29 / 89
第一章
29
しおりを挟む
シャプナが自分のすみかに帰ったのはクガヤたちと別れてすぐだった。
山間部の廃屋をそのまますみかにしており、その中に倒れこむように入った。
シャプナはひどく疲れてしまっており、早く休みたかった。
今日はもう何もしたくなかった。
「お帰り、シャプナ」
「アーシイア!」シャプナはぱっと明るい顔になった。
来客は、クガヤとの会話に出てきた帝都で働いている姉だった。
アーシイアはシャプナと同じく、白黒メッシュの髪をしていたが、シャプナと違って腰のあたりまで長く伸ばしていた。
目の色はシャプナ同様、薄緑色で、鼻筋も通っている。顔立ちは整っており、こちらも相当な美形だった。
ただ顔はシャプナが可愛らしさとあだっぽさのミックスのような感じなのに対し、アーシイアの方は、細面な正統派美人だった。
細長い黒いズボンをはいており、肩の上から白いケープを流している。白黒の長髪がそのケープの上から流れるように腰あたりに落ちている。
普段は鼻メガネをかけているのだが、使わず額のあたりに押しやってその分前髪が膨らんでいた。
「シャプナ」アーシイアの表情は曇った。「久しぶりにどうしてるかと思って来てみたのよ。どうしたの?ひどく疲れた顔をして。」
アーシイアはそのままシャプナの顔をまじまじと見つめている。「あなた泣いてるの?ねえ、何があったの。」
シャプナはクガヤとのことを話した。アーシイアは次第に険しくなる顔でその話を聞いていた。
「それ、どのへんで会ってたの?」
シャプナは場所を説明したあと、不思議に思って聞いた。
「アーシイア?場所関係ある?」
「まあちょっとね。できたら一言言ってやろうかと思って」
「それダメ!これはクガヤとシャプナとのやりとりだから。」シャプナは急いで言った。
「アーシイア、まさか、クガヤに何かしようとしてないよね?」
「そもそも、女神様に見放された愚かな人間の分際で、
この私の妹に酷いこというなんて、腹の虫がおさまらない。」
「シャプナそれ望んでない」シャプナは必死に言った。
「クガヤ、シャプナのこと助けてくれた。アーシイアがクガヤに何かするのダメ!クガヤに何もしないって約束して!」
アーシイアは、別にクガヤに怪我させたりするつもりはないと話し、シャプナはホッとした顔になった。
その後、アーシイアが帝都から持ってきた土産物を食べて、シャプナはホッとしたのと疲れたのでテーブルで寝てしまい、アーシイアはベッドにシャプナを寝かせた。
「何もしないわ、それは確かね。」アーシイアはシャプナの頬の涙をぬぐいながらつぶやいた。
「でも、シャプナの心を傷つけた落とし前は、つけさせていただくわ」
サタヴァはクガヤとヤトルが寝入った後、広間から出て、夜もふける中、建物の外に出ていた。
サタヴァは二人より先に寝たように見せていたが、実際には寝ていなかったのだ。
獣とのやりとりや、クガヤとシャプナとのやりとりを目の当たりにしてからというもの、以前からのある悩みが表に出てきてしまい、
しかもそれが残り二人に話せない類の悩みだったため、眠れなくなっていたのだった。
夜の闇が濃く更けて来たのを感じたので、さすがに明日に差し支えるだろうと、サタヴァが広間に戻ろうとしたとき、
闇をぬって誰かがこちらへ歩を進めてきたのが見えた。
雲の合間から月の光がさしてきて、その人物を照らし始めた。
こちらに来るにしたがって、月光は次第に白と黒の長い髪、白いケープなどをあらわにした。
若い美しい女だった。月の光のせいで白々と全身が輝いて見えた。女は口を開いた。
「どうも、初めまして。私はアーシイアと申します。」
女は近づいてくる。
「帝都で聖女やってます。この度は」
女の目は釣り上がっており口元に牙が見えた。美しい顔が怒りを含んでいたため恐ろしげな様となっていた。
「妹が大変こちらで世話になったようで。」
山間部の廃屋をそのまますみかにしており、その中に倒れこむように入った。
シャプナはひどく疲れてしまっており、早く休みたかった。
今日はもう何もしたくなかった。
「お帰り、シャプナ」
「アーシイア!」シャプナはぱっと明るい顔になった。
来客は、クガヤとの会話に出てきた帝都で働いている姉だった。
アーシイアはシャプナと同じく、白黒メッシュの髪をしていたが、シャプナと違って腰のあたりまで長く伸ばしていた。
目の色はシャプナ同様、薄緑色で、鼻筋も通っている。顔立ちは整っており、こちらも相当な美形だった。
