うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華

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第3章 王都騒乱編

第19話 勇者太郎

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「リョーマ、確か眠ってる人を起こす魔法使えたわよね?」

「はい、使えますよ」

「みんなで起こしてもパニックになるかも知れないから、私とリョーマの2人で起こしに行きましょうか」

 リーナさんのこの提案に特に反対する人も居なかったので、拉致した勇者を起こす役目は俺とリーナさんになった。

 ゼムスさんも拉致してきた手前、心配だから気配を消して一緒に来るそうだ。


「じゃあ、起こしますね。急に暴れたりはしないですよね?」

「城で見た感じだと、とても大人しい子だったから大丈夫だと思うけど・・・。
 いざとなったらリョーマ頼むわ。目が覚めて知らない場所だったら混乱するかも知れないし」

「分かりました。では、いきます」


 ☆


 僕の名前は長谷川はせがわ太郎。都内の高校に通う高校2年生だ。

 実は僕は子供の頃に病気になり、声を出すことができなくなった。そのせいか、小学・中学・高校と常にクラスでは浮いた存在だった。

 高校生にもなれば慣れたもので、クラスメイトからの心無い言葉も右から左にスルーするスキルは達人の域に達していると自負している。


 そして今日も僕は、放課後の教室で大好きなラノベを読んでいた。

 喋る事ができない僕が、唯一自分の世界に入れるのが読書の時間なのだ。いつも切りの良いところまで読んでいると、気付いたら教室に1人きりという事も少なくない。

 今日は僕が黙々と読書を楽しんでいる横で、素行が悪いことで有名な2人組、タクヤ&リョーコがお喋りをしている。僕なんて最初から居ないかのような扱いで会話を楽しんでいる。

 まあ、居ないかのようにというか、元々眼中にないんだろうな。

 そんな事を考えながら読書を進めていると、急に教室が光に包まれた。

「な、何だこれ!?」

「ちょっと卓也どうにかしてよ!」

 そんな声が聞こえるが、眩しすぎて良く分からない。そしてあまりの眩しさに目を瞑ったところで、急激に浮遊感が襲ってきた。

 1秒だろうか? 10秒だろうか? それとももっと経ったのか、一瞬だったのか、良く分からない感覚の後に目を開けると、そこは真っ黒な空間だった。横には卓也と諒子も居る。

 そして、次の瞬間に僕は理解する。これは待ちに待った異世界召喚だ! 僕が好んで読むのはファンタジー小説。その中でも最近はやりの異世界召喚・転生モノだ。ずっと異世界に憧れていた。

「くうっ、まさか3人来るとは思わなかった。ちょっとしんどいなぁ」

 そんな声が聞こえて辺りを見渡すと、さっきまで誰も居なかった気がするのに急に真っ黒な人物が現れた。この人が僕たちを召喚したんだろうか?

「やあ、僕は神様だ。君たちは勇者として異世界に召喚されたんだよ」

「はあ? 何言ってるんだよ。お前頭がおかしいのか?」

 さすが卓也だ。仮にも神様を名乗る謎の人物にその返し。何も考えてないんだろうな。

「ぼ、僕の頭がおかしい!? そんな事を言われたのは初めてだよ!」

 こんな感じで話が始まったけど、この神様が言う事を要約すると次のような感じだった。

 僕たちは異世界に勇者として召喚された。

 その途中で、この神様が1度僕たちをこの空間に引っ張ってきた。

 理由は封印されたダンジョンの封印を解くキーワードを渡したいからと。そこに居る魔王を倒して欲しいと。どうやら同じような内容を合計7人に話しているらしく、僕たち3人で丁度7人になったそうだ。

 他のメンバーと合流し、とあるダンジョンに行って封印を解いてほしいとの事だった。

 まあ、何て言うか胡散臭いの一言に尽きる神様だった。ただ、神様が言うには僕たちは勇者特典で最初からレベルは人類最高峰、更に勇者専用スキルに【収納】【鑑定】のお決まりスキル、更に更に神様から1つレジェンドスキルと言うモノが貰えるそうだ。

 神様は胡散臭いけど、貰える物は貰っておいて損はないだろうから断りはしなかった。


 最初に感じたような浮遊感の後、次に僕たちが居たのは石造りの部屋の中だった。

 女性が2人と男性が1人、高級そうな服を着ている。この人たちが勇者召喚をしたんだろうか?

「ようこそ勇者様。わたくしはこの国の王女です」

 そんな感じで自己紹介を始めて、召喚した理由を長々と説明してくれた。

 何でも世界に危機が迫っているとか、魔族が暗躍しているとか、他の王族はもう魔族に操られているから粛清しないといけないとか。うん、とっても胡散臭い。さっきの神様より更に胡散臭いよね。

 様々なラノベを読んできた僕だから言える。これはダメ系な異世界召喚だ。このままここに居たら不味いタイプに違いない。

 と言う事で、まずは無能を装って城を追放される事にしよう。

「それでは勇者様方、こちらの水晶に手を触れて頂けますか?
 こちらの水晶は開国の時代より我が王家に伝わる古代の秘宝アーティファクト。最高レベルであるレベル5の【鑑定】持ちをも【鑑定】する事ができる魔道具です」

 【鑑定】か・・・。さっき神様にもらったレジェンドスキル【鑑定偽装】の出番だ。無能に偽装して、さっさと追放してもらおう。さすがに無能だからって殺される事はないだろう。

「凄いですね。お2人ともレベル80に【勇者】スキル。向かうところ敵なしではありませんか?」

 卓也と諒子の【鑑定】が終わり、お姫様たちは大喜びしている。次は僕の番だ。

「最後は・・・、タロウ様ですか? レベルは10? スキルは・・・なし?
 どう言う事でしょう・・・」

「はっ! ノロマ君は異世界に来ても無能なんだな」

 卓也にそんなことろ言われてちょっとイラっとしたけど、ぐっと堪える。さっさと追放してもらうには目立たず、無害をアピールしないとね。

「おかしいですね・・・。しかし、私たちが召喚してしまったのです。責任を持って保護させて頂きます。(勇者を召喚した事が広まっても厄介ですしね)」

 いや、保護して頂かなくても結構なんですが・・・。しかも最後にボソッと本音が漏れてたし。どこかで逃げる機会を伺うしかないかな。

 その後は、この世界の事を色々と教えられ、夕飯を食べた後は客間に案内された。

 そこでまたひと悶着あり、俺は2人とは離れた部屋に案内される事となった。脱出するには好都合かもしれない。

 部屋に入り、ベッドに仰向けになり、天井を眺めながら今後どうするか考える。

 そしたら急に睡魔が襲ってきた。今日は色々あったから頭が疲れてるのかな・・・。そんな事を考えながら、僕は眠りに落ちたのだった。


 次に気付いた時、眠った時と違う、知らない天井がそこにあった。

「おはようございます」

 そして小学生低学年くらいの男の子が僕を覗き込んでいた。

───────
(あとがきも入れてですが)100話目らしいです。祝。
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