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十二

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「イエーイ!

レイオせ・ん・ぱ・い!

ご退職、おっめでとうございまーす!」

ギルドの出口にナジルが走ってきてそんなことを叫び始めた。

辞める俺のことを、見送りに来たらしい。

「いやーもう俺的に先輩と一緒にいる時間、すげえ長かったわ」ナジルは長く辛い時間を切り抜けた俺はすごいんだと、そう言うのだった。

「毎日毎日、わっけのわかんないことばーっかり言われて、その度にストレスマッハになるこの俺の苦しかった気持ち、レイオ先輩にはまるっきりわからなかったようですから!」

ナジルは息もつかず一気に話した。

「わかりやすく話したつもりだったんだが、どのあたりがわからなかったんだ?」

「なんもかんもです!畜生、俺に苦しみを与えるために、わざとわからない話を延々しやがった。なにが指導だ。わかるように話しろや。バトーさんから俺のやり方でいいと言われた時には本当にすっきりしたわ。

負け犬の先輩はもうここからさっさと消え失せてください!

あーっ明日からもうあんたの顔見ずに済むと思ったら、心晴れやかになったわ。」

ナジル、俺が懸命に理解させようと説明していたのが、そんなにストレスとなっていたなんて。

その説明のレベル、実は、学園に行きはじめた子供でも、理解可能なものなんだぞ?

彼に指導することをもうせずに済むなんて!

こちらも晴れやかな気持ちになるじゃないか。

俺はその考えで心に余裕が出たのか、ふと優しい気持ちになってナジルを眺めた。

暖かい眼差しとなっているのが自分でもわかる。

「な、なんだよ…その目つき…」気持ち悪っ!と小さい声でナジルはつぶやいたが、まるっきりこちらに聞こえている。

ナジルは通常運転だ。

だがもう、それを見るのは、これで最後となるだろう。

「…ナジル。冒険者ギルド通さずに、冒険者になることだってできる。」

「は、はあ?」ナジルは突然話が変わったのについていけず、眉をしかめた。

「勇者みたいになりたいんじゃなかったのか?」

「なんだってえ?」

「その、剣など武具を手にいれて、仕事の無い日とかに、
初心者向けの土地で適当に地道に魔物を倒していけば、腕前も上がって冒険者らしくなれると思うぞ。

剣とか欲しくないのか?勇者ぽくなりたいんだろ?」

「剣、武具の店で買おうとしたことあったけど、
俺の格好良さを知らしめようとその場で振り回していたら、店のおやじに出入り禁止言い渡されたわ!」

「うっ…こ、ここの町が駄目なら、隣町の武器屋に行けばいいさ。

もう剣を振り回したりせずに普通にしてれば買えると思うぞ」

だがナジルはすでにそこに行っていた。そこでも同じことをしてしまい、出入り禁止になっているんだと口にした。

「みな俺に嫉妬してるんだ。勇者となる運命は少し辛い面もあるんだ。

そもそも、あんたに勇者うんぬん言われたかないわ!

勇者が穢らわしくなるからそういうこと口にすんな!」
ナジルはそう言い放った。

その会話を最後に俺は立ち去った。どうやら話をするだけ時間を無駄に消費することとなるようだ。

もう彼と話すこともないだろう。
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