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最終章
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大蛇は目を爛々と輝かせてサタヴァを見ている。
奴は、自分の術が破れたのはわかってはいるだろうが、隙をみてまたサタヴァに術をかけようとするかもわからない。
そのため、サタヴァは大蛇の目を直に見ないように視線を外した。だがそれが仇となった。
大蛇は術をかけようとしたのではなく、サタヴァの動きを捉え攻撃を仕掛けようとしていたのだった。
カッと横に開いた牙のある口がサタヴァへ迫る。視線をそらせていたので、サタヴァは気づくのが遅れ、身をかわすのが精一杯となってしまった。
確か大蛇は、自分は年経て動くのが鈍くなってきたから、術で獲物を穫るという話をしていたのではなかったか。だが思ったより素早い動きだった。
もしかして術にかけながらも、まだこちらを警戒して、偽の情報を流していたのかもしれない。サタヴァはそう考え、注意を相手の動きに集中させた。
大蛇はサタヴァに頭を向け再度素早く近くに来た。
サタヴァは大蛇が食らいつく寸前に右手の剣を立て、大蛇の開けた口を盾のごとく塞いだ。大蛇は口を開いたままシャーッと威嚇音をたてる。
だがサタヴァの左手の剣を警戒したのか、大蛇はすぐに口を閉じ、後ろに下がった。
この蛇には毒はないため、毒を警戒する必要は無い。最もサタヴァに毒はあまり効かないのだが。
サタヴァは右手の剣で威嚇しつつ、左手の剣で比較的近くにあった胴体を刀身の平たい部分で殴打した。
刃を向けて切らないようにしていた。サタヴァは子蛇の死について同情していたため、これ以上危害を加えたくなかった。そのため、効果的な一撃とはならなかったようで大蛇はなんの反応も見せなかった。こちらの余裕が無くなると甘い考えのままではいられないかもしれない、とサタヴァは思った。
突如として大蛇は尻尾を振り回し、サタヴァの体に叩きつけてきた。サタヴァはすっ飛んでしまった。
ただ、落ちた地は砂地で、サタヴァも体は普通の人間より遥かに丈夫なため、手傷は負っていない。
サタヴァが立ち上がる間に大蛇はまた尻尾で襲って来たので、サタヴァは後ろへと飛び退いた。
だが息をつく暇も無く、頭の方が牙を向いて襲ってくる。
サタヴァが剣を盾にして大蛇の頭を防ごうとしたら、尾で攻撃してきた。どうにか頭を下げてやり過ごしつつ胴体に打撃を与えようとしたら、大蛇は素早く向き直り頭と尾の両方で向かって来たので、サタヴァは後ろへ飛んでよけるしかなかった。
状況は、ほぼ防戦一方となってきた。いつまでたっても終わりに辿りつきそうにない。こちらは防いだり避けたりする方法が似通ってきてしまい、そのうち裏をかかれそうだ。
ところでサタヴァは徒手で行う打撃の技を師から教わっている。
与える衝撃が相手の体を突き抜け、後ろのものに届くという衝撃波のような技だ。うまくいけば相手を昏倒させて倒すことが可能だ。
だが今はそれが使える状況ではない。その隙が無い、サタヴァはそう思った。
…大蛇は素早く向きを変えたり、移動している。頭や尾のどちらで次に攻撃してくるか、予想が難しい。最も予想できたとしても、その動きに人がついていくのは難しいだろう。
…この姿では相手の動きに対し、不利なのか?
「どうした。随分と苦戦しとるではないか。」大蛇は攻撃をやめ、また語りかけてきた。
「エフィド。よく考えろ。今のままのお前は何者にもなれぬ。
人の家族から、人ではないと断じられ、追い出されたのだろう。
人間の仲間から放逐されたため、真の望みもわからず、生の目的はただ茫漠としたものとなるであろう。
また行く末も定まることがない。ふらふらと彷徨えることとなろう。
自分が人であるか何であるかよく分からないのであろう。
問われても、なにかである、としか言えない惨めな有り様であろう。まるで生ける亡霊のごとくだな。
お前はそのままでいいのか?わしに従い、魔王となる方が賢い判断だと思うぞ。
魔王となれば、全ての人間を統べるほどの者となる。自分を捨てた人間を見返すこともできようぞ。」
「その名で俺を呼ぶな!…特に見返したくもない」サタヴァは答える。
皆から放逐されたわけでもない、と続けて言いたいところであるが、それは言えない。
今のところサタヴァの体は人とはいいづらい。体を変化させる術を使い、人として成長したらこんな感じだろうと予想した体を作っている。
これを知った上で受け入れてくれている人は、自分の師だけである。
「…こいつは口下手なんで口を出すが」ふところからルクが顔を出して言った。
「お前の話は蛇全体、獣全体、人間全体はこれこれだ、と言うばっかりだな。
各々にそれぞれの命や意志がある。我はそれぞれの命を尊いとする。
お前は各々に聞いてみたのか?
それぞれの蛇に、獣に、人を殺していきたいが賛同するかどうか、聞いてみたのか?
