54 / 89
第二章
54
しおりを挟む
「サタヴァさんは渦の近くへ行くんですよね…」ヤトルが言う。
薬草部隊三人は、鍛冶屋のおやじさんの住まいにいる。
おやじさんとナギは仙女の泉へ日参し、話とやらを聞くことにしたらしく、今日ももうでかけている。
三人はナギの件で何かできることはないかと言ったが、特に何もしなくていい、申し訳ないからと本人から言われてしまった。
そうすると、ここでやることもないため、サタヴァは、二人はもう故郷へ帰ったらどうかと言い出しているところだった。
「そのことなんだけど、俺は渦までサタヴァの後からついていこうかな…って思ってる」クガヤは言う。
「だって、実害のない幻影は無視したらいいにしても、魔獣に帰り道襲われるのは嫌なんだ。
お前と一緒の方が安心だよ。
お前が渦近くでネックレスをとって夢の女の子に渡したら、魔獣、今ほどはでなくなるんだろ?
そうなってから故郷に帰る方が道中安全だと思う。」
「僕もそのつもりです。
まあ、魔獣が出るとこだと言われている渦の近くまで行くのは、ちょっと怖いんですけど…」
口では自分達のためのように言っているのだが、その実、二人に心配されているのを感じるサタヴァだった。
自分にはその心配、不要なんだが…
「…いつまでかかる旅になるかはっきりわからない。
魔獣が出てくると、戦いになるだろうし、幻影や亡霊に惑わされるだろうし。
幻影の軍勢に襲われるという話もあるらしいんだ。
ただ、切りつけられても、傷は負わないらしいが。
…そんな感じで、必ずしも全面的に安全とは言えない旅になるんだ。」
サタヴァは話しながら困っていた。
自分だけで行動していれば、酷く危険な目にあった場合でも、いざとなれば姿を変化させる術を使うと、
どんな敵があらわれてもそれほど不安はない。
もちろん、今の人の姿の状態でもかなり平気だが、残り二人はそうではなく、
二人を守ることになると、術を使わねば守りきれなくなる可能性がある。
体が変化する術を見られたくはない。
まあ、姿を変化させる術以外の術もつかえたりするのだが、非常に地味な術であるため、
それらは考えにものぼらないサタヴァであった。
…二人は帰そう。
「みんなあまり意識してないと思うんだけど、俺って実は隊長だったりするんだ。
隊長命令で薬草部隊は解散とする。
各自は指定の窓口にて報酬を受け取って帰郷すべし。
帰郷に際しては、できるだけ人と共に行動し、安全なルートと思われる道を選び帰ること。
それなら無事帰れる確率が高まる。
…では解散!」
しかし残り二人は動こうとしなかった。
「…か、解散だ…
渦の近くについてくるなんて危ないから、早く家に帰るように!」
「うん、解散な。確かに承りましたとも。
そしてその後、俺がサタヴァのあとをついていくのは、俺の自由な。」クガヤがいう。
「また危ないからと言って、また僕らを置いて、一人だけ行動するんですか。」ヤトルが非難するような目を向ける。
それを聞いてサタヴァは胸をつかれたようになった。
二人が亡くなったと思っていた時の心情が一瞬、呼び起こされた。
確かに、事象が落ち着くまでは、この二人は自分と一緒に行動したほうが安全かもしれなかった。
魔獣退治に慣れている本隊に、守ってくれと頼ることもできない。
一度報酬をもらい兵役を終了させる手続きを終えてからでないと、
兵士が足りないからそのまま魔獣狩りなどの戦いに参加しろと言われそうな情勢に加え、
なんだか味方殺しのようなことまで横行している状況なのだった。
近寄らぬに越したことはない。
「まあ、お前がしょげたりぐったりきた時には、
俺が右腕を、ヤトルが左腕を支えて行くからさ。
いるだろ?俺ら。」
クガヤは言い、ヤトルもうなづいた。
サタヴァは、その言葉を聞き、二人の前で姿を変えることなく人として接して貰い続けたいという思いをますます持つようになった。
だが、そのことと、二人の安全性の確保とを、両立させないと…!
サタヴァはふとある方法が頭に閃いた。
…この方法だと、うまく行く可能性があるかもしれない!
