られたからって飛鳥くんを嫌ったりしない」

「……そうじゃない、俺にとって瑞樹は…兄なんかじゃ…」

「喧嘩は兄弟だけがすると思っているのか?友人でも恋人でも喧嘩はするだろ」

「…っ」

「喧嘩は相手の事を理解しようとしてすれ違うから喧嘩してしまうんだ、飛鳥くんが喧嘩したくないのは俺を理解したくないからだろ」

「…クソッ」

飛鳥くんを煽ってみた、本気でぶつかってほしくて…

飛鳥くんは舌打ちをして腕を伸ばし、俺の服の襟を掴んで引き寄せた。
そしてすぐに頬に衝撃が走った。

英次が俺の名前を呼んで近付いてくるから腕を英次の方に伸ばして止めた。
歯に当たり口内が切れてしまった、鉄の味が広がる。

頬が熱を持ち、ジンジンと痛かったが…正直嬉しかった。
Mとかそういうんじゃない、やっと飛鳥くんが自分の殻から出て来てくれたようだった。

飛鳥くんを見ると俺を殴った方の手を片方の手で握っていた。

「理解なんてしたくない!瑞樹はどうせ俺なんか弟としか見ていないんだから…せめて、ずっといい弟のままで傍にいたかった」

飛鳥くんが地面に座り込んでしまい、俺は飛鳥くんに近付く。

飛鳥くんは俺が飛鳥くんの気持ちを知って気持ち悪がり離れていくのが怖くて、自分の気持ちを抑えていたんだ。
何年も、ずっとずっと…辛かっただろう。

きっとこの学院に来る前に飛鳥くんの気持ちを知っていたら、俺は受け入れる事が出来なかったかもしれない。
いや、それ以前に…本気じゃないと疑っていただろう。

愛を知った俺は、あの時と違う……どう思うだろう。

「瑞樹の事が好きだ!瑞樹が幸せなら瑞樹に相応しい女が現れたらきっぱり諦めるつもりだった……なのに瑞樹は男と恋人になって…なんで、希望を持たせるんだよ!男以前に瑞樹にとって弟だから俺はアイツらと同じスタートラインに立てないのに…」

これは決して簡単なものではない。
血の繋がっている兄弟。

ただ、それだけなのに…どうしてこんなに苦しまなくてはいけないんだ。

飛鳥くんの前に座り、抱き寄せた。
小さく泣く飛鳥くんは子供の頃の飛鳥くんのようだった。

飛鳥くんに触られキスされ、嫌ではない……それは…兄弟の感情として変ではないだろうか。

「俺は、学兄さんにキスされたら嫌だ」

「…え?」

「俺だって人の好き嫌いはある、誰でもいいわけじゃない…触られてもいい…キスされてもいいと思える人にしか許さない」

「瑞樹…」

「飛鳥くんに触られてもキスされても嫌じゃなかったよ」

「でも、瑞樹…泣いてたし…さっきだって」

「あれは行為が嫌だからじゃないんだ、飛鳥くんが俺に何も言ってくれないから…勢いに任せてしたくなかった…あのまま契約してたら、今みたいに自分の気持ち、話してくれなかっただろ?」

飛鳥くんは何も言わないが、俺の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。

俺もこれから遠慮せず言いたい事は言うから、飛鳥くんも言ってほしい。
もう、殻に籠って自分を守らなくていいんだ…飛鳥くんが俺を守るように、俺も守りたい。
兄弟という繋がりは一生消える事はないが、恋をするのは自由だ。

俺は飛鳥くんと離れたくはない。
触られて嫌じゃないと思ったその時、もう飛鳥くんを弟としてではなく一人の男として受け入れようとしていたのかもしれない。
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