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第一章

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「うちのほうで税金払えないんで、かわりに兵隊さんやりに来ました。」

簡易兵舎の受付で、茶色い髪と目のヒョロっとした青年が話している。

平服を着ており、手に槍のようなものをもっているが、どうも元々は先端の別れている農具で、他の部分が取れて尖った部分が一本だけ残ったものらしく見えた。

「一人で来たのか」

「はい、僕一人です。あ、うちの村は小さくて、人自体かなり少なくて、兵隊に行ける年の者は僕くらいなんです。あとはおじいちゃんたちばかりで。父親とかはもう少し若いんですが、腰がやや不自由なんで僕だけで来ました。」青年は手荷物を床へ置きながら話した。
「確か税金を免除か、結構軽くしてもらえるとの話でしたので。」

受付の者は頭を抱えた。すでに兵として集まってきた者達は部隊に割り当てられ、明日の出立を待って宿舎にいる段階である。

そもそも、徴兵される場所は指定されているが、いま話している若者はそことは別の地方から来たらしい。

また、これまできている兵達は、その地の領主らが魔獣退治などの経験がある者らを選んで派遣しているようで、普段からある程度戦い慣れてそうな者達が大半であり、武具なども自分の使い勝手のいいものを身に着けてやってきている連中ばかりなのである。

これについては募集の際にできるだけ武具は持参と要項にある。こちらで全員分用意するとなると、費用が馬鹿にならないためだ。

この若者も武具は持参という話は聞いていたようで、前述のごとく古い農具を持ってきたようだ。

この徴兵地以外から来た連中に対しては、と受付の者は考える。一体どう扱ったらよいのだろうか。

連中と言ったのは、少し前にも、もう一名同じような感じで兵隊に志願してきた者がいたためだ。

その者はなんと、兜のかわりに、料理鍋を逆さにかぶってやってきたのだった。

武具らしきものはその他には何も持っておらす、平服を身に着けているだけであり、またこの者も徴兵地とは違う地方から来ていたのである。

参謀のレベラに確認をしようと思っている受付だったが、そのレベラがなかなか捕まらず、まだ話は全くできていなかった。

少しそこで待つように、というと、近くにあるテーブルに若者は座った。

同じテーブルの隅のほうに、例の鍋をかぶってきた男が同じく待たされており、テーブルに丸い頭をつけて寝ていた。焦げ茶色の髪がその頭を覆っている。鍋は脱いで頭の横に置いている。

参謀を再度探しに行こうと受付の者が立ち上がるや否や、ガタリと音を立ててドアが開いた。

一人の男が入ってきた。

黒っぽいマントをはおり、細身の剣のようなものを腰にさしているが、なぜか手に兜をたずさえている。

やや巻き毛の黒髪に黒い大きな目をした青年だ。

青年が言うには、遺体を見つけたので埋葬した後に、兜を形見として持ち、人のいそうな場所を探して歩いていたところ、ここにたどり着いたということだった。

その兜を受取り、つらつら眺めてみたが、特に持ち主の身柄を特定する手がかりはなさそうだった。

「済まないが兜はここであずかってもらえないか。

自分は亡き者の形見として必要な者がいるかもしれないと、人の集まる場所へ持って来たのだが、身内が判明するまでずっと探し続けてまわるつもりではないゆえ。」

もしかして徴兵に参加する道程の途中で亡くなった者がいるのかもしれないと受付の者は考えたが、どこの誰だかは、現状、こちらではすぐには調べようがない。

取り急ぎ預かろうと答えようとしたとき、レベラがドアを開けて入ってきた。

「レベラ殿!探しておりました!」急いで待機させている二人の件を話した。

レベラは新しく来た男を見やった。「そちらも兵隊志願に来られたのか?失礼だがどちらから来られたのかな」

男は兜を持ってきただけだという説明を先程と同様にしたのち、どこから来たかについては何やら口ごもりモゴモゴ話し始めた。

その話によると、これまでどこぞの山あたりで暮らしており、このあたりに来るのは初めてで、どこの地域だとかそういったことは何のことだか皆目わからないと。

…山地あたりにしばしばいると伝えられる山の民だろうか?彼らは自活しているが無学の者が多いと聞く。

もしそうならこちらの話が細かいところまで伝わらない可能性もある。今のところ会話はある程度成り立っているようだが…

レベラはそう考えながら話を聞いていた。

その時またドアが開いた。今度はギズモンドが入ってきたところだった。

出立の前日である今夜は、戦勝を祈願して、役付けの連中で一杯やることになっている。

レべラは酒が入ってしまう前に、極めて重要な話を早急にギズモンドの耳に入れる必要があり、あちらに行かれたか、いやこちらだろうかと走り探しながらここまで来たところだったが、ギズモンドの方でも飲みがまもなくはじまるぞとレベラを探しており、二人はようやく会えたところであった。
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