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第二章

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ナギは砂地を歩いて計測装置の手頃な置き場を探していた。

鍛冶屋のおやじさんに頼んで渦近くへの抜け道を案内してもらい、ここまで来たのだ。

おやじさんは別れ際に何やらしきりにのべており、どうやら何かあったらまたうちを頼れと言われていたようだった。

泉の仙女との話については、おやじさんには伝えていなかった。

会話が泉まで行かないと細かい点まで通じないということと、

渦の様子がいつまでも同様ではないとのことで、急ぐ必要があったのだ。

計測装置はプロペラを回しながら空中に浮かび、渦周辺やら、自分の乗り物の機体やらを撮影しはじめた。

この情報を機体のコンピュータに入れることより、高度や距離、必要な速度などを計測しているのだ。

機体の固体部分のスペックはすでに情報として入っているので、
高度や距離の計測の際、比較の対象として役に立つであろう。

これらの計測装置が備わっているのは、衛星によるサポートが得られない場合での活動も考慮に入れられているためだった。

ナギの乗り物と言われているのは、用途的には哨戒機である。

ただ、非公開な代物であり、型番や正式名称はついていない。

現段階では新技術を駆使して設計されたものである。

ただ実験段階ではなく、すでに実用投入されており、ナギは哨戒の用途で乗っている。

そのため、名称がないと酷く呼びづらい。

型番や正式名称をつけると、呼称が整えば情報が漏洩する。

まずそういったものが存在するということからスタートし、それを探りにかかるからということだった。

そういったわけでこの機体は機密保持のため名称はつけられず、また、存在しないこととされていた。

しかし実際使っているため、呼称を飛ばすと連絡をしづらいため、渾名をQ1とつけられていた。

渾名がついた時点で存在がばれるような気がするので、それだと正式名称をつけたほうがましなような気がする。

Qなんてアルファベットを頭につけられて、正体不明機、UFOみたいだなとナギは思っている。

計測が完了したらしい。ナギは機体に乗り込んだ。テスト。

エンジンやメーターなどの動作は問題ない。

一部武装もあるがここでは作動させない。帰投が先だ。

かわりにステルス機能が二種あるのだが、その二種をかわるがわる作動させてみる。OK。

カメラにて周囲確認、人影と思われるものは見当たらない。

乗り込む前にも周辺を歩いたが見当たらなかった。

一応、飛び立つ前に狼煙とやらをあげておくか…

ナギは一度降りて、三人に渡された狼煙を作動させた。

あの三人が見るかわからないが…

ナギは再度機体に乗り込んだ。

エンジンスタートし、機体を完全形へと変化させる。

機体の周りを、ある気体状の物質がとりまいていくのを見る。

完全型にする前の機体は、固体の部分のみであるが、

その周りに気体状の物質と言われている部分を、発生させつづけることにより、

実質の機体の大きさをあげることになるらしかった。

ここで気体状の物質とは言っても、いわゆる純然たる気体と言うわけではない。

見えない固体ではない体を常に機体周りに形成しているといった方が正確である。

ただ呼び名からその構成内容が判明してしまうので、気体状の物質とのみ呼んでいるらしい。

これにより浮力を強化する他、様々な効果を発揮するらしい。

また、固体で浮力を全て作る状態より重量が少なくて済むため、

使用するエネルギーもその分少なくて済むらしかった。

常に気体を取り巻かせているようになる場合だと、飛行時にそれにより抵抗が出てきてしまうのだが、

とある技術によりそれは解決されたらしい。

どうも上昇時と飛行時により気体状物質の形を変形させているような気もするのだが…それだけではないだろう。

その詳細についてはナギも知らされていない。

変形させているというのは、飛行時に気体状物質の部分も合わせてモニターするため、姿勢により変形しているのがみてとれるためだ。

ただ、固体ではないため、それらは他のものに接触しても問題はないとされている。

抵抗の解決やらは、この技術の肝となる部分らしい。

技術が他国に取られてしまうことを恐れ、味方においてもあまり説明はされない。

完成型になった機体をエンジンスタートさせる。

急激に上昇する。通常であれば衝撃に備えるところだが、この機体ではそれほど気にしなくて大丈夫である。

計測は正確に取れたようで、計算どおり渦の出入り口まで来れた。

問題はここからだ。

出入り口に機体の先端を入れると、仙女の話どおり、そのまま引きずられて移動し、口へと入る。

ここで地の方向へと体勢をむける。地に激突は避けたいが…

だが、加速しなければ過去へ帰ることはできず、

加速が足りなければ、過去へ帰れたとしても手の打ちようがないほどのタイミングにしか戻れないかもしれなかった。

南無三!!

エンジンを最大限に加速させる。

4.3.2.1…

渦と地面との間は距離的に通り過ぎていると思われる時間は経過したが、激突はしなかった。

うまく乗れたか…?時間の流れとやらに…?

ここでナギはさらに加速するためにある方法を試すつもりであった。

ジャクシアという技術開発組織が、この機体の設計に関わっていたのだが、

その中の一人がナギの友人である。

友人はこう語った。

「この機体にはブースターを設置する。上の判断ではこれは不要らしいんだが、万が一のためだ。

不要とされた理由は、機体が軽く設計されているため、火力の出力は通常の重量のある機体ほどいらないだろうとされているためだ。」

予算の関係が絡んでいそうな話だった。

「ただどうしても急ぐ場合もあると思う。そういう事態は想定されないのかもしれないが、自分は想定し設置しようと思う。

お前が乗るということだからな。

こんなこともあろうかと、と言いながら、先人は転ばぬ先の杖を想定して開発し続けてきたんだ。

だからまあ、上からは嫌がられても、こっそりつけておく。

こういう類の保険は、歴代、不要であると上から言われる宿命であるらしい。

そりゃそうだ。上の連中は実際に使わないからな。

ただ、生き死にの境目では、こうした無駄と言われる保険が生還率をあげていたりするんだぞ。

保険だけどこんなこともあろうかと思いながらつけたからな。

毎回必ず生きて帰れよ。」

今の若い連中は真面目で素直すぎて、不要であるとされたらほんとに省いてしまうとこがあるんだと、ぼやきながら友人は話を終えた。

ナギは心密かに友人に感謝した。

三段のブースターを次々と加速させてゆく。

間に合ってくれ!そう祈りながら。
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