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幼少期の記憶
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当時のまだ小さかった俺には何も理解が出来なかった、学兄さんの事も…自分の存在価値すらも…
ノートや教科書を掻き集めて、最後に転がっていたらランドセルを持ち上げて詰めようと思った。
しかし、学兄さんは俺の手を踏みつけてグリグリと楽しそうな顔をして痛めつけた。
手だけではない、小さな心は悲鳴を上げていて、この場にいる事が耐えられなくなってランドセルにノートとかを無理矢理押し込んで抱えて逃げ出した。
後ろから学兄さんの天使のような顔とは思えないほどの悪魔の笑い声を上げているのが聞こえたが、一度も振り返る事はなかった。
しばらく走り続けていたが、そろそろ息が苦しくなった時に立ち止まりしゃがんで泣き出した。
「うぅ…ぐすっ」
誰もいない大きな住宅街の真ん中に座る小さな俺……子供ながらに惨めなように思えた。
同級生や大人達に見放された俺には唯一頼れるのは兄だけだった、だけど本当は誰も俺を必要としていない一人ぼっちだったんだ。
何処にも居場所がない、これからどうしよう。
風が強く吹いていて、タンポポの綿が飛んでいく。
このまま消えてしまったら、どんなに楽なのか考えてしまう。
そしてしゃがむ俺の目線に二人の子供の足が見えた。
何故俺の前に立っているのか不思議に思い、目を丸くしながら恐る恐る見上げた。
「どうしたの?君」
「泣いてんのか?」
そこに居たのは、見た事がないようなとても綺麗な二人の違うタイプの子供が俺を見下ろして立っていた。
一人は糸のように繊細な銀色の髪の少女ともう一人はずっと見つめていたら吸い込まれてしまいそうなほどの綺麗な黒髪の少年だった。
……醜い俺とは生きる世界が違う、話しかけるのもおこがましい。
ずっとそう言われて生きてきた、だから自分に自信が持てなかった。
彼らは学兄さんとかと一緒にいた方がお似合いだ。
俺なんかよりもその方がずっと、きっと楽しい。
そんな当たり前の事を考えているだけなのに、とても心が締め付けられて涙がポロポロと出てきた。
すると何を勘違いしたのか黒髪のカッコイイ少年は慌てていて、隣の銀色の少年の方を見ていた。
「迷子か!?どうすればいいんだ!!」
「…落ち着きなよ、まずは彼の話を聞こう」
落ち着いている銀髪の人形のように綺麗な少女は両手いっぱいに青い薔薇の花束を持っていた。
青く綺麗に染まった薔薇は、クールで大人っぽい少女にぴったりだと思った。
風になびく髪を耳に掛ける仕草はとても絵になる。
ニコッと笑いかける笑顔は俺にはもったいないと思った。
そして手に持つ薔薇を一本、俺に差し出してきた。
細くて繊細な綺麗な指に魅入られて釘付けになる。
スカイブルーの見た事がない色の美しい薔薇だ。
「はいこれ、僕の家で育てた薔薇だよ…君にぴったりだ」
俺の腕は自然と伸びていて、薔薇を受け取っていた。
この女の子…僕って言うのか、じゃあ男の子なの?女の子でも僕って言う子はいるけど…女の子みたいな顔だし、頭がよく分からなくなり考えるのを止めた。
男でも女でも、目の前にいる子の美しさは何も変わってはいない。
こんな綺麗な薔薇が、俺にぴったり?そんな訳ない。
だって俺は両親にも醜いアヒルの子と言われるほど汚い存在なんだ。
お世辞だろう事は分かってる、本気にしてはいけない。
お世辞すら言われた事はないから一瞬驚いたが冷静になる。
綺麗な子は顔だけじゃなくて心も綺麗なんだな。
俺も顔が醜いならせめて人に優しくしようと思っていたが、彼らを見ていると俺の優しさなんてちっぽけなものなんだなと思った。
