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第二章

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そんなある日。ついに仙女が何かを抱えて泉からあらわれた。
「出来たわ!これがご要望の伝説の武器。名付けて、『励起』よ!」仙女は得意そうに言った。

仙女が指し示している武器は、一抱えくらいの大きさで、小型の筒状のような形状をしている。先端に二枚、内へ湾曲した刃が向かい合うようについている。

刃がつけられた大砲のように見えるが、弾をどうやって入れ込むのか、見たところわからない。

「これはどうやって使うんだ。」サタヴァが尋ねた。

「そうね。まず、作り方から説明するとね…」

一同は固まった。
「せ、説明しなくてもいいかも…わからないんで…」ヤトルが恐る恐る口を挟む。

「わしは一応、聞くだけは聞いておきたい。」おやじさんは興味を惹かれているようだが、そう思っているのは彼だけのようだ。

仙女はこわばった皆の表情を見て言った。「わかったわ、もう、ざっくりとしか言わないわ。

泉の中の空間に、思考や想念がプラズマ状となって存在している場所がある。

そこで、良さそうな想念を選んで、このような形のものを創りだしました。」

「考えだけの状態のものを、形としたということか?」

「そう。想念はここの世界のものとは限らない。

ナギさんの世界の想念で、伝説の武器と呼ばれているものがあり、それを具現化したの。ま、正確には、いくつかの想念を組み合わせたんだけど。」

「は、はあ…」

「ちなみにこの世界で一度想念を具現化すると、

想念の出た元の世界にも、なぜか似たようなものが具現化してあらわれるの。全く同じものというわけじゃないんだけど…不思議な現象よね。

でも、想念元の世界で具現化する時については、まちまちとなる。

もしかしたらナギさんが来た時よりも過去に、具現化したものができてしまうかもしれない。」

「…そうするとナギの国では強力な武器が誕生するってわけか。

じゃあもう彼の国はもう安心だって言いたいとこだけどさあ、武器を他の国に取られたようなことを言ってたよな。これも取られちゃ意味ないよな。つか、かえってやばい。」クガヤは言う。