ただ顔はシャプナが可愛らしさとあだっぽさのミックスのような感じなのに対し、アーシイアの方は、細面な正統派美人だった。
細長い黒いズボンをはいており、肩の上から白いケープを流している。白黒の長髪がそのケープの上から流れるように腰あたりに落ちている。
普段は鼻メガネをかけているのだが、使わず額のあたりに押しやってその分前髪が膨らんでいた。
「シャプナ」アーシイアの表情は曇った。「久しぶりにどうしてるかと思って来てみたのよ。どうしたの?ひどく疲れた顔をして。」
アーシイアはそのままシャプナの顔をまじまじと見つめている。「あなた泣いてるの?ねえ、何があったの。」
シャプナはクガヤとのことを話した。アーシイアは次第に険しくなる顔でその話を聞いていた。
「それ、どのへんで会ってたの?」
シャプナは場所を説明したあと、不思議に思って聞いた。
「アーシイア?場所関係ある?」
「まあちょっとね。できたら一言言ってやろうかと思って」
「それダメ!これはクガヤとシャプナとのやりとりだから。」シャプナは急いで言った。
「アーシイア、まさか、クガヤに何かしようとしてないよね?」
「そもそも、女神様に見放された愚かな人間の分際で、
この私の妹に酷いこというなんて、腹の虫がおさまらない。」
「シャプナそれ望んでない」シャプナは必死に言った。
「クガヤ、シャプナのこと助けてくれた。アーシイアがクガヤに何かするのダメ!クガヤに何もしないって約束して!」
アーシイアは、別にクガヤに怪我させたりするつもりはないと話し、シャプナはホッとした顔になった。
その後、アーシイアが帝都から持ってきた土産物を食べて、シャプナはホッとしたのと疲れたのでテーブルで寝てしまい、アーシイアはベッドにシャプナを寝かせた。
「何もしないわ、それは確かね。」アーシイアはシャプナの頬の涙をぬぐいながらつぶやいた。
「でも、シャプナの心を傷つけた落とし前は、つけさせていただくわ」
サタヴァはクガヤとヤトルが寝入った後、広間から出て、夜もふける中、建物の外に出ていた。
サタヴァは二人より先に寝たように見せていたが、実際には寝ていなかったのだ。
獣とのやりとりや、クガヤとシャプナとのやりとりを目の当たりにしてからというもの、以前からのある悩みが表に出てきてしまい、
しかもそれが残り二人に話せない類の悩みだったため、眠れなくなっていたのだった。
夜の闇が濃く更けて来たのを感じたので、さすがに明日に差し支えるだろうと、サタヴァが広間に戻ろうとしたとき、
闇をぬって誰かがこちらへ歩を進めてきたのが見えた。
雲の合間から月の光がさしてきて、その人物を照らし始めた。
こちらに来るにしたがって、月光は次第に白と黒の長い髪、白いケープなどをあらわにした。
若い美しい女だった。月の光のせいで白々と全身が輝いて見えた。女は口を開いた。
「どうも、初めまして。私はアーシイアと申します。」
女は近づいてくる。
「帝都で聖女やってます。この度は」
女の目は釣り上がっており口元に牙が見えた。美しい顔が怒りを含んでいたため恐ろしげな様となっていた。
「妹が大変こちらで世話になったようで。」
2
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
令嬢キャスリーンの困惑 【完結】
あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」
そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。
14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。
すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【完結】お前なんていらない。と言われましたので
高瀬船
恋愛
子爵令嬢であるアイーシャは、義母と義父、そして義妹によって子爵家で肩身の狭い毎日を送っていた。
辛い日々も、学園に入学するまで、婚約者のベルトルトと結婚するまで、と自分に言い聞かせていたある日。
義妹であるエリシャの部屋から楽しげに笑う自分の婚約者、ベルトルトの声が聞こえてきた。
【誤字報告を頂きありがとうございます!💦この場を借りてお礼申し上げます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる