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第二章
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剣の修理が終わったので食事にしようといい、おやじさんは他の部屋にいた男を呼んで来ようと席を外した。
三人は台所へ移動し、食事を簡単に準備しながら、今後どうするかという話になった。
何しろ、この三人にしては、もう仕事は終わりとなっており、
あとは報酬をもらって故郷に帰るだけなのである。
「それでお前はこれからどうするつもりなんだ?」クガヤはサタヴァに尋ねた。ヤトルもサタヴァを見ている。
「…自分は、夢で見た少女に、渦のそばに落ちたネックレスを取ってきてほしいと頼まれたので、それをやってみようかと思いはじめている。」
サタヴァは、ネックレスにかけられた術式のせいで、異界から様々な魔物や幻影、亡霊達が数多くあらわれるようになってしまっていると話した。
ネックレスを少女に返すことができたら、以前の状態に戻り魔物などの数は今より少なくなるので、みんなが比較的平和に暮らせるようになると思う。
そう話しているうちにおやじさんと男が来たので食事になった。
男はどうやら名をナギと言うようだった。
おやじさんとナギは、食事がすんだら落とし物をした泉へ行くつもりのようで、残り三人はついていくことにした。
一つには、場所を知らないでおくと、間違えて立ち寄ると面倒なことになると思ったからだった。
もう一つは、みな口には出さないが、ナギが心配だったこともある。
ほんの一日程度しか共におらず、また会話も通じないのだが、ナギの人の良さは見て取れた。
また、彼の酷い嘆きようも気になっており、今後どうするか全て見届けるとまではいかないものの、
せめて泉に落としたものが無事に手元に帰ってくるかどうかは確認しておきたいところだった。
特にサタヴァは少し前まで似たような精神状態にあったため、他人事と思えなかったこともある。
だが泉につく頃、サタヴァは、見覚えのある場所だと思い始めた。
そう、毒のある草木に触ったあとにここに来て体を洗ったのだった。
おやじさんが泉に向かって落とし物を返してやれとか、なんやかんや怒鳴りだし、ナギも困った顔で何やら呼びかけると、泉から女性がニョッキリと顔を出してきた。
黒っぽい髪と目をしており、なんだかヒラヒラした格好をしていた。
驚くことに、泉から出てきたにもかかわらず、その体は濡れていなかった。
また出るときも水面はさざ波も波紋も立っていなかった。
「わあっシャプナほどじゃないけど、まあまあ美人のお姉さん!」
クガヤが一歩前に出た。
「どうも始めまして!あなたが泉の仙女様ですか?」
「クガヤ」おやじさんが囁いた。「仙女、わしが子供の頃からいるという噂だから、もうかなりの年増」
クガヤは二歩さがった。
「うるさいわねえ、落とし物ってそうそうやる方が悪いと思うの」仙女とやらはおやじさんに向かって言った。
「あなたたちは何か落としたの?」仙女は三人の方を見ている。
「その、思い出したんだが、以前泉に来たと言ったろ、この場所だった。」サタヴァは言った。
「お前、なんか落としたのかよ!」クガヤが言う。
「いいや、別に何か落としたわけじゃないさ…体をここで洗い、垢を落としたくらいなんだから」
「垢!」仙女は慌てた。「うげぇ!げええ!」仙女は口をおさえて泉から完全に離れた。泉の横の草むらでしゃがんでうなっている。
「俺、この旅をはじめてから、初対面の女の人が吐く確率が高いような気がしてきた」クガヤは言う。
その間もおやじさんは仙女に文句をつけている。
「人様のものを素直に返そうとしないからそういう目にあうんじゃ!」
仙女は泉の中に戻り、すぐ手に何やら持って出てきた。
「はいこれ!どうぞ!」ナギに何やら渡したのは金色の刃物と、銀色の剣だった。
しかしナギがそれに答えて何かいうと、
「えーっそれで満足しようよ!別に最初のでなくてもいいじゃない、二つもあげるんだし」と仙女は言い出した。
ナギはやや強い調子でそれに言い返した。
「携行し紛失しない義務があるって言われても、落としたそっちが悪いんじゃない!」
「ちょっと待て」おやじさんは言った。「お前、ナギの言葉がわかるのか?」
「あらもちろんよ!一応私仙女だしい?今こうしてあなたがたに話してても、私の言葉は彼には理解できるようにはなっているわ。
…そうね、あなたたちの言葉も彼と理解できるようにしてみるわ。ここの場所限定になるけど。」
「そんな力があり、仙女のような尊い存在なんだったら、グズグズ言わず返してやれ!」
「だってまだ分析が完了してないんだもの!」仙女はむくれた。
「この落とし物、ここの世界で作られたものじゃないんだもん。
物質と物質の結合がここの世界より遥かにしっかりしてるんだもの、よく見ておきたいじゃない!」
おやじさんは息を飲んだ。
「以前から思ってはいたが、最初に金色や銀色のものを手渡してくる件だが…
昔、それに近いことができるやり方を、ギルド仲間から聞いたことがある。
もう伝説となっており、わしらの設備ではとても出来そうにない方法なんだが…
貴様、既存の金物類に、金属を蒸着させておるな?」