「…あちらの世界で具現化する時、想念があったとこ以外では使われない、盗まれないものとして創ったから、その点は大丈夫。

ただ、ナギさん本人は戦いが好きというわけではなかった…

だから、敵対するものへの抑止力としての武器だ、という願いも込めているわ。

向こうの世界ではそれらも含めて具現化するはず。その世界では平和がもたらされることになる。」

「こちらで使うのはどうやるんだ?」サタヴァが重ねて聞く。

「照準をあわせて引き金を引くだけよ。」仙女は手真似で引き金を引く動作をしてみせた。

「使うときには、注意点があるわ。

材料が全て想念だから、形を長くとどめておくことができないの。一度、撃ったらおしまいなの。」

「弾はどうするんだ、鋳造したものを入れ込んであるのか?」おやじさんが聞く。

「なんか大砲と思われてるみたいね。弾というか、発射するエネルギーについては、内部に充填されたものとして作ってあるから、それは大丈夫。

いずれにしろ一度しか利用しないから、外から充填する形式にはしてないの。」

一同は森から抜けて、開けた場所に出た。武器の方向をあわせる。

「…そのまま引き金を引いて発射して。渦を自動的に追尾するようになっているから、照準は適当でいいわ。」

サタヴァは引き金を引いた。

武器の先端の二枚の刃が、勢いよく重りあう。内部から鈍い音と振動が射出され、渦に命中した。渦から鈍く振動音が響く。

渦はその外側から内側に向かって、次第に縮小していった。

「なんか折り畳んで小さくなっていく感じだなあ」クガヤがそんな感想を述べる。

「そうね、あれって空間の内部構成物質を急激に破壊してるの。」

だがだいぶ小さくなったところで、崩壊は止まったように見えた。

「おかしいわ、そんなはずないわ。」仙女は呟く。「…あ、もしかして…」

「あー、渦、少し残っちゃいましたかね?」ヤトルが言う。「でも前よりかなり小さいから、魔獣なんか一度に多く出てこれなくなったんじゃないですかね。」

「まあ少しあらわれるくらいなら、これまでもあったから、別にいいんじゃないの。普通に生活していけそう。」クガヤも安心した様子で言っている。

「いえ、たぶん渦の空間自体は、すでに破壊されて残ってないと思うわ。

渦が小さくなっていったように見えたのは、内側から破壊しているので、中身が消失したぶん外側がへこんできて、そう見えていた。

今縮小が終わったように見えるのは、内部の空白というか真空を埋めようとして、サイズやら形状やらがちょうど合う物質が、渦があった空間内に転移してきた可能性があるわ。

最初に渦の空間を壊してるはずだから、転移してくる物質は、異世界のものではなく、この世界のものとなるんだけど。」

「なんか渦みたく、ぐるぐる巻きの同じサイズのものが、転移してきたってかあ?そんなもんがあるんかしらん。」クガヤは到底考えられそうもない、といった顔で言う。

「螺旋の空白の場所にバラバラなものがランダムに詰め合わせになっただけなのかもしれない。

高熱が発生してしまった場合には、溶けて固まって一つの螺旋とかになったかもしれないけど。」

「言われてみりゃ、渦よりもはっきり質感があるように見えるのう。ここからじゃ遠いから、近くに行ってみんとわからんがのう。」おやじさんも首をかしげて言う。

「ちょっと行って見てこよう」サタヴァは寝ているルクをふところから出した。
「ルク、ルク」

「今行くのはよしたほうがいいわ。何しろ、空間を破壊する方向へエネルギーを全て使いきったならいいけど、まわりに余分のエネルギーが漏れ出していたら、渦周辺は高熱となって危険だと思うわ。」

「大丈夫、渦からは離れた場所だ。」

ルクはつぶっていた目を薄く開けた。

「ルク、お休みのところ申し訳ないが、ネックレスを拾った場所まで転移してもらえないか?一度行ってる場所は転移できるんだよな?」

ルクは眠そうに言った。「いいけど眠い。転移したらすぐ寝る。帰るとき起こせ。」

サタヴァは全員を見ながら言った。「ちょっと現場を見てくる。離れた場所からだ。何時頃帰れるかわからないから、皆はおやじさんの家で、仙女さんは泉で待っててくれ。できるだけ早く戻る。」

「気をつけろよ」

サタヴァはルクの助けで転移した。ルクはすぐ寝たのでふところに戻した。

ネックレスを拾った場所は、渦からはまだ離れた場所だが、ここからでも酷い熱さを感じる。

サタヴァは、火山の噴火やら溶岩の流れ程度までの高熱であれば、耐えることはできる。

またルクも普通の生物ではないため、熱さなど彼には関係ない。

サタヴァは、元渦の周辺近くへと進んだ。

渦があったと思われるあたりの中心に、ぐるぐる巻きになった白いものがあり、それを霧のようなものが取り巻いている。渦よろしく、地に落ちることはなく、そのまま空中に浮いている。一連の現象が落ち着いたら地に落ちてくるのかもしれない。

サタヴァはその物体の周囲をまわり、眺め回した。

(…しかし、こうしてみると、昔戦った巨大な白蛇を思い出すな。形状からの連想だが、大きさもたぶんこんな感じだったな。あまりゾッとしない話だが。)サタヴァは大蛇と出くわしたくはなかった。

精神攻撃により支配されることはないサタヴァであったが、かつて戦った白い大蛇は例外であった。

蛇は、精神支配の術を使うものが多く出る。

目を合わせた獲物を催眠状態にし、逃げられないようにして食べるのだ。

思い出の中の白い大蛇は、相当強力な精神支配の術を仕掛けることができた。その種の術に強いはずのサタヴァは、手も足も出なかったのだった。

(…考えすぎか?)サタヴァは渦に入り込んだ螺旋を見ているうちに、その表面がまるで鱗で覆われているかのように思えてきたのだ。

(…どうも妙な連想をしすぎたな。蛇の鱗にしか見えなくなって来たぞ。)螺旋状の形式には、切込みが数か所あった。

(この切込みも、まるで蛇が目を閉じているかのように見える。思い込みとは怖いものだな。)

切込みがひらいた。中には、蛇の目があった。

「お前のことは覚えている、小僧。匂いでわかったぞ。」それはまさにその白い大蛇であった。

「さて、また我が術にかけるとするか。」

サタヴァは白い大蛇の目を見てしまった。
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