61 / 89
第二章
61
しおりを挟む
ナギは砂地を歩いて計測装置の手頃な置き場を探していた。
鍛冶屋のおやじさんに頼んで渦近くへの抜け道を案内してもらい、ここまで来たのだ。
おやじさんは別れ際に何やらしきりにのべており、どうやら何かあったらまたうちを頼れと言われていたようだった。
泉の仙女との話については、おやじさんには伝えていなかった。
会話が泉まで行かないと細かい点まで通じないということと、
渦の様子がいつまでも同様ではないとのことで、急ぐ必要があったのだ。
計測装置はプロペラを回しながら空中に浮かび、渦周辺やら、自分の乗り物の機体やらを撮影しはじめた。
この情報を機体のコンピュータに入れることより、高度や距離、必要な速度などを計測しているのだ。
機体の固体部分のスペックはすでに情報として入っているので、
高度や距離の計測の際、比較の対象として役に立つであろう。
これらの計測装置が備わっているのは、衛星によるサポートが得られない場合での活動も考慮に入れられているためだった。
ナギの乗り物と言われているのは、用途的には哨戒機である。
ただ、非公開な代物であり、型番や正式名称はついていない。
現段階では新技術を駆使して設計されたものである。
ただ実験段階ではなく、すでに実用投入されており、ナギは哨戒の用途で乗っている。
そのため、名称がないと酷く呼びづらい。
型番や正式名称をつけると、呼称が整えば情報が漏洩する。
まずそういったものが存在するということからスタートし、それを探りにかかるからということだった。
そういったわけでこの機体は機密保持のため名称はつけられず、また、存在しないこととされていた。
しかし実際使っているため、呼称を飛ばすと連絡をしづらいため、渾名をQ1とつけられていた。
渾名がついた時点で存在がばれるような気がするので、それだと正式名称をつけたほうがましなような気がする。
Qなんてアルファベットを頭につけられて、正体不明機、UFOみたいだなとナギは思っている。
計測が完了したらしい。ナギは機体に乗り込んだ。テスト。
エンジンやメーターなどの動作は問題ない。
一部武装もあるがここでは作動させない。帰投が先だ。
かわりにステルス機能が二種あるのだが、その二種をかわるがわる作動させてみる。OK。
カメラにて周囲確認、人影と思われるものは見当たらない。
乗り込む前にも周辺を歩いたが見当たらなかった。
一応、飛び立つ前に狼煙とやらをあげておくか…
ナギは一度降りて、三人に渡された狼煙を作動させた。
あの三人が見るかわからないが…
ナギは再度機体に乗り込んだ。
エンジンスタートし、機体を完全形へと変化させる。
機体の周りを、ある気体状の物質がとりまいていくのを見る。
完全型にする前の機体は、固体の部分のみであるが、
その周りに気体状の物質と言われている部分を、発生させつづけることにより、
実質の機体の大きさをあげることになるらしかった。
ここで気体状の物質とは言っても、いわゆる純然たる気体と言うわけではない。
見えない固体ではない体を常に機体周りに形成しているといった方が正確である。
ただ呼び名からその構成内容が判明してしまうので、気体状の物質とのみ呼んでいるらしい。
これにより浮力を強化する他、様々な効果を発揮するらしい。
また、固体で浮力を全て作る状態より重量が少なくて済むため、
使用するエネルギーもその分少なくて済むらしかった。
常に気体を取り巻かせているようになる場合だと、飛行時にそれにより抵抗が出てきてしまうのだが、
とある技術によりそれは解決されたらしい。
どうも上昇時と飛行時により気体状物質の形を変形させているような気もするのだが…それだけではないだろう。
その詳細についてはナギも知らされていない。
変形させているというのは、飛行時に気体状物質の部分も合わせてモニターするため、姿勢により変形しているのがみてとれるためだ。
ただ、固体ではないため、それらは他のものに接触しても問題はないとされている。
抵抗の解決やらは、この技術の肝となる部分らしい。
技術が他国に取られてしまうことを恐れ、味方においてもあまり説明はされない。
完成型になった機体をエンジンスタートさせる。
急激に上昇する。通常であれば衝撃に備えるところだが、この機体ではそれほど気にしなくて大丈夫である。
計測は正確に取れたようで、計算どおり渦の出入り口まで来れた。
問題はここからだ。
出入り口に機体の先端を入れると、仙女の話どおり、そのまま引きずられて移動し、口へと入る。
ここで地の方向へと体勢をむける。地に激突は避けたいが…
だが、加速しなければ過去へ帰ることはできず、
加速が足りなければ、過去へ帰れたとしても手の打ちようがないほどのタイミングにしか戻れないかもしれなかった。
南無三!!
