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最終章

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目が覚めたときお父さんがもういなかったので、僕は一人で草原を進んでいる。
お父さんはたぶん狩りをしているのだろう。
僕も、自分でできるだけ獲物を穫れるようにならなくちゃ。動きは下手っぴいだけども。

ノソノソ動いていると、目の端に鳥のようなものが映る。獲物かな?
そっと近づいたが、普通の鳥じゃなかった。
体は鳥なんだけど細長い尻尾がついてる。あれ、どこかで見たような…?

鳥は言った。「おいっ、蛇だろうがなんだろうが、舐めんじゃねえぞ!」そして息を吐いた。
「お前なんて怖くないやい!石にしてやる!」
鳥の息が頭にかかる。でもなんともない。少しくすぐったい。

「…あ、あれ?息、うまくかからなかった?」鳥は再度息を吐いた。

「ねえ、君、何してるの?」僕は興味を惹かれて鳥に話しかけてしまった。

「…嘘だろ?石にならない!」鳥は後ずさった。「ママ!息をかけても、石にならない蛇がいるよ!」
母鳥とやらがあらわれる。どうやら僕の相手をしたのは成長途中の子鳥で、一人で生き抜く訓練の最中らしかった。
「そんなことないでしょ。ちゃんと相手にかかってなかったんじゃない?…この蛇なの?」

母鳥は僕をちらと見たが、ひどく驚いた様子だった。
「あ、ああた!一体全体、そんな格好で何してるの?」そして僕のことを上から下までジロジロと見るのだった。
「他の子たちはみんな巣立ったようだけども、ああたはなんでそんな姿になったの?」

「ママ、こいつのこと知ってるの?」子鳥は首をかしげた。
「お前ももっと小さい頃には、この子とは会ってるはずだけど。
まあ、以前あった時は違う姿だったから、わからないのも無理はないわねえ…
世の中にはね、成長すると姿を変える生き物がいるのよ。それを、変態っていう。
この子は変態するタイプだったのねえ。」

「変態!」子鳥はいった。「母さんの知り合いのお前、変態!」

「…なんだとお!」僕は腹がたった。「誰が変態だ、誰が!」

この子鳥たちには、散々馬鹿だのどうだのと言われ放題だからだ。
さらには変態とまで言われる始末。
あ、あれ?…馬鹿にされたの、いつだっけ?

「その姿、でもまさか…あーっ、まさか!」母鳥は悲鳴をあげた。
「私をお母さんって間違えてたああた…
も、もしかして私の尻尾を、自分の成長するべき姿だと勘違いしたんじゃないでしょうねー!」
母鳥は尻尾を振ってみせた。細長い尻尾で鱗がついている。

「これを蛇と勘違いする生き物がいるんだけど…本当はただの飾りなの。
蛇を警戒する生物、多いから、蛇に似せた尻尾にしてる。
どこかへ行ってほしい生物が来たら、これを見せて追い払うのよ。
もちろん本当の蛇なんかついてやしない。
これ、擬態っていうのよ。」

母鳥はハアとため息をついた。「ああた、母と思ってる私と、同じ姿に成長しようとして、そんな姿になった…?
しかも頭じゃなくて尻尾の方をまねてしまうとか…
どういう判断してるのかしら?
成長しても、お馬鹿なのは変わらなかったのねえ…。」
母鳥は感慨深そうに語った。

「私達はもう行くけど、今からでも変えられるんなら、変えたほうがいいと思うわよ。
その姿、間違ってるから。」
母鳥と子鳥はトコトコと去って行った。

僕はそれを見送った。情報が多くて頭の中がごちゃごちゃしてる。
この姿が間違ってる、そう言われたことが、何やら真実のように思われて来た。
でもまだ頭は混乱したままだ。

僕は呆然としたまま平原に佇み、しばらくそこから動けなくなってしまった。

ガリッと胸が痛くなる。最近この痛みが、しょっちゅうある。
何かの病気じゃないだろうなあ…

ガリッガリッ。普段より痛い。
まるで、鋭い爪でも立てられているかのようだ。
そして僕の頭に、声が聞こえて来たのだ。
「…ヴァ!起きろ!目を覚ませ!」

知ってる声だ、と頭のどこかで思う。
この声は猫ちゃんだ!
猫ちゃん、僕のふところに入れたまんまだった。
出してほしくてずっと引っ掻いてたんだな。
それで胸のあたりが痛かったんだ。

僕はやっと得心がいった。
そしてふところから猫ちゃんを取り出そうとして、手が無いことに気づいた。

手…?
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