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最終章

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白い大蛇がエフィドと呼ぶ子蛇のところに戻って来ると、子蛇は目を閉じて輪になって休んでいるように見えた。
大蛇が近づくにつれて子蛇は薄目を開けた。

「エフィド」白蛇は呼びかけた。「寝ておるのか?目が覚めたのか?」

「目は覚めたというべきだろうな」子蛇は答えた。

「エフィド、どうした」
大蛇は警戒しながら問うた。
「お父さんと、なぜ呼ばなくなった」

「それはお前が父ではないからだな」子蛇は人の姿に変化した。
兜や二本の剣を身に着けている、いつもの彼の姿となる。

「…術が破れたか。随分と早いものだ。わしの術にかかった者は、普通死ぬまでそのままなのにな…ところで、なぜ子蛇の姿で出迎えた。」

「お前に聞きたいことがあった。人の姿のままだとお前が近寄って来ないかもしれないからな。
子蛇を火にくべた男についてだ。」

大蛇は口元を片側だけ上にあげて、嫌味な笑い方をした。
「あれがお前の本当の父親だ。忘れたのか?」

「わかっている。」エフィドと呼ばれていたサタヴァは答えた。

彼はかつて幼い頃家族からエフィドと呼ばれていた自分が、現在はサタヴァと呼ばれていることまで思い出したとき、白蛇に見せられた光景の男が父親であったことも、同時に思い出したのだった。

「あれは実際にあったことなのか」

「無論だ。光景は我が目で見たわけではないが、焼かれた子が死ぬ間際にその様をわしに伝えてきたのだ。」

様々な思いは、その思いを拾う者に伝わる。
縁者であれば尚更である。

大蛇は聞かれていないのにさらに次のように話した。
「わしはお前の父親に同じ目にあわせてやろうと思った。ずっとその隙を伺っておった。

ある時、やつの一粒種であるお前が、蜥蜴のような姿に変じた。すると、お前の家族らは化け物と罵り、お前を追放した。

やつの子を始末するチャンスだと思い、獲物として飲みこんだ。
だが蜥蜴の姿のお前は妙に皮膚が柔らかいのにしっかりしており、消化することができなかった。仕方無く吐き出し、いったん退いた。

そのうち、獣たちからきれぎれに聞くお前の噂から、お前が様々な術を使えることがわかってきた。

わしは気が変わった。ただ始末するのはやめだ。毒をもって毒を制することとしたのだ。

お前を使って世にはびこる人間どもを殺していこうと考えた。

そして、わしが取られた子のかわりに、お前の父親からその子を取ってやることとした。

これは、しごく理にかなった仕返しであるのだ。

まさか、突然不可思議な力により転移させられて来た場所で、お前と出くわすとも思わなかったが、これこそが運がわしに味方した証であろう。」

「そんなことに加担する気はない!」サタヴァは言い切る。

「…もう一度術にかけてやると、そういう気になるかもな」大蛇の目が怪しく輝く。

サタヴァは自分の家に戻っていた。

師であるおじいさんが奥から出てきた。「おお、よう帰ってきた。」旅は全て終わって家に戻って来れたのだった。

旅の最後ごろ疲れが出てしまい、蛇と話す奇怪な夢を見てうなされたが、泊まっていた鍛冶屋の家で目が覚めたのだ。そして、クガヤやヤトルに、寝ぼけた件でしきりにからかわれた。二人を帰宅の道筋まで送った後、自分一人でここまで帰って来たのだった。

サタヴァは師とくつろいで座り、これまでの旅について語った。

「なんと、そんな遠くまでゆくとは。いろんな経験が詰めたんじゃないかな。お前も少しは強くなれたかな?」師は、にこりと微笑んだ。

サタヴァは照れて頭をかいた。「いや、そんなこともないと思う。
いつも通りにやったらどうにかなったとしか、いえないから。」

「…実はな、お前に伝えていないことがあるのじゃ。」師は意味深に声をひそめた。
「本当に強くなる方法についてじゃ。
これまでは、わしはこのことについては、あえて教えて来なかったのじゃ。
その時が来るまでは」

「それは一体、どういう方法ですか?」サタヴァは身を乗り出して聞いた。

「人と命のやりとりをする戦いをすることじゃ。

人と戦うとき、様々な種類の殺しの経験を積むことにより、一層お前は強くなれるのじゃ。

人を殺すことをためらってはいかん。より技の経験を深く積むことができるからな。」

師は輝く眼差しでつけくわえた。「お前が一番信頼しておるのは、このわしのようじゃからな。わしの言うことを良く聞いて、これからは人を殺めていくのじゃぞ、エフィド。」

「うむ、なかなかに軽い演技や演出やらで、のめり込めぬ。」サタヴァは返した。
「お前に劇の主役をはるのはどうやら無理のようだな。脇役すらも厳しいとみえる。」

サタヴァが何も無いように見える空間に剣で切りつけると、大蛇が姿を現した。

「わしの術を見破り、隠れている場所まで見抜くとは…そして前回はかかっていた術を、どうやって解いたのだ!」
大蛇は驚愕しているようだ。

「まあ同じものを何度もかけられれば、手口もみてとれるからな」
サタヴァはこう返したが、真相は少し違う。

サタヴァと彼に名付けたのは彼の師であった。
エフィドという名のままでは、過去に縛られすぎて、人として自分の人生を歩めぬと思った師は、エフィドという名は取り上げ、サタヴァと新たな名を彼に授け、お前は悲惨な目にあった者とは別の人物である、としたのである。

その結果、サタヴァは表面の意識では、元の名がエフィドであるということを思い出すこともなく、痛ましい過去は多少ぼんやりとしたものとなり、彼の心を救う助けとなったのであった。

よって師が彼をエフィドと呼ぶことはあり得なかったのだ。殺生も可能なら避けろとも言われていた。これらのことが、この師は偽物であると断ずる糸口となったのである。

「だいたい、お前の言う仕返しとやらは、全く理にかなってなどおらんぞ」サタヴァのふところから猫の明王ルクが口を出した。

「個としてのこやつには全く関係がないことじゃないか。また、そちらがやろうとしていることは、人が邪悪だからと言いながらも、結局自分でも、同じような邪悪な行いをしますよ、という話ではないか。

正当化もなんもできんわい、そんな話。」
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