10 / 14
十
しおりを挟む
昼食後、呼び出しを受けたのでバトーの部屋に入ると、ナジルがすでに中にいる。
どうやら、二人は先に話し込んでいたようだ。…嫌な予感がする。
「君、指導といいながら新人の彼に自分の仕事の雑用やらせていたそうじゃないか。
これだから残業時間がむやみに多いだけの、能力の無い人間は困るんだよ。」
目の端でナジルがニヤつきそうになったあと、苦労して真面目な顔をつくっているのが見えた。
「何か言うことはないのか?」苛ついたようにバトーがいう。
「その、彼に仕事を教えていけという話なので、教えていただけです。」
「いーえ、誰が見ても無駄と思われることを先輩命令で無理にやらされそうになって、僕はそんなことしないと言いました。先ほど報告した通りなんです。」ナジルはそう主張する。
「レイオ、状況を説明してみろ。」
俺は、帳簿の二つの箇所に誤記があるせいで資料がおかしくなっていたので、それの検算とつけ合せをナジルに依頼しただけだ、
作業してもらいながらこうやるんだと覚えてほしかったんだと話した。
さすがにナジルの言いがかりだということは、わかってもらえるだろう。
だがバトーはこう言い出した。
「お前の話と問題点はよくわかった。まず、お前の仕事に時間がかかりすぎる点だ。
そんな検算やつけ合せなんかしてるから時間ばかりかかってたんだ。
今までその分無駄に給与払わせてきたんだな。
ナジル君の言い分は正しい。額が違うのは最初から違う数字が書いてあるからだ。
何年もしているのに、そんな簡単なこともわからないのか。
お前、この仕事は手に余る感じなんじゃないか。」
「えっ!しかし、今まで先輩方もそうしてきましたし。
客側もこちらに誤りがあれば教えてくださいと話して来られてましたよ?」
バトーはうるさげに顔の前で手をふった。
「そういうのが積み重なり時間ばかりかかる。労力のムダ。まずは資料は向こうの通りのままにする。
違う部分があったり意味不明の部分があっても、つけ合せしたり勝手に先方に連絡したりするな。向こうが書いた資料なんだから向こうの責任だ。
これだけで相当時間の短縮になる。」
「…それだと契約時の条件に違反するのでは」
契約では確か、こちらが書類の誤りがあれば指摘することも業務内容に含まれるという項目がある。
「そんな古い契約の話はされてもな。その条項は更新時に削っている。」
「そんな!客先はそれに納得したのですか⁉」
「更新の契約書には、小さく最後の方に書いてある。
契約を更新した時点で向こうも了解済みということになるのだ。」
…客先、多分読まなさそうだ。おそらくこれまでと同じだと思っているに違いない…
「文句出たらどうするんですか」
「契約どおりだから文句は言えないはずだ。
無駄を省いたおかげで仕事が早く終わるし、回転が早まる。より多くの仕事を受けることができる。利益もあがる。
そもそも、よく考えてみたら、お前の仕事のやり方で新人に指導したら、新人の側が迷惑するな。」
ナジルがそれを聞いて満面の笑みをたたえて頷いている。
どうやら、二人は先に話し込んでいたようだ。…嫌な予感がする。
「君、指導といいながら新人の彼に自分の仕事の雑用やらせていたそうじゃないか。
これだから残業時間がむやみに多いだけの、能力の無い人間は困るんだよ。」
目の端でナジルがニヤつきそうになったあと、苦労して真面目な顔をつくっているのが見えた。
「何か言うことはないのか?」苛ついたようにバトーがいう。
「その、彼に仕事を教えていけという話なので、教えていただけです。」
「いーえ、誰が見ても無駄と思われることを先輩命令で無理にやらされそうになって、僕はそんなことしないと言いました。先ほど報告した通りなんです。」ナジルはそう主張する。
「レイオ、状況を説明してみろ。」
俺は、帳簿の二つの箇所に誤記があるせいで資料がおかしくなっていたので、それの検算とつけ合せをナジルに依頼しただけだ、
作業してもらいながらこうやるんだと覚えてほしかったんだと話した。
さすがにナジルの言いがかりだということは、わかってもらえるだろう。
だがバトーはこう言い出した。
「お前の話と問題点はよくわかった。まず、お前の仕事に時間がかかりすぎる点だ。
そんな検算やつけ合せなんかしてるから時間ばかりかかってたんだ。
今までその分無駄に給与払わせてきたんだな。
ナジル君の言い分は正しい。額が違うのは最初から違う数字が書いてあるからだ。
何年もしているのに、そんな簡単なこともわからないのか。
お前、この仕事は手に余る感じなんじゃないか。」
「えっ!しかし、今まで先輩方もそうしてきましたし。
客側もこちらに誤りがあれば教えてくださいと話して来られてましたよ?」
バトーはうるさげに顔の前で手をふった。
「そういうのが積み重なり時間ばかりかかる。労力のムダ。まずは資料は向こうの通りのままにする。
違う部分があったり意味不明の部分があっても、つけ合せしたり勝手に先方に連絡したりするな。向こうが書いた資料なんだから向こうの責任だ。
これだけで相当時間の短縮になる。」
「…それだと契約時の条件に違反するのでは」
契約では確か、こちらが書類の誤りがあれば指摘することも業務内容に含まれるという項目がある。
「そんな古い契約の話はされてもな。その条項は更新時に削っている。」
「そんな!客先はそれに納得したのですか⁉」
「更新の契約書には、小さく最後の方に書いてある。
契約を更新した時点で向こうも了解済みということになるのだ。」
…客先、多分読まなさそうだ。おそらくこれまでと同じだと思っているに違いない…
「文句出たらどうするんですか」
「契約どおりだから文句は言えないはずだ。
無駄を省いたおかげで仕事が早く終わるし、回転が早まる。より多くの仕事を受けることができる。利益もあがる。
そもそも、よく考えてみたら、お前の仕事のやり方で新人に指導したら、新人の側が迷惑するな。」
ナジルがそれを聞いて満面の笑みをたたえて頷いている。
542
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。


あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる