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クロス学院
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「……き、みずき……おい、瑞樹!!」
「…んっ」
肩を少し揺すられて、ゆっくりと目を開ける。
するとそこには心配した顔をしている英次がいた。
よかった……生きていたんだな、そして俺も生きている。
英次の後ろには黒いスーツの男達がいたが、何となくここまで運んでくれた人達ではないと思った。
英次はあんなに大怪我をしていたのに、身体には何処も怪我をした跡がない。
慌てて起き上がると、少しだけ頭がズキッと痛かった。
「英次!大丈夫だったか!?」
「あぁうん、後ろの人達が手当てしてくれて…すぐに瑞樹を追いかけたつもりだったけど見つからなくて」
「…手当て」
「瑞樹の怪我も手当してくれたんだよ!よかった、間に合ったみたいで」
そう言って英次は俺の身体を抱きしめて、それを受け止める。
手当てをしたとしても、包帯も何も巻いていない気がするし…俺が気絶をしている時間はそんなに経っていないように思う。
自分の身体を触っても、包帯どころか傷口すらない。
そして俺は男の血が身体に付いていたのに、それも綺麗になっていた。
疑問はいろいろあるが、英次は「早く行こうぜ!もう随分寄り道しちゃったみたいだしな!」と俺の手を引いて立ち上がる。
新しい車がすぐ側で止まっていて、後部座席に乗る。
まるであれが夢であったかのように、穏やかな時間が過ぎていく。
その中で、俺はずっと心に重いものを持っていた。
俺の目の前で人が死んだ、それが思ったよりも精神に来てしまっていた。
英次は心配そうに俺を見ていたから、心配掛けないように笑った。
……俺は上手く笑えているだろうか、顔が引きつってしまっている気がする。
大きな門の前で車は止まり、俺と英次は車から降りた。
「ここからはお二人のみで建物に向かって下さい、案内の生徒が居るはずです」
「ありがとうございました」
俺が頭を下げると、車は走っていっていき…英次は門を見上げていた。
俺が門に触れようと思ったら、勝手に門が開いた。
自動で開く門なのか、とあまり驚く事なく歩いていった。
足元を照らすライトがあるが、薄暗いのは変わらない。
まるで肝試しみたいだなと思っていたら、隣にいる英次の身体が微かに震えていた。
英次は昔から幽霊とか苦手だったが、それ以上の経験をしたのに怖いんだな。
「俺が先に行く、だから英次は後ろから来てくれ」
「ずっと瑞樹に守ってもらうわけにはいかない!俺が前を歩く!」
そう言った英次は身体を硬直させながら歩いていた。
無理するなと声を掛けながら歩くと、校舎らしき建物が見えた。
確か案内の生徒が居るんだよな、周りを見渡すと俺達ではない誰かの声が聞こえた。
英次の肩が跳ねていて、思考停止してしまった。
俺は声に驚いたというより、聞き覚えがある声に驚いた。
もしかして校内案内人の生徒って、彼が来たのか?
「英次ーーー!!!!!」と叫ぶ声に、俺と英次は声のした方に振り向いた。
「な、なんでここに?」
「英次を迎えに来たんだよ!知り合いだから俺達に理事長室まで案内させるって、全く人使い荒いよな!」
「……」
学兄さんと飛鳥くんが俺達の前で足を止めた。
学兄さんは相変わらずらしいが飛鳥くんはなんか疲れを感じる顔をしていた……メールでのやりとりで分かっていたが、思ったより酷くて心配になった。
「……飛鳥くん大丈夫?なんか元気ないみたいだけど」
「あぁ平気だ…ずっと兄貴が付いて回るから休む時間なんてないけど……そんな事よりなんで瑞樹もクロス学院に?」
飛鳥くんは乾いた笑い声を上げて、なんで俺がいるのか不思議そうに見ていた。
…なんだ、俺の事は聞いてないのか?
俺の場合、急に決まったような気がしたがやはりそうなのか。
今までの話をすると、余計に飛鳥くんの疲労を溜めてしまうから俺にも手紙が届いたんだと言った。
手紙が届いたのは本当だ、少年からの手渡しだけどギリギリ嘘は付いていない。
状況が分からず戸惑っていたら、学兄さんが今気付いたのか俺を見て驚いていた。
「なんで瑞樹が…!お前は来ちゃいけないんだぞ!!」
何故か分からないがちょっと焦り気味で怒っていた……別に来たくて来たんじゃないんだけど、やっぱり歓迎してはくれないよな。
よく分からず八つ当たりをされた、いつもの事だからもう慣れたけど…
学兄さんに俺を誘った少年の話をしてもややこしくなるだけだから苦笑いしてやり過ごす。
とりあえず案内してくれるらしい二人に付いて行き校舎の中に入った。
学兄さんは英次とばかり話していて、英次は俺に助けを求めるように見ている。
暴言とかではなく、普通に話しているだけだからどうすればいいか変わらない。
楽しい雰囲気をぶち壊すのも悪い気がする。
俺より飛鳥くんの方が会話に混ざっても雰囲気は変わらないだろうし、学兄さんの機嫌を損ねないで英次を助けられるかもしれない。
自分で出来ないのは不甲斐ないが、飛鳥くんに目線を向ける。
「飛鳥くん、英次が困ってるみたいなんだ…助けてくれないか?」
「別に助けなくてもどうこうなるわけじゃないからほっとけ」
飛鳥くんはそう言っていて、前を歩くから俺は英次の方を見た。
学兄さんのマシンガントークに疲れきった顔をしていた。
俺は英次のところに行くと、明らかに嫌そうな顔をして眉を寄せる学兄さんがいた。
学兄さんにずっと怯えているわけにはいかない、英次は俺の友達なんだ。
俺が二人の前で足を止めると、二人も足を止めた。
すぐ近くで飛鳥くんも足を止めて俺達を見ていた。
「話はまた後にして、日が暮れる前に早く行こう」
「…瑞樹」
「何だよ!俺に命令するのか!?」
上手い言葉が思い付かず、とりあえず早く行こうと言ったが学兄さんの怒りに触れてしまった。
俺の胸ぐらを掴む学兄さんは俺を睨みつけていた。
学兄さんに悪い事を言ってしまったかと思い「ごめんなさい」と謝った。
学兄さんは舌打ちをして、拳を固めて俺に向かって振り上げられた。
つい条件反射で拳を受け止めると、さらに学兄さんの怒りが上昇していた。
「本当にいい加減にしろ、瑞樹の言う通り早く行くぞ」
「なんだよ!!飛鳥もそんな事言うのか!?」
「夜の時間に出歩くのか?」
「…んっ」
肩を少し揺すられて、ゆっくりと目を開ける。
するとそこには心配した顔をしている英次がいた。
よかった……生きていたんだな、そして俺も生きている。
英次の後ろには黒いスーツの男達がいたが、何となくここまで運んでくれた人達ではないと思った。
英次はあんなに大怪我をしていたのに、身体には何処も怪我をした跡がない。
慌てて起き上がると、少しだけ頭がズキッと痛かった。
「英次!大丈夫だったか!?」
「あぁうん、後ろの人達が手当てしてくれて…すぐに瑞樹を追いかけたつもりだったけど見つからなくて」
「…手当て」
「瑞樹の怪我も手当してくれたんだよ!よかった、間に合ったみたいで」
そう言って英次は俺の身体を抱きしめて、それを受け止める。
手当てをしたとしても、包帯も何も巻いていない気がするし…俺が気絶をしている時間はそんなに経っていないように思う。
自分の身体を触っても、包帯どころか傷口すらない。
そして俺は男の血が身体に付いていたのに、それも綺麗になっていた。
疑問はいろいろあるが、英次は「早く行こうぜ!もう随分寄り道しちゃったみたいだしな!」と俺の手を引いて立ち上がる。
新しい車がすぐ側で止まっていて、後部座席に乗る。
まるであれが夢であったかのように、穏やかな時間が過ぎていく。
その中で、俺はずっと心に重いものを持っていた。
俺の目の前で人が死んだ、それが思ったよりも精神に来てしまっていた。
英次は心配そうに俺を見ていたから、心配掛けないように笑った。
……俺は上手く笑えているだろうか、顔が引きつってしまっている気がする。
大きな門の前で車は止まり、俺と英次は車から降りた。
「ここからはお二人のみで建物に向かって下さい、案内の生徒が居るはずです」
「ありがとうございました」
俺が頭を下げると、車は走っていっていき…英次は門を見上げていた。
俺が門に触れようと思ったら、勝手に門が開いた。
自動で開く門なのか、とあまり驚く事なく歩いていった。
足元を照らすライトがあるが、薄暗いのは変わらない。
まるで肝試しみたいだなと思っていたら、隣にいる英次の身体が微かに震えていた。
英次は昔から幽霊とか苦手だったが、それ以上の経験をしたのに怖いんだな。
「俺が先に行く、だから英次は後ろから来てくれ」
「ずっと瑞樹に守ってもらうわけにはいかない!俺が前を歩く!」
そう言った英次は身体を硬直させながら歩いていた。
無理するなと声を掛けながら歩くと、校舎らしき建物が見えた。
確か案内の生徒が居るんだよな、周りを見渡すと俺達ではない誰かの声が聞こえた。
英次の肩が跳ねていて、思考停止してしまった。
俺は声に驚いたというより、聞き覚えがある声に驚いた。
もしかして校内案内人の生徒って、彼が来たのか?
「英次ーーー!!!!!」と叫ぶ声に、俺と英次は声のした方に振り向いた。
「な、なんでここに?」
「英次を迎えに来たんだよ!知り合いだから俺達に理事長室まで案内させるって、全く人使い荒いよな!」
「……」
学兄さんと飛鳥くんが俺達の前で足を止めた。
学兄さんは相変わらずらしいが飛鳥くんはなんか疲れを感じる顔をしていた……メールでのやりとりで分かっていたが、思ったより酷くて心配になった。
「……飛鳥くん大丈夫?なんか元気ないみたいだけど」
「あぁ平気だ…ずっと兄貴が付いて回るから休む時間なんてないけど……そんな事よりなんで瑞樹もクロス学院に?」
飛鳥くんは乾いた笑い声を上げて、なんで俺がいるのか不思議そうに見ていた。
…なんだ、俺の事は聞いてないのか?
俺の場合、急に決まったような気がしたがやはりそうなのか。
今までの話をすると、余計に飛鳥くんの疲労を溜めてしまうから俺にも手紙が届いたんだと言った。
手紙が届いたのは本当だ、少年からの手渡しだけどギリギリ嘘は付いていない。
状況が分からず戸惑っていたら、学兄さんが今気付いたのか俺を見て驚いていた。
「なんで瑞樹が…!お前は来ちゃいけないんだぞ!!」
何故か分からないがちょっと焦り気味で怒っていた……別に来たくて来たんじゃないんだけど、やっぱり歓迎してはくれないよな。
よく分からず八つ当たりをされた、いつもの事だからもう慣れたけど…
学兄さんに俺を誘った少年の話をしてもややこしくなるだけだから苦笑いしてやり過ごす。
とりあえず案内してくれるらしい二人に付いて行き校舎の中に入った。
学兄さんは英次とばかり話していて、英次は俺に助けを求めるように見ている。
暴言とかではなく、普通に話しているだけだからどうすればいいか変わらない。
楽しい雰囲気をぶち壊すのも悪い気がする。
俺より飛鳥くんの方が会話に混ざっても雰囲気は変わらないだろうし、学兄さんの機嫌を損ねないで英次を助けられるかもしれない。
自分で出来ないのは不甲斐ないが、飛鳥くんに目線を向ける。
「飛鳥くん、英次が困ってるみたいなんだ…助けてくれないか?」
「別に助けなくてもどうこうなるわけじゃないからほっとけ」
飛鳥くんはそう言っていて、前を歩くから俺は英次の方を見た。
学兄さんのマシンガントークに疲れきった顔をしていた。
俺は英次のところに行くと、明らかに嫌そうな顔をして眉を寄せる学兄さんがいた。
学兄さんにずっと怯えているわけにはいかない、英次は俺の友達なんだ。
俺が二人の前で足を止めると、二人も足を止めた。
すぐ近くで飛鳥くんも足を止めて俺達を見ていた。
「話はまた後にして、日が暮れる前に早く行こう」
「…瑞樹」
「何だよ!俺に命令するのか!?」
上手い言葉が思い付かず、とりあえず早く行こうと言ったが学兄さんの怒りに触れてしまった。
俺の胸ぐらを掴む学兄さんは俺を睨みつけていた。
学兄さんに悪い事を言ってしまったかと思い「ごめんなさい」と謝った。
学兄さんは舌打ちをして、拳を固めて俺に向かって振り上げられた。
つい条件反射で拳を受け止めると、さらに学兄さんの怒りが上昇していた。
「本当にいい加減にしろ、瑞樹の言う通り早く行くぞ」
「なんだよ!!飛鳥もそんな事言うのか!?」
「夜の時間に出歩くのか?」
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