人が困っていたら助けよう、でも助けても感謝されるわけではなく鬱陶しそうに見られるだけだ。
…感謝されなくても、誰かの役に立つなら俺は構わないと思った…それが俺が生きている価値になると思っていたが、彼らのような何の見返りもない優しさはなかった。
結局俺は生きる価値が欲しかっただけだ、彼らとは全然違った。
青い薔薇の花を持つ手とは反対の擦りむいて赤くなった手を見つめた。
まだ少し熱を持ってジクジクと痛みを与える傷、手を握りしめた。
「……おれ…に?…嘘だ」
誰に言うでもなく、独り言のつもりで呟いた。
すると銀髪の子は悲しそうな顔をして俺を見ていた。
周りがいつも俺にするような可哀想なものを見るような目ではなく、心が締め付けられるような気持ちになる。
いくら独り言とはいえ、目の前に本人がいるのに言うべきではなかった。
彼をこんな顔にしてしまったのは自分のせいだ。
「…どうして?」と銀色の子は聞いてきて「だって俺は醜いアヒルの子だから」と本当の事を言う。
二人には俺の事を何も知らないままで居てほしかった。
俺の周りのあの人達とは違うが、心の何処かで周りの人みたいな目を向けられるのではないかと恐れていた。
でも、それと同時に隠し事はしたくはなかった。
だから、俺を知らないでほしいと思う裏腹に俺を知ってほしいと思う自分もいた。
二人は俺を知らないから言っている意味が分からず、首を傾げたから俺は醜いアヒルの子の意味を教えた。
俺は兄弟の中で一番の出来損ないの醜い存在で、皆が言っている事だからそう思うのは当たり前なのだと…
誰もがそう思っている事だし俺もそう思っている、遠慮しなくていい…はっきり言ってくれた方が俺も嬉しい。
俺達の周りの空気がだんだん重くのしかかり、花も何だか元気がなくなっているように感じた…俺がそうさせてしまったんだ。
彼らもきっと俺の事を知って他の人達と同じように嫌悪感を抱くだろうと思っていたが想像していたのと違っていた。
その声に、顔に、学兄さんのような裏があるとはどうしても思えなかった…学兄さんの裏を見抜けなかった俺が言うのも変な話だけど…
「…ひでぇ…なんつー奴らだ!!」
「君の兄弟がどんなに良いのか知らないけど……君は醜くない、こんなに愛らしい子なのに」
二人は周りの人間と違い俺に嘘偽りもない言葉で話しかけてくれる。
俺の事を思ってこんなに真剣になってくれる相手は初めてだった。
俺は醜くない…きっとそれはずっと待ち望んでいて欲しかった言葉だったんだと気付いた。
いつも自分に言い聞かせるように自分は醜いんだと思っていても、やっぱり醜いなんて思いたくはない。
その言葉、信用してもいいのかな…出会ったばかりの知らない人の言葉。
助けを求めるように手を伸ばすと、二人は手を掴んでくれた。
離さないように、しっかりと強く握られていた。
そして二人に引っ張られて、足に力を入れて起き上がる。
『俺(僕)達がいるかぎり、君は一人じゃないよ…だから泣かないで』
それは俺にとって…神様の救いの言葉のように感じた。
俺は二人を見つめて、またポロポロと涙を流した。
オロオロする二人に首を振って違うと主張した。
これは…嬉しいから泣いてるんだ、心配掛けたくないから泣き止みたいが涙が止まらない。
嬉しい時も涙を流すんだと、この時初めて知った。
銀髪の子が俺の頬に触れて、優しく撫でてくれた。
すぐにその腕は黒髪の子に叩かれていて、俺から手を離した。
睨み合う二人は仲が悪いのではなく、仲がいいからこそ喧嘩し合っているような雰囲気だった。
俺には、仲がいいから喧嘩をする友達がいないからただの想像でしかないけど…
黒髪の子は銀髪の子の真似をして、俺の頬に触れた。
ただ触るだけかと思ったら、頬を軽く擦られてこねられた。
