離れ小島の二人の巫女

サカキ カリイ

文字の大きさ
上 下
8 / 12

8

しおりを挟む
「もう、ラウアはケチなんだから!帰ってきたらみてなさいよ!」

リーテは激しく癇癪を起こしながら叫んだが、怒りをぶつける相手は誰もいなかった。

「酷いわ、誰も言うこと聞いてくれる人いないもん…誰か帰って来てくれないと、言いつけることもできないんだから…」リーテはそう言いながら、船の渡し場の方へ向かって歩いた。「誰か帰ってきてないかなあ…」

船の渡し場は、解体された船の木材を使用されたわけではなく、島に着いた当初からある。吊り橋もそうである。

宝の隠し島とする際に、一族の先祖がこれらを造ったのであろう。

リーテは遠方を見て、まばたきした。一艘の小舟がこちらへ向かっているのだった。

「へへん!言いつける相手の人帰って来たもんね!ラウア!」リーテはそう言いながら、誰が帰ってきたのかここから見えないだろうかと、手を額にかざし目を凝らし遠方を見る構えとなった。

一方ラウアはほこらを離れ、一日に必ず行う光の祈りを捧げた後、島の小高いところで一人座し、湖の向こう、外海へ接したあたりを臨んでいた。

リーテがいそうな場所は見当がついていたので、できるだけ遠く離れた場所を選んでいたのだ。

だが、ラウアも結局、誰か帰って来るのを待つしかなかったのだった。その姿勢のまま様々な想いを巡らせた。

光の巫女は、別にラウアが頼んでなったわけではない。一族に伝わる占いなどによりその素質があるとされたからだ。

リーテが本当にやりたいなら、彼女がやればいい。こんな争いはもうたくさん!

ラウアはそう思いながら外海から湖へと入ってきた小舟を見つけた。風が強く吹いており、船を操るのは難しそうに思えた。

船には二人の人物が乗っている。他の人はどうしたのだろうか。なぜ二人だけでここまで来たのだろうか。

そして驚いたことに、だいぶん遠方に居るはずの二人の会話が、風に乗ってラウアの耳へと聞こえて来たのだった。

「ここまで来れたらもう島に入った感じだ。あんたがよそ者でもここまで来れたんなら、そのまま島には入れると思うよ」

若い聞き覚えのある男の声だった。確か、キトという名の一族の青年の声のように思える。

そして聞き慣れない男の声がした。「この島には、一族以外の者は入ることはできないという話だが、一族の者と共に来れば、入ることが可能なのではないかと思っていた。

私がここに入ることが出来たのをみると、どうやらその仮説は当たっていたようだ。」

「そりゃ何より。ところで、一緒に島の辺りまで入って欲しいというあんたの要望を叶えたんだから、こちらの願いを叶えてくれる番だぜ!」キトと思われる青年は言った。

「あんた、おいらに魔術を教えてくれて、おいらも魔術を使えるようにしてくれるって話だったよな!

…魔術が使えるようになりゃ、他の連中もおいらの意見を聞くようになるからさ。

対価が足りないとか言うから、仲間が運んでいる宝を抜き取り、あんたに渡そうとこの船に隠し持って来たんだぜ?

一緒に外に出た仲間の目をかいくぐって、一人で抜け出してあんたと落ち合い、船でここまで来るようにするの、大変だったんだ。

仲間に見つかったらまずいことになるから、あまり時間が取れない。今のうちに早く教えてくれよ。」

金属の擦れ合う音が声の合間に聞こえる。キトが宝を男に見せてるんだ、そうラウアは思った。

「もっと近くに来るといい」男の声がして、ラウアは船の上で二つの影が重なり合うのを見た。

その後うっと呻く声がして重い水音が続いた。
何かが船から落ちたように思える。そして船の上には、人影は一つしか残っていなかった。

呟くような男の声が聞こえる。

「魔術というものは、素質が無い者が扱える代物ではない。お前などに教える気は無かった。

簡単に騙されるのはお前自身の知識の無さからくるものだ。恨むなら浅はかな自分を恨むのだな。」

ラウアの背を嫌な汗が伝った。

…キトが…もしかしてよそ者の男に殺されて、水面へと落とされてしまったのかもしれない…

ラウアは、リーテが今どこにいるのか、早く探さなければ!と焦った。

危ない人物が島に入り込んでる事実を、早く伝えなければ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

全部忘れて、元の世界に戻って

菜花
ファンタジー
多くの人間を不幸にしてきた怪物は、今まさに一人の少女をも不幸にしようとしていた。前作異世界から帰れないの続編になります。カクヨムにも同じ話があります。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気
ファンタジー
不思議な声によって異世界に喚ばれた悠介は、その世界で邪神と呼ばれる存在だった? 歴史の停滞を打ち破り、世界に循環を促す存在として喚ばれた若者の魂は、新たな時代への潮流となる。

【完結】魔女を求めて今日も彼らはやって来る。

まるねこ
ファンタジー
私の名前はエイシャ。私の腰から下は滑らかな青緑の鱗に覆われた蛇のような形をしており、人間たちの目には化け物のように映るようだ。神話に出てくるエキドナは私の祖母だ。 私が住むのは魔女エキドナが住む森と呼ばれている森の中。 昼間でも薄暗い森には多くの魔物が闊歩している。細い一本道を辿って歩いていくと、森の中心は小高い丘になっており、小さな木の家を見つけることが出来る。 魔女に会いたいと思わない限り森に入ることが出来ないし、無理にでも入ってしまえば、道は消え、迷いの森と化してしまう素敵な仕様になっている。 そんな危険を犯してまで森にやって来る人たちは魔女に頼り、願いを抱いてやってくる。 見目麗しい化け物に逢いに来るほどの願いを持つ人間たち。 さて、今回はどんな人間がくるのかしら? ※グロ表現も含まれています。読む方はご注意ください。 ダークファンタジーかも知れません…。 10/30ファンタジーにカテゴリ移動しました。 今流行りAIアプリで絵を作ってみました。 なろう小説、カクヨムにも投稿しています。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...