一部恨みのある連中を除いて、おそらくほとんどの者がそんなことには関心がない、と答えるであろう。
また人と仲良くやっている連中は、そんなことはとんでもないと答えるだろう。
お前は自らの個人的な恨みを、種族全体の恨みだとしているが、それがそもそも無理がある話なのだ。
命の輝きはそのひとつひとつが異なる。それは種族を超えるものであり、魂と呼ばれている。それらはひとくくりにして全体で語れるものではないのだ。
己の欲を詭弁で全体のものだとして押し付けることは罪である。天の罰を受けることとなろうぞ。」
奴は、自分の術が破れたのはわかってはいるだろうが、隙をみてまたサタヴァに術をかけようとするかもわからない。
そのため、サタヴァは大蛇の目を直に見ないように視線を外した。だがそれが仇となった。
大蛇は術をかけようとしたのではなく、サタヴァの動きを捉え攻撃を仕掛けようとしていたのだった。
カッと横に開いた牙のある口がサタヴァへ迫る。視線をそらせていたので、サタヴァは気づくのが遅れ、身をかわすのが精一杯となってしまった。
確か大蛇は、自分は年経て動くのが鈍くなってきたから、術で獲物を穫るという話をしていたのではなかったか。だが思ったより素早い動きだった。
もしかして術にかけながらも、まだこちらを警戒して、偽の情報を流していたのかもしれない。サタヴァはそう考え、注意を相手の動きに集中させた。
大蛇はサタヴァに頭を向け再度素早く近くに来た。
サタヴァは大蛇が食らいつく寸前に右手の剣を立て、大蛇の開けた口を盾のごとく塞いだ。大蛇は口を開いたままシャーッと威嚇音をたてる。
だがサタヴァの左手の剣を警戒したのか、大蛇はすぐに口を閉じ、後ろに下がった。
この蛇には毒はないため、毒を警戒する必要は無い。最もサタヴァに毒はあまり効かないのだが。
サタヴァは右手の剣で威嚇しつつ、左手の剣で比較的近くにあった胴体を刀身の平たい部分で殴打した。
刃を向けて切らないようにしていた。サタヴァは子蛇の死について同情していたため、これ以上危害を加えたくなかった。そのため、効果的な一撃とはならなかったようで大蛇はなんの反応も見せなかった。こちらの余裕が無くなると甘い考えのままではいられないかもしれない、とサタヴァは思った。
突如として大蛇は尻尾を振り回し、サタヴァの体に叩きつけてきた。サタヴァはすっ飛んでしまった。
ただ、落ちた地は砂地で、サタヴァも体は普通の人間より遥かに丈夫なため、手傷は負っていない。
サタヴァが立ち上がる間に大蛇はまた尻尾で襲って来たので、サタヴァは後ろへと飛び退いた。
だが息をつく暇も無く、頭の方が牙を向いて襲ってくる。
サタヴァが剣を盾にして大蛇の頭を防ごうとしたら、尾で攻撃してきた。どうにか頭を下げてやり過ごしつつ胴体に打撃を与えようとしたら、大蛇は素早く向き直り頭と尾の両方で向かって来たので、サタヴァは後ろへ飛んでよけるしかなかった。
状況は、ほぼ防戦一方となってきた。いつまでたっても終わりに辿りつきそうにない。こちらは防いだり避けたりする方法が似通ってきてしまい、そのうち裏をかかれそうだ。
ところでサタヴァは徒手で行う打撃の技を師から教わっている。
与える衝撃が相手の体を突き抜け、後ろのものに届くという衝撃波のような技だ。うまくいけば相手を昏倒させて倒すことが可能だ。
だが今はそれが使える状況ではない。その隙が無い、サタヴァはそう思った。
…大蛇は素早く向きを変えたり、移動している。頭や尾のどちらで次に攻撃してくるか、予想が難しい。最も予想できたとしても、その動きに人がついていくのは難しいだろう。
…この姿では相手の動きに対し、不利なのか?
「どうした。随分と苦戦しとるではないか。」大蛇は攻撃をやめ、また語りかけてきた。
「エフィド。よく考えろ。今のままのお前は何者にもなれぬ。
人の家族から、人ではないと断じられ、追い出されたのだろう。
人間の仲間から放逐されたため、真の望みもわからず、生の目的はただ茫漠としたものとなるであろう。
また行く末も定まることがない。ふらふらと彷徨えることとなろう。
自分が人であるか何であるかよく分からないのであろう。
問われても、なにかである、としか言えない惨めな有り様であろう。まるで生ける亡霊のごとくだな。
お前はそのままでいいのか?わしに従い、魔王となる方が賢い判断だと思うぞ。
魔王となれば、全ての人間を統べるほどの者となる。自分を捨てた人間を見返すこともできようぞ。」
「その名で俺を呼ぶな!…特に見返したくもない」サタヴァは答える。
皆から放逐されたわけでもない、と続けて言いたいところであるが、それは言えない。
今のところサタヴァの体は人とはいいづらい。体を変化させる術を使い、人として成長したらこんな感じだろうと予想した体を作っている。
これを知った上で受け入れてくれている人は、自分の師だけである。
「…こいつは口下手なんで口を出すが」ふところからルクが顔を出して言った。
「お前の話は蛇全体、獣全体、人間全体はこれこれだ、と言うばっかりだな。
各々にそれぞれの命や意志がある。我はそれぞれの命を尊いとする。
お前は各々に聞いてみたのか?
それぞれの蛇に、獣に、人を殺していきたいが賛同するかどうか、聞いてみたのか?
一部恨みのある連中を除いて、おそらくほとんどの者がそんなことには関心がない、と答えるであろう。
また人と仲良くやっている連中は、そんなことはとんでもないと答えるだろう。
お前は自らの個人的な恨みを、種族全体の恨みだとしているが、それがそもそも無理がある話なのだ。
命の輝きはそのひとつひとつが異なる。それは種族を超えるものであり、魂と呼ばれている。それらはひとくくりにして全体で語れるものではないのだ。
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