エンジンを最大限に加速させる。
4.3.2.1…
渦と地面との間は距離的に通り過ぎていると思われる時間は経過したが、激突はしなかった。
うまく乗れたか…?時間の流れとやらに…?
ここでナギはさらに加速するためにある方法を試すつもりであった。
ジャクシアという技術開発組織が、この機体の設計に関わっていたのだが、
その中の一人がナギの友人である。
友人はこう語った。
「この機体にはブースターを設置する。上の判断ではこれは不要らしいんだが、万が一のためだ。
不要とされた理由は、機体が軽く設計されているため、火力の出力は通常の重量のある機体ほどいらないだろうとされているためだ。」
予算の関係が絡んでいそうな話だった。
「ただどうしても急ぐ場合もあると思う。そういう事態は想定されないのかもしれないが、自分は想定し設置しようと思う。
お前が乗るということだからな。
こんなこともあろうかと、と言いながら、先人は転ばぬ先の杖を想定して開発し続けてきたんだ。
だからまあ、上からは嫌がられても、こっそりつけておく。
こういう類の保険は、歴代、不要であると上から言われる宿命であるらしい。
そりゃそうだ。上の連中は実際に使わないからな。
ただ、生き死にの境目では、こうした無駄と言われる保険が生還率をあげていたりするんだぞ。
保険だけどこんなこともあろうかと思いながらつけたからな。
毎回必ず生きて帰れよ。」
今の若い連中は真面目で素直すぎて、不要であるとされたらほんとに省いてしまうとこがあるんだと、ぼやきながら友人は話を終えた。
ナギは心密かに友人に感謝した。
三段のブースターを次々と加速させてゆく。
間に合ってくれ!そう祈りながら。
鍛冶屋のおやじさんに頼んで渦近くへの抜け道を案内してもらい、ここまで来たのだ。
おやじさんは別れ際に何やらしきりにのべており、どうやら何かあったらまたうちを頼れと言われていたようだった。
泉の仙女との話については、おやじさんには伝えていなかった。
会話が泉まで行かないと細かい点まで通じないということと、
渦の様子がいつまでも同様ではないとのことで、急ぐ必要があったのだ。
計測装置はプロペラを回しながら空中に浮かび、渦周辺やら、自分の乗り物の機体やらを撮影しはじめた。
この情報を機体のコンピュータに入れることより、高度や距離、必要な速度などを計測しているのだ。
機体の固体部分のスペックはすでに情報として入っているので、
高度や距離の計測の際、比較の対象として役に立つであろう。
これらの計測装置が備わっているのは、衛星によるサポートが得られない場合での活動も考慮に入れられているためだった。
ナギの乗り物と言われているのは、用途的には哨戒機である。
ただ、非公開な代物であり、型番や正式名称はついていない。
現段階では新技術を駆使して設計されたものである。
ただ実験段階ではなく、すでに実用投入されており、ナギは哨戒の用途で乗っている。
そのため、名称がないと酷く呼びづらい。
型番や正式名称をつけると、呼称が整えば情報が漏洩する。
まずそういったものが存在するということからスタートし、それを探りにかかるからということだった。
そういったわけでこの機体は機密保持のため名称はつけられず、また、存在しないこととされていた。
しかし実際使っているため、呼称を飛ばすと連絡をしづらいため、渾名をQ1とつけられていた。
渾名がついた時点で存在がばれるような気がするので、それだと正式名称をつけたほうがましなような気がする。
Qなんてアルファベットを頭につけられて、正体不明機、UFOみたいだなとナギは思っている。
計測が完了したらしい。ナギは機体に乗り込んだ。テスト。
エンジンやメーターなどの動作は問題ない。
一部武装もあるがここでは作動させない。帰投が先だ。
かわりにステルス機能が二種あるのだが、その二種をかわるがわる作動させてみる。OK。
カメラにて周囲確認、人影と思われるものは見当たらない。
乗り込む前にも周辺を歩いたが見当たらなかった。
一応、飛び立つ前に狼煙とやらをあげておくか…
ナギは一度降りて、三人に渡された狼煙を作動させた。
あの三人が見るかわからないが…
ナギは再度機体に乗り込んだ。
エンジンスタートし、機体を完全形へと変化させる。
機体の周りを、ある気体状の物質がとりまいていくのを見る。
完全型にする前の機体は、固体の部分のみであるが、
その周りに気体状の物質と言われている部分を、発生させつづけることにより、
実質の機体の大きさをあげることになるらしかった。
ここで気体状の物質とは言っても、いわゆる純然たる気体と言うわけではない。
見えない固体ではない体を常に機体周りに形成しているといった方が正確である。
ただ呼び名からその構成内容が判明してしまうので、気体状の物質とのみ呼んでいるらしい。
これにより浮力を強化する他、様々な効果を発揮するらしい。
また、固体で浮力を全て作る状態より重量が少なくて済むため、
使用するエネルギーもその分少なくて済むらしかった。
常に気体を取り巻かせているようになる場合だと、飛行時にそれにより抵抗が出てきてしまうのだが、
とある技術によりそれは解決されたらしい。
どうも上昇時と飛行時により気体状物質の形を変形させているような気もするのだが…それだけではないだろう。
その詳細についてはナギも知らされていない。
変形させているというのは、飛行時に気体状物質の部分も合わせてモニターするため、姿勢により変形しているのがみてとれるためだ。
ただ、固体ではないため、それらは他のものに接触しても問題はないとされている。
抵抗の解決やらは、この技術の肝となる部分らしい。
技術が他国に取られてしまうことを恐れ、味方においてもあまり説明はされない。
完成型になった機体をエンジンスタートさせる。
急激に上昇する。通常であれば衝撃に備えるところだが、この機体ではそれほど気にしなくて大丈夫である。
計測は正確に取れたようで、計算どおり渦の出入り口まで来れた。
問題はここからだ。
出入り口に機体の先端を入れると、仙女の話どおり、そのまま引きずられて移動し、口へと入る。
ここで地の方向へと体勢をむける。地に激突は避けたいが…
だが、加速しなければ過去へ帰ることはできず、
加速が足りなければ、過去へ帰れたとしても手の打ちようがないほどのタイミングにしか戻れないかもしれなかった。
南無三!!
エンジンを最大限に加速させる。
4.3.2.1…
渦と地面との間は距離的に通り過ぎていると思われる時間は経過したが、激突はしなかった。
うまく乗れたか…?時間の流れとやらに…?
ここでナギはさらに加速するためにある方法を試すつもりであった。
ジャクシアという技術開発組織が、この機体の設計に関わっていたのだが、
その中の一人がナギの友人である。
友人はこう語った。
「この機体にはブースターを設置する。上の判断ではこれは不要らしいんだが、万が一のためだ。
不要とされた理由は、機体が軽く設計されているため、火力の出力は通常の重量のある機体ほどいらないだろうとされているためだ。」
予算の関係が絡んでいそうな話だった。
「ただどうしても急ぐ場合もあると思う。そういう事態は想定されないのかもしれないが、自分は想定し設置しようと思う。
お前が乗るということだからな。
こんなこともあろうかと、と言いながら、先人は転ばぬ先の杖を想定して開発し続けてきたんだ。
だからまあ、上からは嫌がられても、こっそりつけておく。
こういう類の保険は、歴代、不要であると上から言われる宿命であるらしい。
そりゃそうだ。上の連中は実際に使わないからな。
ただ、生き死にの境目では、こうした無駄と言われる保険が生還率をあげていたりするんだぞ。
保険だけどこんなこともあろうかと思いながらつけたからな。
毎回必ず生きて帰れよ。」
今の若い連中は真面目で素直すぎて、不要であるとされたらほんとに省いてしまうとこがあるんだと、ぼやきながら友人は話を終えた。
ナギは心密かに友人に感謝した。
三段のブースターを次々と加速させてゆく。
間に合ってくれ!そう祈りながら。
1
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
令嬢キャスリーンの困惑 【完結】
あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」
そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。
14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。
すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる