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第一章
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クガヤに向かってシャプナと名乗る細っこい女の子は話した。
「シャプナ、普段このあたりまで来ない。
ここ最近、鳥や獣達がいなくなって、シャプナ狩りできなかった。食べるものない。
たぶん大きい鳥来たせい。小鳥や小さい獣たち、大きい鳥怖がってみんな逃げた。
シャプナも怖かった。でも、大きい鳥、どこかへ行った。
シャプナ、大丈夫になった。でも、縄張りに獲物戻って来ない。
だからここまで来てみた。
でもここにも獲物まだ戻っていない。
シャプナなんにも食べれなくてもう死ぬかと思った。本当にお腹ぺこぺこだった。
クガヤ自分の食べるお肉くれた。シャプナ助かった。クガヤ命の恩人。」
クガヤはシャプナの話を聞いて思った。
狩りだなんて、この娘どうやってるんだろう。
罠を仕掛けてとるんかな?
大きい鳥って何のことだ?
それにしても、とクガヤはシャプナを見ながら思った。
話し方が変わってるなあ。まるで普通の話し方を誰からも教わらなかったみたいに。
この娘も、もしかしたら山の民とかなんだろうか。
考えたら、サタヴァは山の民にしては話し方はわりとしっかりしてるのかもしれない、とクガヤは思った。
しかし山の民の正確な実情を知ってるわけではなかったので、その判断はやめとこうと思った。
突然シャプナがウッと言いながら、胸のあたりを手で押さえた。そしてゲーゲーやりだした。
空腹時に急いでたくさんがっついたのがどうやら良くなかったらしい。
吐いたものを見て、シャプナは悲しそうにうめきながら言った。
「せっかくの久しぶりのお肉、せっかく親切なクガヤにもらったのに、シャプナ吐いちゃった」
シャプナはとうとう泣き出した。「クガヤの大事な、自分の食べる分をわけてもらったのに、シャプナ無駄にしちゃった」
クガヤは慌てた。「そんなの、気にしなくていいって!」
言いながらシャプナの背中をさすった。
「まだあるから今度はゆっくり食べて。」
「親切なクガヤ、シャプナのせいで食べるものだいぶ減った。
それなのにシャプナ何もお返しできない。」
シャプナはまだ泣いている。
クガヤは残っている干し肉とともに、穀類を干し固めてある糧食を渡してみたが、そちらは普段食べるものじゃないからとシャプナは食べなかった。
「俺、このシャプナちゃんが食べないやつが食べれるから、俺の食い物のことは心配しなくていいよ」
クガヤがそういうと、シャプナはやっと落ち着いて少しにっこりした。薄緑色の瞳が細まり、弧を描いて優しい顔になっている。クガヤはその笑顔に見とれた。
ヤトルは屋外から少し離れた場所に、井戸を見つけた。水が中にあるか外側から覗こうとしたときに、どこからか、おい、おい、と呼ぶような声がした。
「はい?僕を呼んでますかね。」ヤトルはやっとここの住人に会えたかなと思いながら、声のしたほうに返事をしようとして目を向けた。
ヤトルの意識はそのまま闇に呑まれた。
怪しい気配が色濃くあたりを包むのがより酷くなってきた、とサタヴァは思った。
建物とその周辺から、まるでそれらが生き物のように息づいているような気配がする。
サタヴァは音を立てないよう注意しながら、剣を構えて、気配を探りつつ進んでいた。
向かっている道の先に、ヤトルが立っていた。
ぼーっとして動かず、立ち尽くしたままになっている。
「ヤトル、ヤトル!」肩に手をかけて体を揺すっても、こちらに気づかずぴくりともしない。
「やれ、小僧めが。人の縄張りに入り込みよって。」
ヤトルではない別の声があたりに響いた。
「妙な娘っ子も来ておるが、あいつはまだこちらに気づいてはおらぬ。後回しだ。」
気配の主がそこにいた。闇を凝縮したようになにかが集まって暗いモヤとなっていた。
目を凝らして見ると、姿形は細長い白い獣のようだった。白い牙を剥き出し、薄暗く凶悪な気配を醸し出している。
その目は爛々としており口は言葉を話している。それは年を経たイタチのように思われた。
普通の獣が年を経るにつれ妖力を得て幻術により人心を惑わすようになる場合があると言われている。
魔獣は恐ろしい魔法を使う獣だとされているが、この類の獣であるのかもしれなかった。
普通の人間が見たら魔物が出た!と肝を潰して逃げたかもしれない。その言葉がわかるかどうかは別として。
だがサタヴァはこれら術を使う獣に会うことには慣れていた。山に住んでいるとそれこそひっきりなしに出くわすのだった。
ごく普通の獣で妖力が強くないものでも、人の意識を読んでその中に獣の考え出した幻の意識を入れ込むことはよくあることだったのだ。
人がそれにかかると、山道に居てもすでに家に帰っているとか、食べれないものをご馳走と思い込んで食べたりとか、獣に意識を操られるままになり、おかしいと疑問も抱かない状態になる。
相手は人に限らない。どちらかというと、喰ったり喰われたりする獣の間で、お互いに化かし合うことになることの方が多い。
獣が人間を幻術にかけるのは、普段自分が他の相手に対してやっていることを人に対してやっただけのことであった。
更に言うと、獣の言葉はサタヴァには何故かはっきりわかるのだった。それこそ人間の言葉よりも。
「小僧。ここに何しにきた。」
獣は話しかけて来ていた。サタヴァが幻にかからず自分の姿が見えているらしいため、どうやらサタヴァに理解されているらしい自分の言葉で懐柔しようとしていたのだ。
獣は小柄だったので幻術が効かない相手だと不利なのだ。
「シャプナ、普段このあたりまで来ない。
ここ最近、鳥や獣達がいなくなって、シャプナ狩りできなかった。食べるものない。
たぶん大きい鳥来たせい。小鳥や小さい獣たち、大きい鳥怖がってみんな逃げた。
シャプナも怖かった。でも、大きい鳥、どこかへ行った。
シャプナ、大丈夫になった。でも、縄張りに獲物戻って来ない。
だからここまで来てみた。
でもここにも獲物まだ戻っていない。
シャプナなんにも食べれなくてもう死ぬかと思った。本当にお腹ぺこぺこだった。
クガヤ自分の食べるお肉くれた。シャプナ助かった。クガヤ命の恩人。」
クガヤはシャプナの話を聞いて思った。
狩りだなんて、この娘どうやってるんだろう。
罠を仕掛けてとるんかな?