「何よ!わかってるんなら、わざわざ聞かなくてもいいじゃない!」仙女は言う。
「貴様と技術的な話をしたい」おやじさんは言った。
三人は台所へ移動し、食事を簡単に準備しながら、今後どうするかという話になった。
何しろ、この三人にしては、もう仕事は終わりとなっており、
あとは報酬をもらって故郷に帰るだけなのである。
「それでお前はこれからどうするつもりなんだ?」クガヤはサタヴァに尋ねた。ヤトルもサタヴァを見ている。
「…自分は、夢で見た少女に、渦のそばに落ちたネックレスを取ってきてほしいと頼まれたので、それをやってみようかと思いはじめている。」
サタヴァは、ネックレスにかけられた術式のせいで、異界から様々な魔物や幻影、亡霊達が数多くあらわれるようになってしまっていると話した。
ネックレスを少女に返すことができたら、以前の状態に戻り魔物などの数は今より少なくなるので、みんなが比較的平和に暮らせるようになると思う。
そう話しているうちにおやじさんと男が来たので食事になった。
男はどうやら名をナギと言うようだった。
おやじさんとナギは、食事がすんだら落とし物をした泉へ行くつもりのようで、残り三人はついていくことにした。
一つには、場所を知らないでおくと、間違えて立ち寄ると面倒なことになると思ったからだった。
もう一つは、みな口には出さないが、ナギが心配だったこともある。
ほんの一日程度しか共におらず、また会話も通じないのだが、ナギの人の良さは見て取れた。
また、彼の酷い嘆きようも気になっており、今後どうするか全て見届けるとまではいかないものの、
せめて泉に落としたものが無事に手元に帰ってくるかどうかは確認しておきたいところだった。
特にサタヴァは少し前まで似たような精神状態にあったため、他人事と思えなかったこともある。
だが泉につく頃、サタヴァは、見覚えのある場所だと思い始めた。
そう、毒のある草木に触ったあとにここに来て体を洗ったのだった。
おやじさんが泉に向かって落とし物を返してやれとか、なんやかんや怒鳴りだし、ナギも困った顔で何やら呼びかけると、泉から女性がニョッキリと顔を出してきた。
黒っぽい髪と目をしており、なんだかヒラヒラした格好をしていた。
驚くことに、泉から出てきたにもかかわらず、その体は濡れていなかった。
また出るときも水面はさざ波も波紋も立っていなかった。
「わあっシャプナほどじゃないけど、まあまあ美人のお姉さん!」
クガヤが一歩前に出た。
「どうも始めまして!あなたが泉の仙女様ですか?」
「クガヤ」おやじさんが囁いた。「仙女、わしが子供の頃からいるという噂だから、もうかなりの年増」
クガヤは二歩さがった。
「うるさいわねえ、落とし物ってそうそうやる方が悪いと思うの」仙女とやらはおやじさんに向かって言った。
「あなたたちは何か落としたの?」仙女は三人の方を見ている。
「その、思い出したんだが、以前泉に来たと言ったろ、この場所だった。」サタヴァは言った。
「お前、なんか落としたのかよ!」クガヤが言う。
「いいや、別に何か落としたわけじゃないさ…体をここで洗い、垢を落としたくらいなんだから」
「垢!」仙女は慌てた。「うげぇ!げええ!」仙女は口をおさえて泉から完全に離れた。泉の横の草むらでしゃがんでうなっている。
「俺、この旅をはじめてから、初対面の女の人が吐く確率が高いような気がしてきた」クガヤは言う。
その間もおやじさんは仙女に文句をつけている。
「人様のものを素直に返そうとしないからそういう目にあうんじゃ!」
仙女は泉の中に戻り、すぐ手に何やら持って出てきた。
「はいこれ!どうぞ!」ナギに何やら渡したのは金色の刃物と、銀色の剣だった。
しかしナギがそれに答えて何かいうと、
「えーっそれで満足しようよ!別に最初のでなくてもいいじゃない、二つもあげるんだし」と仙女は言い出した。
ナギはやや強い調子でそれに言い返した。
「携行し紛失しない義務があるって言われても、落としたそっちが悪いんじゃない!」
「ちょっと待て」おやじさんは言った。「お前、ナギの言葉がわかるのか?」
「あらもちろんよ!一応私仙女だしい?今こうしてあなたがたに話してても、私の言葉は彼には理解できるようにはなっているわ。
…そうね、あなたたちの言葉も彼と理解できるようにしてみるわ。ここの場所限定になるけど。」
「そんな力があり、仙女のような尊い存在なんだったら、グズグズ言わず返してやれ!」
「だってまだ分析が完了してないんだもの!」仙女はむくれた。
「この落とし物、ここの世界で作られたものじゃないんだもん。
物質と物質の結合がここの世界より遥かにしっかりしてるんだもの、よく見ておきたいじゃない!」
おやじさんは息を飲んだ。
「以前から思ってはいたが、最初に金色や銀色のものを手渡してくる件だが…
昔、それに近いことができるやり方を、ギルド仲間から聞いたことがある。
もう伝説となっており、わしらの設備ではとても出来そうにない方法なんだが…
貴様、既存の金物類に、金属を蒸着させておるな?」
「何よ!わかってるんなら、わざわざ聞かなくてもいいじゃない!」仙女は言う。
「貴様と技術的な話をしたい」おやじさんは言った。
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