そして、その思いつきが浮かんでからは、二人に帰るように言わなくなっていった。
薬草部隊三人は、鍛冶屋のおやじさんの住まいにいる。
おやじさんとナギは仙女の泉へ日参し、話とやらを聞くことにしたらしく、今日ももうでかけている。
三人はナギの件で何かできることはないかと言ったが、特に何もしなくていい、申し訳ないからと本人から言われてしまった。
そうすると、ここでやることもないため、サタヴァは、二人はもう故郷へ帰ったらどうかと言い出しているところだった。
「そのことなんだけど、俺は渦までサタヴァの後からついていこうかな…って思ってる」クガヤは言う。
「だって、実害のない幻影は無視したらいいにしても、魔獣に帰り道襲われるのは嫌なんだ。
お前と一緒の方が安心だよ。
お前が渦近くでネックレスをとって夢の女の子に渡したら、魔獣、今ほどはでなくなるんだろ?
そうなってから故郷に帰る方が道中安全だと思う。」
「僕もそのつもりです。
まあ、魔獣が出るとこだと言われている渦の近くまで行くのは、ちょっと怖いんですけど…」
口では自分達のためのように言っているのだが、その実、二人に心配されているのを感じるサタヴァだった。
自分にはその心配、不要なんだが…
「…いつまでかかる旅になるかはっきりわからない。
魔獣が出てくると、戦いになるだろうし、幻影や亡霊に惑わされるだろうし。
幻影の軍勢に襲われるという話もあるらしいんだ。
ただ、切りつけられても、傷は負わないらしいが。
…そんな感じで、必ずしも全面的に安全とは言えない旅になるんだ。」
サタヴァは話しながら困っていた。
自分だけで行動していれば、酷く危険な目にあった場合でも、いざとなれば姿を変化させる術を使うと、
どんな敵があらわれてもそれほど不安はない。
もちろん、今の人の姿の状態でもかなり平気だが、残り二人はそうではなく、
二人を守ることになると、術を使わねば守りきれなくなる可能性がある。
体が変化する術を見られたくはない。
まあ、姿を変化させる術以外の術もつかえたりするのだが、非常に地味な術であるため、
それらは考えにものぼらないサタヴァであった。
…二人は帰そう。
「みんなあまり意識してないと思うんだけど、俺って実は隊長だったりするんだ。
隊長命令で薬草部隊は解散とする。
各自は指定の窓口にて報酬を受け取って帰郷すべし。
帰郷に際しては、できるだけ人と共に行動し、安全なルートと思われる道を選び帰ること。
それなら無事帰れる確率が高まる。
…では解散!」
しかし残り二人は動こうとしなかった。
「…か、解散だ…
渦の近くについてくるなんて危ないから、早く家に帰るように!」
「うん、解散な。確かに承りましたとも。
そしてその後、俺がサタヴァのあとをついていくのは、俺の自由な。」クガヤがいう。
「また危ないからと言って、また僕らを置いて、一人だけ行動するんですか。」ヤトルが非難するような目を向ける。
それを聞いてサタヴァは胸をつかれたようになった。
二人が亡くなったと思っていた時の心情が一瞬、呼び起こされた。
確かに、事象が落ち着くまでは、この二人は自分と一緒に行動したほうが安全かもしれなかった。
魔獣退治に慣れている本隊に、守ってくれと頼ることもできない。
一度報酬をもらい兵役を終了させる手続きを終えてからでないと、
兵士が足りないからそのまま魔獣狩りなどの戦いに参加しろと言われそうな情勢に加え、
なんだか味方殺しのようなことまで横行している状況なのだった。
近寄らぬに越したことはない。
「まあ、お前がしょげたりぐったりきた時には、
俺が右腕を、ヤトルが左腕を支えて行くからさ。
いるだろ?俺ら。」
クガヤは言い、ヤトルもうなづいた。
サタヴァは、その言葉を聞き、二人の前で姿を変えることなく人として接して貰い続けたいという思いをますます持つようになった。
だが、そのことと、二人の安全性の確保とを、両立させないと…!
サタヴァはふとある方法が頭に閃いた。
…この方法だと、うまく行く可能性があるかもしれない!
そして、その思いつきが浮かんでからは、二人に帰るように言わなくなっていった。
1
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる