87 / 89
最終章
86
しおりを挟む
帝都にあるクガヤの実家での夜。
クガヤはサタヴァとヤトルの二人に、とある計画を持ちかけた。
その計画とは、仙女の泉がある森を抜けたところに離れ小島がある、そこで財宝を探してみないか、と言うことだった。
鍛冶のギルド関係者から聞いた話では、以前はそこの住民と取引をしていた者達がいたらしいということだった。
小島の住民が小舟を漕いで渡って来て、貴金属のたぐいと食料との交換を求めていた時期があり、そこには財宝が大量にあるのではないかという噂となったらしい。
住民が絶えたらしく、もう取引自体しなくなってから長い。
ギルドの中でも、今はもうごくわずかな者しか知らない話になってしまったという。
宝の噂を確かめようにも、禁忌とされている水辺を渡らないとその場所へは行けない。
恐れず行こうとした者たちも、途中で恐ろしげな幻影に悩まされ、呪われたという話もあった。
不吉な水辺を渡るようなことをしているから、住民も死に絶えたんだ、なんてことを言う者もいる。
そんなこんなで、今では噂を知っている者も、危険を犯してまであるかどうかわからない宝を探しに行きたがらないらしかった。
クガヤは言うのだった。
「離れ小島までの道筋を知っている俺と、術にかからないサタヴァがいれば、宝を探しに行っても無事に帰ってこれる可能性が高いだろ。
宝が見つかったとして、量が多い場合だと運ぶのも大変だ。ヤトル、運ぶのを手伝わないか。
もし財宝が見つかったら、三人で山分けしようぜ!
俺は宝があれば商売の元手にするつもりだ。お前らだって、金で苦労することがなくなるかもしれないぞ!
ま、本当に財宝があれば、なんだけどな。
どうだ?この話に一山のらないか?
準備がいるから、すぐ行こうというわけじゃないけど。」
ただ、ヤトルはその誘いを断った。
「すみませんが僕はいいです。そろそろ帰宅して家族を安心させたいです。畑仕事に手もいるし。
宝が手に入るとしても、うちの村では財産は共有してるので、全部村のものになります。
それはいいのですが、宝のせいで税金をぐっと上げられるかもしれないです。その上で宝だって取り上げられるかもしれません。かえって皆が困りそうなので、やめときます。」
一方、サタヴァはクガヤからその場所の話を聞いて思うところがあった。どうも、夢に何度かあらわれた、あの兜の少女がいた場所に、地形が合致しているように思える。
サタヴァは、ネックレスを少女に届けに行くことを諦めておらず、夢で見た地形の場所を探し回る予定だったので、似た地形のところのように思えるため行ってみたいと話した。
「よし、それじゃサタヴァと俺の二人で向かうとするか。
ただ、先程も話したけど、準備があるので、すぐにとはいかない。
月が新しくなるころに、帝都の実家であるここに訪ねてきてくれないか。」
クガヤがそう言ったので、サタヴァは自分も準備してから来るようにすると返し、お互い落ち合うことを約束した。
次の日、サタヴァとヤトルは帰宅するため出立した。
ヤトルとはもしかして最後の別れになるかもしれず、三人は寂しい思いをしながら別れの挨拶をのべあった。
ヤトルはその後数日かけて、故郷の土地までやっとこさたどりついた。
次第に見慣れた土地の様子となり、自分の暮らす家が見えてきた。
…旅路が終わった。無事ここまで帰ってこれたんだ。ヤトルは感慨無量だった。
丈高くなった作物の向こうから、ほっそりした若い女の子が自分を見て駆け寄ってくる。子供二人産んでるようにはとてもみえないのが自慢の、ヤトルの女房だ。
「ヤトル!今日帰って来たのね!ずっと無事を祈ってた。」
ヤトルは、ただいま、と言いながら抱き寄せた。
背が伸びた二人の子供たちが、おかえりお父さん!と転げるように走ってくる。
ここが自分の場所だ、帰ってこれて良かった。
風になびく作物をみながらヤトルはそう思う。
ここでいつまでも家族と暮らし、生きていくんだ。
青々とした作物の隙間から、晴れわたった空が見える。
同じ空の下の地の果てを、薬草部隊の三名でかけずり回ったことを思いおこす。
誰か僕の経験した不思議な話を信じてくれるだろうか。
子供に話しても、パパのホラ吹き!と口を膨らませて終わりになりそうだな。
そしてその予感は当たることになるのであった。
クガヤはサタヴァとヤトルの二人に、とある計画を持ちかけた。
その計画とは、仙女の泉がある森を抜けたところに離れ小島がある、そこで財宝を探してみないか、と言うことだった。
鍛冶のギルド関係者から聞いた話では、以前はそこの住民と取引をしていた者達がいたらしいということだった。
小島の住民が小舟を漕いで渡って来て、貴金属のたぐいと食料との交換を求めていた時期があり、そこには財宝が大量にあるのではないかという噂となったらしい。
住民が絶えたらしく、もう取引自体しなくなってから長い。
ギルドの中でも、今はもうごくわずかな者しか知らない話になってしまったという。
宝の噂を確かめようにも、禁忌とされている水辺を渡らないとその場所へは行けない。
恐れず行こうとした者たちも、途中で恐ろしげな幻影に悩まされ、呪われたという話もあった。
不吉な水辺を渡るようなことをしているから、住民も死に絶えたんだ、なんてことを言う者もいる。
そんなこんなで、今では噂を知っている者も、危険を犯してまであるかどうかわからない宝を探しに行きたがらないらしかった。
クガヤは言うのだった。
「離れ小島までの道筋を知っている俺と、術にかからないサタヴァがいれば、宝を探しに行っても無事に帰ってこれる可能性が高いだろ。
宝が見つかったとして、量が多い場合だと運ぶのも大変だ。ヤトル、運ぶのを手伝わないか。
もし財宝が見つかったら、三人で山分けしようぜ!
俺は宝があれば商売の元手にするつもりだ。お前らだって、金で苦労することがなくなるかもしれないぞ!
ま、本当に財宝があれば、なんだけどな。
どうだ?この話に一山のらないか?
準備がいるから、すぐ行こうというわけじゃないけど。」
ただ、ヤトルはその誘いを断った。
「すみませんが僕はいいです。そろそろ帰宅して家族を安心させたいです。畑仕事に手もいるし。
宝が手に入るとしても、うちの村では財産は共有してるので、全部村のものになります。
それはいいのですが、宝のせいで税金をぐっと上げられるかもしれないです。その上で宝だって取り上げられるかもしれません。かえって皆が困りそうなので、やめときます。」
一方、サタヴァはクガヤからその場所の話を聞いて思うところがあった。どうも、夢に何度かあらわれた、あの兜の少女がいた場所に、地形が合致しているように思える。
サタヴァは、ネックレスを少女に届けに行くことを諦めておらず、夢で見た地形の場所を探し回る予定だったので、似た地形のところのように思えるため行ってみたいと話した。
「よし、それじゃサタヴァと俺の二人で向かうとするか。
ただ、先程も話したけど、準備があるので、すぐにとはいかない。
月が新しくなるころに、帝都の実家であるここに訪ねてきてくれないか。」
クガヤがそう言ったので、サタヴァは自分も準備してから来るようにすると返し、お互い落ち合うことを約束した。
次の日、サタヴァとヤトルは帰宅するため出立した。
ヤトルとはもしかして最後の別れになるかもしれず、三人は寂しい思いをしながら別れの挨拶をのべあった。
ヤトルはその後数日かけて、故郷の土地までやっとこさたどりついた。
次第に見慣れた土地の様子となり、自分の暮らす家が見えてきた。
…旅路が終わった。無事ここまで帰ってこれたんだ。ヤトルは感慨無量だった。
丈高くなった作物の向こうから、ほっそりした若い女の子が自分を見て駆け寄ってくる。子供二人産んでるようにはとてもみえないのが自慢の、ヤトルの女房だ。
「ヤトル!今日帰って来たのね!ずっと無事を祈ってた。」
ヤトルは、ただいま、と言いながら抱き寄せた。
背が伸びた二人の子供たちが、おかえりお父さん!と転げるように走ってくる。
ここが自分の場所だ、帰ってこれて良かった。
風になびく作物をみながらヤトルはそう思う。
ここでいつまでも家族と暮らし、生きていくんだ。
青々とした作物の隙間から、晴れわたった空が見える。
同じ空の下の地の果てを、薬草部隊の三名でかけずり回ったことを思いおこす。
誰か僕の経験した不思議な話を信じてくれるだろうか。
子供に話しても、パパのホラ吹き!と口を膨らませて終わりになりそうだな。
そしてその予感は当たることになるのであった。
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。
レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。
田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。
旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。
青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。
恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!?
※カクヨムにも投稿しています。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる