上 下
10 / 12

10

しおりを挟む
フードの男はじっとリーテのネックレスを見つめた。口の中で何やら呟いている。

「ふむ…言われてみればそのネックレスは女神の神紋のうちの一つが意匠とされている。
…こやつ、本当に巫女だな。

ならば、ネックレスに魔術の力があるという話も本当だろう。

とすると…このネックレスさえ、手に入れることができれば…ここまで来た目的は達せられるのだな…」

リーテはよく聞こえなかったため「なあに?」と聞き返すと、男は目を上げ、リーテの目を見ながら話した。
「そのネックレスを手にとってよく見たいのだ。

私はあなたが気に入りそうな素敵な装飾品を、少しばかり持って来ているよ。貢ぎ物のつもりで持って来た物もあるのだが、他の者達に売る予定の品もある。

どれも、かなり高価で珍しい品ばかりだ。

それらの品を、あなたにお見せしようかと思う。

貢ぎ物でない、売り物の方も、お気に召すようなら、あなたへ差し上げてもよい。

代わりに、私の手元にそのネックレスを少しの間、預けて見せてほしいのだ。見終わったらすぐにお返しするので、どうかお願いしたい。」

リーテは少し考えた。「そうねえ…これを少しの間あなたに見せるだけで、貢ぎ物以外にも、色々珍しい装飾品をくれるって話をしているのよね?」

男はうなづいて懐から何か光るものをちらりと見せた。

「まずはこちらの腕輪だ。お気に召すようであれば、そのまま差し上げてもいいが、これは売りさばく予定のものだ。
これが欲しいと言われるのであれば、差し上げてもよろしいが、一度そのネックレスをこちらへ手渡してもらいたい。」

男は、リーテの表情を見て、話に前のめりになっていることを悟りそっと笑みを浮かべた。

「えっ、まず、それよく見せてみてよ。」リーテは腕輪を受け取った。白い金属が丸く輪となり、金色の石がところどころ嵌め込んである。リーテには少し大きかったが、手首から肩の辺りまで滑らせていくと腕輪はどうにか装着することができた。

実際に身につけてみたリーテは、この腕輪が欲しくてたまらなくなった。どちらかといえば貧しい育ちであり、こんな素敵なものを自分の手にしたことは、これまでなかった。

島に宝物はあっても、一族の物で個人の所有物ではないとされているので、今後もリーテがそれらを自分のものとして手に入れることは無いかもしれない。

だが、この男から貰うものは自分だけのものとなるだろう。誰にも文句言われる筋合いは無いだろう。

リーテは取引に乗り気になり、期待で胸を膨らませた。腕を上げ下げして満足気に装着した腕輪を見ており、早く返してねと言いながらネックレスを男に手渡した。

その時、気になっていたことを何気なく口に出した。

「ところでさあ、あなたはなぜこの島に入れたのかしら。ここには一族の者しか入れないってされてるのよ。

私、遠くからあなたの船を見たとき、二人乗っていたように見えたの。でも私がここで出迎えたときは一人だった。なぜかしら…

もう一人はどこに行ったの?
まさか水面下に落ちて、そのまま助けずにここまで来たり…なんてこと、してないわよね?」リーテは冗談を言うつもりでクスクス笑いながら言った。

フードの下で男は目をわずかに細めた。見る者によっては、鋭い目つきになったようにもみえるが、リーテはそこまで気づかなかった。

「いや、ずっと私一人だ。それはきっと見間違いだよ。」

「それと、ここまでどうやって入れたのかしら?

ここってよそ者が近づくと、魔術をかけてあるから、幻影を見たりして道に迷うはずなんだけど?」リーテは首をかしげた。

「わからぬ。そんな術が仕掛けてあったとは知らなかった。もしかしたら私には一族の血が流れているのかもしれないな。」
男は表情を変えず、しらを切り通しながら話した。

そして口の中で小さく呟いた。「巫女であるならばネックレスを用いてどのような儀礼を行っているのかも確認したほうが良いかもしれぬ。

それを聞き出すまでは、こいつは連れて行こう。」

そしてリーテに聞こえる大きさの声で呼びかけた。「こちらにおいで。船のところに貢ぎ物を置いているんだ。」

「えー船に乗るの?島に来たばかりなのに?」リーテはそう言いながらも男に手を引かれて船に乗り込んだ。

「ここに貢ぎ物の荷を置いてあるからな。自分でいいと思うものを選んでくれ。」

リーテが船底の荷をしゃがみ込んで調べているうちに、男は渡し場を足で蹴りだし、船を密かに漕ぎはじめた。

リーテは夢中で船底にある宝を見ており気づかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不要とされる寄せ集め部隊、正規軍の背後で人知れず行軍する〜茫漠と彷徨えるなにか〜

サカキ カリイ
ファンタジー
「なんだ!あの農具は!槍のつもりか?」「あいつの頭見ろよ!鍋を被ってるやつもいるぞ!」ギャハハと指さして笑い転げる正規軍の面々。 魔王と魔獣討伐の為、軍をあげた帝国。 討伐の為に徴兵をかけたのだが、数合わせの事情で無経験かつ寄せ集め、どう見ても不要である部隊を作った。 魔獣を倒しながら敵の現れる発生地点を目指す本隊。 だが、なぜか、全く役に立たないと思われていた部隊が、背後に隠されていた陰謀を暴く一端となってしまう…! 〜以下、第二章の説明〜 魔道士の術式により、異世界への裂け目が大きくなってしまい、 ついに哨戒機などという謎の乗り物まで、この世界へあらわれてしまう…! 一方で主人公は、渦周辺の平野を、異世界との裂け目を閉じる呪物、巫女のネックレスを探して彷徨う羽目となる。 そしてあらわれ来る亡霊達と、戦うこととなるのだった… 以前こちらで途中まで公開していたものの、再アップとなります。 他サイトでも公開しております。旧タイトル「茫漠と彷徨えるなにか」。 「離れ小島の二人の巫女」の登場人物が出てきますが、読まれなくても大丈夫です。 ちなみに巫女のネックレスを持って登場した魔道士は、離れ小島に出てくる男とは別人です。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...