上 下
50 / 89
第二章

50

しおりを挟む
鍛冶屋のおやじさんは早朝からすでに作業を始め、終えていた。
「この刃こぼれは研ぎで大丈夫だった。そんなに時間はかからなかったぞ。」

作業が終わる頃、サタヴァ、ヤトル、クガヤの三人は目が覚めて見に来ていた。

見なれない服装の男は、まだ休んでいるか、遠慮して来ないかのどちらかのようだった。

こういう研ぎだけなら、自分でもできるかもしれんぞとおやじさんは言ったが、

借り物なので、きちんとしたところで直しておきたかったとサタヴァは返した。

代金については、この程度ならいらないとおやじさんは言ったが、
今までの宿泊や食事の礼もある。

砦で修理代として頼まれていた薬草を差し出した。

「これなら釣りが来る。このあたりには薬草の見分けがつく者がなかなかいないからな。」
おやじさんは言い出した。

「釣りとして、その辺においている金物で良ければ、好きにもって行ってくれ。

依頼をしようとしてやめた客が置いていったものがたくさんある。素材として売っても値はつくぞ?」

おやじさんがそう言うと、

ヤトルは、いきなり壁に立てかけてあった未修理の農具を触りだした。

それは、先が複数にわかれていた農具で、先の幾つかは取れたらしく、二股となっているものだった。

クガヤは頭が入りそうなくらいの大きさの鍋を、棚の奥からガラガラと引きずり出してきている。

「は?あの、二人とも!」サタヴァは二振りの剣を二人に差し出した。

「言うの遅くなって悪かった。

その、武器、ほしかったんじゃなかったかな…

この剣、一つずつ二人にと思うんだけど。

あ、俺はこの剣があるし、遠慮とか全然しなくていいから!

なんか持ってないと、道中危ないって言ってただろ?」

「そういうのが格好いいと思ってた時もありましたけど、僕はこれが武器なんですよ。

作物と戦うんですから。

僕的には、この方が格好いいと今は思うようになったんです。」ヤトルは言う。

「それと、剣もらっても使い方わからないです。そもそも持ち方からしてわからないです。

…本当にいざ戦わないといけなくなったときでも、こちらの方が使い勝手いいんですよ、慣れてますから。」

「うちの鍋を勝手に持って来ちまったからな。

持って来たやつを持ち帰れないんで、別のを手に入れないといけないんだよ。

それに、これだってわりと使えるだろ?攻撃にしても防御にしても。
あ、むやみやたらに人を叩かないようにするから!

もうお前のことも、少々女にもてるからって、やっかんで叩かないから!」

サタヴァが一歩後ろにさがってしまったのでクガヤは急いで付け加えた。

サタヴァは鋭い武器は皮膚に刺さらないが、頭から打撃をうけると、少しクラクラするようだった…

「やっぱりそうだったんだ!そうじゃないかと思ってたんだ!

わざと叩いたと思ってたんだから!」ヤトルが責めるように言う。

「あー、一人だけモテモテなのを、ちょっとポカンとやる程度で水に流してやってるのは、俺の心が途方もなく広いからだぞ!」

クガヤがよくわからない自慢をする。

「ゆうか意外と危険なんでだめですよ!」

「わかってるって」

二人が剣を受け取らなかったので、サタヴァは一本ここに置いておくようにした。

最初から持っている剣と、兵士の剣を片手ずつ持とうとするが、抜き身の兵士の剣には鞘がなかった。

おやじさんが、鞘は鞘だけで転がってるものがだいぶあるから、合いそうなのを持っていけと言ってくれ、一つ合うものをいただいた。

おやじさんは、今回は鍛冶の作業はしなかったが、いいものを見せてやろうと、球体に振り子が取付けられている器具を見せてきた。
振り子を水平に持ち手を放すと、揺れはじめ、それと連動しているらしい器具の部分が、複雑に動き始める。

打つ時はこの器具の動きが大きい時に鍛冶をうつと、いい仕事ができるのだとおやじさんは話した。

なんでも、手の力だけでは叩くにはある程度しかまでいかないから、地が動く力も利用しようとしているのだという話だった。
地の動く力は、時期や時間帯によって少しずつ異なるらしい。

ごく僅かなことらしいが、その僅かなことを利用しようというのだ。

鍛冶のギルドでは、古からの記録があり、
暦などにこの季節この時間などには地の動きのせいで自然と鍛冶をうつ力が強まるという記録をしてあるらしく、

それにそって作業を行うと良いものが作れたという伝承がある。それは失われつつある技術なんだ、とおやじさんは言う。

「何だか秘中の秘のような、ものすごい秘密事項を聞いてしまったような気がする」

クガヤが言う。

「これ、俺らが聞いてしまって問題なかったのか?」

「例え聞いたとしてもそれをやろうとする者が最近おらんからまず全く問題ない」おやじさんは言う。

「これをやると利益はあがらないからな。

暦の通り作業するようにすると、時期によっては、わざわざ深夜などに起きて作業しないといけなくなるんだ。

人を雇ってやらせている場合だと、割増賃金となってしまう。

自分でやるにしても、休みが予定通り取れず暦の方にあわせるようになるんだ。

そのせいもあり、みなこういったことはやめて来てるんだ。」

「あー…まあ、それは、そうなるかも…」

「時代の流れだから仕方ないんじゃがな。

もう一つ、元来の暦が最近あてにならなくなっている。

あの渦が出たあたりからだ。いろんなとこに影響があるのかもな。
まあ、作業自体ができなくなるというわけではないんだがな…」

サタヴァは仲間がいつも通りに、やいやい話をしているのを見て、幸せそうな笑顔を浮かべた。

その顔を見て、おやじさんは何やら考え込む顔となり、クガヤに耳打ちした。「この黒髪の連れ、出身はどこなんだ?」

「本人もよくわからないらしい。孤児で拾われて育ったみたいだから」クガヤは囁き返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか

まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。 しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。 〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。 その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...