痛くはないがびっくりして、ギュッと目蓋を瞑った。
面白いのか分からないけど、されるがままになった。
ノートや教科書を掻き集めて、最後に転がっていたらランドセルを持ち上げて詰めようと思った。
しかし、学兄さんは俺の手を踏みつけてグリグリと楽しそうな顔をして痛めつけた。
手だけではない、小さな心は悲鳴を上げていて、この場にいる事が耐えられなくなってランドセルにノートとかを無理矢理押し込んで抱えて逃げ出した。
後ろから学兄さんの天使のような顔とは思えないほどの悪魔の笑い声を上げているのが聞こえたが、一度も振り返る事はなかった。
しばらく走り続けていたが、そろそろ息が苦しくなった時に立ち止まりしゃがんで泣き出した。
「うぅ…ぐすっ」
誰もいない大きな住宅街の真ん中に座る小さな俺……子供ながらに惨めなように思えた。
同級生や大人達に見放された俺には唯一頼れるのは兄だけだった、だけど本当は誰も俺を必要としていない一人ぼっちだったんだ。
何処にも居場所がない、これからどうしよう。
風が強く吹いていて、タンポポの綿が飛んでいく。
このまま消えてしまったら、どんなに楽なのか考えてしまう。
そしてしゃがむ俺の目線に二人の子供の足が見えた。
何故俺の前に立っているのか不思議に思い、目を丸くしながら恐る恐る見上げた。
「どうしたの?君」
「泣いてんのか?」
そこに居たのは、見た事がないようなとても綺麗な二人の違うタイプの子供が俺を見下ろして立っていた。
一人は糸のように繊細な銀色の髪の少女ともう一人はずっと見つめていたら吸い込まれてしまいそうなほどの綺麗な黒髪の少年だった。
……醜い俺とは生きる世界が違う、話しかけるのもおこがましい。
ずっとそう言われて生きてきた、だから自分に自信が持てなかった。
彼らは学兄さんとかと一緒にいた方がお似合いだ。
俺なんかよりもその方がずっと、きっと楽しい。
そんな当たり前の事を考えているだけなのに、とても心が締め付けられて涙がポロポロと出てきた。
すると何を勘違いしたのか黒髪のカッコイイ少年は慌てていて、隣の銀色の少年の方を見ていた。
「迷子か!?どうすればいいんだ!!」
「…落ち着きなよ、まずは彼の話を聞こう」
落ち着いている銀髪の人形のように綺麗な少女は両手いっぱいに青い薔薇の花束を持っていた。
青く綺麗に染まった薔薇は、クールで大人っぽい少女にぴったりだと思った。
風になびく髪を耳に掛ける仕草はとても絵になる。
ニコッと笑いかける笑顔は俺にはもったいないと思った。
そして手に持つ薔薇を一本、俺に差し出してきた。
細くて繊細な綺麗な指に魅入られて釘付けになる。
スカイブルーの見た事がない色の美しい薔薇だ。
「はいこれ、僕の家で育てた薔薇だよ…君にぴったりだ」
俺の腕は自然と伸びていて、薔薇を受け取っていた。
この女の子…僕って言うのか、じゃあ男の子なの?女の子でも僕って言う子はいるけど…女の子みたいな顔だし、頭がよく分からなくなり考えるのを止めた。
男でも女でも、目の前にいる子の美しさは何も変わってはいない。
こんな綺麗な薔薇が、俺にぴったり?そんな訳ない。
だって俺は両親にも醜いアヒルの子と言われるほど汚い存在なんだ。
お世辞だろう事は分かってる、本気にしてはいけない。
お世辞すら言われた事はないから一瞬驚いたが冷静になる。
綺麗な子は顔だけじゃなくて心も綺麗なんだな。
俺も顔が醜いならせめて人に優しくしようと思っていたが、彼らを見ていると俺の優しさなんてちっぽけなものなんだなと思った。
人が困っていたら助けよう、でも助けても感謝されるわけではなく鬱陶しそうに見られるだけだ。
…感謝されなくても、誰かの役に立つなら俺は構わないと思った…それが俺が生きている価値になると思っていたが、彼らのような何の見返りもない優しさはなかった。
結局俺は生きる価値が欲しかっただけだ、彼らとは全然違った。
青い薔薇の花を持つ手とは反対の擦りむいて赤くなった手を見つめた。
まだ少し熱を持ってジクジクと痛みを与える傷、手を握りしめた。
「……おれ…に?…嘘だ」
誰に言うでもなく、独り言のつもりで呟いた。
すると銀髪の子は悲しそうな顔をして俺を見ていた。
周りがいつも俺にするような可哀想なものを見るような目ではなく、心が締め付けられるような気持ちになる。
いくら独り言とはいえ、目の前に本人がいるのに言うべきではなかった。
彼をこんな顔にしてしまったのは自分のせいだ。
「…どうして?」と銀色の子は聞いてきて「だって俺は醜いアヒルの子だから」と本当の事を言う。
二人には俺の事を何も知らないままで居てほしかった。
俺の周りのあの人達とは違うが、心の何処かで周りの人みたいな目を向けられるのではないかと恐れていた。
でも、それと同時に隠し事はしたくはなかった。
だから、俺を知らないでほしいと思う裏腹に俺を知ってほしいと思う自分もいた。
二人は俺を知らないから言っている意味が分からず、首を傾げたから俺は醜いアヒルの子の意味を教えた。
俺は兄弟の中で一番の出来損ないの醜い存在で、皆が言っている事だからそう思うのは当たり前なのだと…
誰もがそう思っている事だし俺もそう思っている、遠慮しなくていい…はっきり言ってくれた方が俺も嬉しい。
俺達の周りの空気がだんだん重くのしかかり、花も何だか元気がなくなっているように感じた…俺がそうさせてしまったんだ。
彼らもきっと俺の事を知って他の人達と同じように嫌悪感を抱くだろうと思っていたが想像していたのと違っていた。
その声に、顔に、学兄さんのような裏があるとはどうしても思えなかった…学兄さんの裏を見抜けなかった俺が言うのも変な話だけど…
「…ひでぇ…なんつー奴らだ!!」
「君の兄弟がどんなに良いのか知らないけど……君は醜くない、こんなに愛らしい子なのに」
二人は周りの人間と違い俺に嘘偽りもない言葉で話しかけてくれる。
俺の事を思ってこんなに真剣になってくれる相手は初めてだった。
俺は醜くない…きっとそれはずっと待ち望んでいて欲しかった言葉だったんだと気付いた。
いつも自分に言い聞かせるように自分は醜いんだと思っていても、やっぱり醜いなんて思いたくはない。
その言葉、信用してもいいのかな…出会ったばかりの知らない人の言葉。
助けを求めるように手を伸ばすと、二人は手を掴んでくれた。
離さないように、しっかりと強く握られていた。
そして二人に引っ張られて、足に力を入れて起き上がる。
『俺(僕)達がいるかぎり、君は一人じゃないよ…だから泣かないで』
それは俺にとって…神様の救いの言葉のように感じた。
俺は二人を見つめて、またポロポロと涙を流した。
オロオロする二人に首を振って違うと主張した。
これは…嬉しいから泣いてるんだ、心配掛けたくないから泣き止みたいが涙が止まらない。
嬉しい時も涙を流すんだと、この時初めて知った。
銀髪の子が俺の頬に触れて、優しく撫でてくれた。
すぐにその腕は黒髪の子に叩かれていて、俺から手を離した。
睨み合う二人は仲が悪いのではなく、仲がいいからこそ喧嘩し合っているような雰囲気だった。
俺には、仲がいいから喧嘩をする友達がいないからただの想像でしかないけど…
黒髪の子は銀髪の子の真似をして、俺の頬に触れた。
ただ触るだけかと思ったら、頬を軽く擦られてこねられた。
痛くはないがびっくりして、ギュッと目蓋を瞑った。
面白いのか分からないけど、されるがままになった。
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