不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ

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第二章

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渦へ向かって出立してから六日目の夜。

サタヴァは、ルクの部屋の外に出ていた。気力体力回復のため、本当は出るのはやめておこうと思っていたのだが、今夜は何かに呼ばれたような気がしたのだった。

外はもう闇に包まれている。あまり霧もない。ふと見ると、あの兜をかぶった少女が佇んでいた。

「君は…!何故ここに!」

「…もっと早く気づくべきだったんだけど」少女は口をひらいた。「亡霊たちが半実体化できているこの周辺でなら、私も姿をとることができたみたい。その、あなたに伝えないといけないことがあるの。」

「どうしたんだ?」

「…実は、この前話した時とは事情が変わってきてしまったの。」

少女の話によれば、ネックレスを芯にした術をかけた者が、さらに強化しようと術をかけ直したせいで、ネックレスを依頼した場所まで持って行っても、空間の裂け目を閉じることが不可能な状態になってしまったということであった。

術者とネックレスは離れた場所にいるが、一度術式で縁を結んだ状態となったため、術が可能となったらしい。

「ネックレスを取ってきてもらっても、なんだかあなたがたにメリットがない話となってしまった。残念ながらこういう事態になってしまったのは今日、つい先程のことなの。このことを早く伝えたかった。」

サタヴァは聞いた。「君は何故、今話をする?ネックレスを持ってこさせてから、事情を話したら良かったのではないか。」先にそのことを話してしまったら、もうこちらが働いてくれないだろうとは思わなかったのか、と続けて聞く。

「してもらう側に利がないかもしれないとわかったのに、自分の都合だけで続けてやらせるなんて、ひどいでしょ?」

少女はわざわざこのタイミングで来たらしかった。誰かを騙したように取ってこさせると、彼女がしようとしていることに女神様の助けが得られないかもしれないから、と少女は言う。

「しかしそれでも、これは君が必要としているものなんだろう?」

少女はそれには答えなかった。「…こちらの話はしたわ。ルクくんの部屋にいたら私の話は通じないから、外に出ていてくれてて良かった。ネックレスはほら、もうそこにあるわ…」

少女が指さした場所までサタヴァが歩みすすむと、砂地に何かの骨で作ったらしいと思われる、木の葉を形どったネックレスが落ちていた。

落ちた砂地のまわりにはネックレスを中心として小さく銀の渦が巻かれており、そこから空中にも細長く銀色の渦が立ちのぼっている。

夕暮れや夜だと目立たない。一行は近くに来ていたのが夕方だったため、見落とした形になっていたが、朝になれば目を引くため見つけていたと思われた。

「休んでいる場所の近くにあったのか。」砂地のネックレスを拾い上げた。銀色の渦が消え去る。「このまま渡して受け取れないか?」

少女は首をふりながら、それでも両手を差し出し、受け取るかまえをみせた。年に似合わぬ傷だらけの両手の平の上に、ネックレスをのせる。だがのせたはずのネックレスは、サタヴァの手の内にあるままだった。

「私は霊魂だから、それを持つことはできないわ。指定の場所まで持ってきてほしかったけど、あなた方にいいことがないから…

あなたにそのまま持っていてもらっても大丈夫よ。それにあなたが持っていたら、これ以上の魔道士の術の行使に反応しないかもしれない。あなたにはそんじょそこらの術はかからないし、ネックレスは所有者の影響下におかれるからなの。…それが一番いいかもしれない。」

少女は寂しそうに言いその姿はぼんやりと薄らいでいく。「このまま森に戻るんでしょ?ルクくんの転移の術で。
ここまで来てくれて本当にありがとう。もう皆、家に帰ったらいいと思う。ここの場所、ただでさえ疲れるでしょ?
生者と死者がともにいると、死者は少しずつ生者の力を吸い取ってしまう。生者のあなたがたは、用もなく長居しないほうがいい。」少女はそのまま消えゆくように思われた。

サタヴァは叫んだ。「待ってくれ!空間の裂け目を閉じることについては、他に何か方法は無いのか?」

少女はサタヴァを見ながら言った。「あの渦自体を破壊することが可能なら…そう、渦自体がなくなれば、魔獣やら亡霊やらが、こんなにあらわれてくることは無くなる。でも、今この世に現存している武器では、それが可能なものはないわ…たとえ泉の仙女さんでも…そんなもの…作れたりしないと思う…わ…」少女は薄らぎゆく姿で切れ切れに言いながら消えてしまった。

サタヴァはネックレスを掴むと、ルクの部屋へ急いだ。
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