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最終章

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クガヤとサタヴァは、準備期間を経て、例の離れ小島へ小舟を漕いでやって来た。

小島から少し離れたところにも別の小島があり、間を繋ぐよう渡された吊橋を渡ると、行き来できるようになっている。

…夢で見た場所だ…サタヴァはそう思った。

昼間のため、夢のように水面は黒く見えない。

この吊橋を渡るのかとクガヤに振り向いて話しかけようとしたとき、クガヤが消え失せてあたりの雰囲気が変化したのに気づいた。

サタヴァが正面に向き直ると、吊橋の向こう側に、兜をかぶった少女が立っているのが見えた。
「…来てくれたの」

サタヴァは少女の元まで歩いて行った。
「これを渡しに」ネックレスを渡した。

少女はネックレスを受け取った。
「このためにわざわざここまで来てくれて、本当にありがとう。」

「ここでは、ネックレスに触れるんだな」

少女は、この場所全てがこの贈り物を受け入れたことになるからだと言った。
「これで、私の片割れ、もう一人の魂を救うことができる。あなたには感謝してもしきれない。

この橋を渡った奥に、広い洞穴を部屋のように使っている場所がある。一見、ほこらのようにも見えるの。

よく見ると、中には雑多に荷物がおいてあるんだけど、その中にあなたの友人が探しているものがきっとあるわ。
布地とか家具とかも積んであるけど、その下あたりかな。
欲しいなら好きに持っていって。もうこちらには必要ないものだから。
あなたは何の対価も求めず、ただ好意でここまで来てくれた。
その行いにふさわしいものは、与えられて然るべきだと思うの。
友人だけでなく、あなたもどうか、こちらの礼としてこれらを受け取って。」

他の人は今まで同様、来れないようにするけど、あなた方は行き来しても幻影がかからないようにするから、何度来てもいいと少女は言った。

「それからもう一つ。」少女は笑みを浮かべながら話す。
笑顔のせいもあるが、なんだか全体的に少女の雰囲気は明るくなってきている。
「あなた気づいている?本来の姿を取り戻しているのに。」

「…なに?」

「人の姿よ、きちんとした。」

サタヴァは思わず自分の顔を触った。
「そうなのか?」

「聖女アーシイア、あのかわいい子。あの子の祈りを捧げた砂をずっと持ち歩いてる助けは勿論あるんだけども。

一番の原因は、あなたに、人に似た姿へ変化する力はあっても、ちゃんとした人間には、戻れなくするような怨念がとりついていたのが、消え失せたことによるみたい。
それが消えた原因に、なにか心当たりはないの?あ、変化の術自体は、普通に使えるままだから。」

それを聞くと、サタヴァは真っ先に大蛇のことを思い出した。子蛇の死で恨みをかっていたことも。

大蛇は、しきりに彼のことを、お前は人ではないと言っていたが、もしかするとその念が子蛇のことでの恨みと共に、サタヴァに取り憑いていたのかもしれない。
だが、なぜそれが解消されることとなったかは、彼にはわからなかった。

サタヴァは、大蛇に対し最後に真心がこもった言動で返したが、恨みのたぐいはそういう返し方をされてしまうと、弱ったり解消されたりすることがある。
そのあたりが原因かもしれないのだが、そこまではっきりとはわからない。

「…覚えは、あるような気はするが、なぜこうなったかは正直わからない。」

少女はそれを聞いてコクンとうなづいた。「とにかく良かった。
ところで…そのね、白状するとね。」少女は悪戯っぽく舌をちょっと出し、話した。
「私、似た兜を被っていることもあって、あなたのことをまるで死んだ自分が蘇ったような感じだなとずっと思ってたの。勝手に親近感抱いて自己投影してた。
もちろん、あなたは、あなた。もう自分を重ねて考えないようにするから、許して!」

別に構わないさ、サタヴァはそう返事をしたが、少女は、年相応にくすくす恥ずかしそうに笑いながら、背景に溶け込み、消え失せていった。

景色の感じが普通になったので、再度振り返ると、クガヤが丸い目をパチクリさせてこちらを見ていた。
「お前、今消えてた!それなのにまた突然あらわれた!くそっ、これが例の幻影ってやつか?」

サタヴァはクガヤに今しがた例の少女に会ったことを話し、二人で少女に聞いた洞窟へと入った。

周囲を探すうち、サタヴァはふと、夢の中で少女がこしかけていたものに似た布地をはぐった。
当たりだった。布地の下から箱があらわれた。

箱を開けると、中には金色の金属の塊がぎっしりと入っていた。箱は何箱もあり、幾層にも重ねてある。全てに中身が入っているのなら、相当な量である。

クガヤが中を見て腰を抜かした。
「この金属、き、金だ…この量… すごい…ほ、他のは?」

クガヤはそう言いながら這うように他の箱を開けると、そちらには金貨がいっぱいにつまっていた。不用意に開けた蓋のふちから、中身が少しこぼれ落ちてしまう。
「待って!ちょっと待って!
これ本物の金ぽい…夢や幻影じゃないよな?なんだよこの量はよ!ありすぎるだろ!!あ、頭が壊れそう!どうにかなりそう!」クガヤは叫んでいる。

サタヴァがその横にある別の箱を開けてみると、そこにも金銀がぎっしりと入っていた。
「これまさか全部財宝のたぐいじゃないだろうな…似たような箱が、大量にあるんだが…」

手の届く箱をもう数個開封してみると、宝石っぽい石でいっぱいの箱やら、また金だけの箱やら、金貨ばかり詰められた箱やらだった。「手の届くとこは開封したけど全部財宝だな。でも、下に何層にもなってまだ箱が沢山あるのが見えるだろ。それらの中身もこんなだったら凄いよな。」

クガヤに話しかけるとちょうど気を失って倒れ込んだので、サタヴァはその体を受け止め、活を入れた。

「ヒイハア」クガヤが目を回しながら言う。「か、開封できた箱の部分だけでも、帝国をまるごと買えるか、それ以上のもんがここにはある…」

二人で話し合った結果、以下のことを取り決めた。
荷は少しずつ持ち出す。一気に帝国通貨へかえてしまうと、貴金属の価値自体が下がるためだ。
同じ理由で、使用する場合は、必要な分だけ使用するようにする。
ヤトルは一度は宝を断ったが、金に困ったときには助けるから必ず連絡をいれるようにと、村の方へ知らせを入れる。
ただ、宝の話は他にもれてしまうため、その知らせには書いたりしない。
取り急ぎこれらのことを取り決めた。

その後、クガヤは計画通り財宝を元手として自分の店を出した。

サタヴァの方は、自らの誕生した地である、火山の噴火で滅びたアグドラ王国まで戻り、そこで再び暮らすようになった。
師や他の友人たちとは遠いながらも時々通い、交流は続けた。

そして時は流れた…
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