大きい鳥って何のことだ?
それにしても、とクガヤはシャプナを見ながら思った。
話し方が変わってるなあ。まるで普通の話し方を誰からも教わらなかったみたいに。
この娘も、もしかしたら山の民とかなんだろうか。
考えたら、サタヴァは山の民にしては話し方はわりとしっかりしてるのかもしれない、とクガヤは思った。
しかし山の民の正確な実情を知ってるわけではなかったので、その判断はやめとこうと思った。
突然シャプナがウッと言いながら、胸のあたりを手で押さえた。そしてゲーゲーやりだした。
空腹時に急いでたくさんがっついたのがどうやら良くなかったらしい。
吐いたものを見て、シャプナは悲しそうにうめきながら言った。
「せっかくの久しぶりのお肉、せっかく親切なクガヤにもらったのに、シャプナ吐いちゃった」
シャプナはとうとう泣き出した。「クガヤの大事な、自分の食べる分をわけてもらったのに、シャプナ無駄にしちゃった」
クガヤは慌てた。「そんなの、気にしなくていいって!」
言いながらシャプナの背中をさすった。
「まだあるから今度はゆっくり食べて。」
「親切なクガヤ、シャプナのせいで食べるものだいぶ減った。
それなのにシャプナ何もお返しできない。」
シャプナはまだ泣いている。
クガヤは残っている干し肉とともに、穀類を干し固めてある糧食を渡してみたが、そちらは普段食べるものじゃないからとシャプナは食べなかった。
「俺、このシャプナちゃんが食べないやつが食べれるから、俺の食い物のことは心配しなくていいよ」
クガヤがそういうと、シャプナはやっと落ち着いて少しにっこりした。薄緑色の瞳が細まり、弧を描いて優しい顔になっている。クガヤはその笑顔に見とれた。
ヤトルは屋外から少し離れた場所に、井戸を見つけた。水が中にあるか外側から覗こうとしたときに、どこからか、おい、おい、と呼ぶような声がした。
「はい?僕を呼んでますかね。」ヤトルはやっとここの住人に会えたかなと思いながら、声のしたほうに返事をしようとして目を向けた。
ヤトルの意識はそのまま闇に呑まれた。
怪しい気配が色濃くあたりを包むのがより酷くなってきた、とサタヴァは思った。
建物とその周辺から、まるでそれらが生き物のように息づいているような気配がする。
サタヴァは音を立てないよう注意しながら、剣を構えて、気配を探りつつ進んでいた。
向かっている道の先に、ヤトルが立っていた。
ぼーっとして動かず、立ち尽くしたままになっている。
「ヤトル、ヤトル!」肩に手をかけて体を揺すっても、こちらに気づかずぴくりともしない。
「やれ、小僧めが。人の縄張りに入り込みよって。」
ヤトルではない別の声があたりに響いた。
「妙な娘っ子も来ておるが、あいつはまだこちらに気づいてはおらぬ。後回しだ。」
気配の主がそこにいた。闇を凝縮したようになにかが集まって暗いモヤとなっていた。
目を凝らして見ると、姿形は細長い白い獣のようだった。白い牙を剥き出し、薄暗く凶悪な気配を醸し出している。
その目は爛々としており口は言葉を話している。それは年を経たイタチのように思われた。
普通の獣が年を経るにつれ妖力を得て幻術により人心を惑わすようになる場合があると言われている。
魔獣は恐ろしい魔法を使う獣だとされているが、この類の獣であるのかもしれなかった。
普通の人間が見たら魔物が出た!と肝を潰して逃げたかもしれない。その言葉がわかるかどうかは別として。
だがサタヴァはこれら術を使う獣に会うことには慣れていた。山に住んでいるとそれこそひっきりなしに出くわすのだった。
ごく普通の獣で妖力が強くないものでも、人の意識を読んでその中に獣の考え出した幻の意識を入れ込むことはよくあることだったのだ。
人がそれにかかると、山道に居てもすでに家に帰っているとか、食べれないものをご馳走と思い込んで食べたりとか、獣に意識を操られるままになり、おかしいと疑問も抱かない状態になる。
相手は人に限らない。どちらかというと、喰ったり喰われたりする獣の間で、お互いに化かし合うことになることの方が多い。
獣が人間を幻術にかけるのは、普段自分が他の相手に対してやっていることを人に対してやっただけのことであった。
更に言うと、獣の言葉はサタヴァには何故かはっきりわかるのだった。それこそ人間の言葉よりも。
「小僧。ここに何しにきた。」
獣は話しかけて来ていた。サタヴァが幻にかからず自分の姿が見えているらしいため、どうやらサタヴァに理解されているらしい自分の言葉で懐柔しようとしていたのだ。
獣は小柄だったので幻術が効かない相手だと不利なのだ。
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