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第一章 胎動
第十七話 黒い船
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保土ヶ谷の海岸に着いた2人は、沖合に目を凝らす。はるか沖合に、何隻かの船が浮かんでいる。
「小さくて、よく見えんな」
辺りを見回すと、近くの草むらに、武士が2人、立っているのが見えた。2人は、望遠鏡で、黒船を、覗(のぞ)いている。
晋作は、2人の方へ、歩み寄った。
「御免。少し、その望遠鏡を、お貸しいただけないでしょうか?」
武士の1人が、望遠鏡から目を離して、晋作と弥市の顔を、代わる代わる、見た。そして、何も言わずに、再び、望遠鏡を、目に当てた。
「おい、お前。無礼であろう!」
弥市が、食って掛かろうとするのを、晋作が、羽交締(はがいじ)めにして、止めた。
晋作は、もう一人の武士に、話しかけた。
「我々も、黒船が見たいので、その望遠鏡を、お貸しいただけないか?」
武士は、何の反応もせず、望遠鏡を、覗き続けている。晋作は、カチンときた。しかし、弥市の手前、大人であるところを、見せねばならない。晋作は、血管が、怒りで脈打つのを、堪(こら)えながら、もう一度、聞いた。
「失礼ですが、貴殿の望遠鏡を、少々、お貸しいただけないでしょうか?」
武士は、相変わらず、晋作を無視して、望遠鏡を、一生懸命覗き込んでいる。
晋作の怒りが、噴火した。
「やい!てめぇ!望遠鏡を貸せと言ってるんだ。何とか、言えよ!」
晋作は、武士の肩を、右手で、強く突いた。武士は、思いのほか軽く、派手にすっ転んでしまった。
それを見て、弥市が、大笑いした。転んだ武士を指さして、ゲラゲラ笑っている。すると、後ろにいた、もう一人の武士が、望遠鏡で、弥市の頭を、しこたま、殴りつけた。弥市は、頭を抱えて、しゃがみこむ。
「貴様!」
晋作が、その武士に殴りかかろうとした、その時、蒸気船の煙突から、蒸気が吹き出して、汽笛が鳴り響いた。その場にいた全員が、黒船の方を見た。
「小僧」
佐久間象山は、望遠鏡で、肩を叩いている。
「頼めば、貸してもらえるというのは、お主らの勝手な思い込みよ。貸して何の得もせんのに、なぜ貸してやらねばならん?」
「このっ!」
晋作は、思わず、刀の柄を握った。
象山は、鼻で笑った。
「抜くか?あぁ、大いに結構、抜け、抜け」
晋作は、唇を噛んだ。口の中に、血の味が広がった。いざ、晋作が、刀を抜こうとした、その瞬間、象山が凄んだ。
「私闘を演じたら、どうなるか、分かっておるのだろうな、小僧」
その眼光は鋭く、晋作は、一歩も動けなかった。
「いててて・・・」
その時、草むらの影から、晋作が突き飛ばした武士が、立ち上がった。袴のほこりを払っている。腰のあたりをトントン叩きながら、晋作たちに近づいてくる。
その武士に向かって、象山が、声をかける。
「吉田君、この小僧どもが、望遠鏡を借りたいそうだ」
寅次郎は、晋作と弥市を見た後、沖合の黒船を見た。
「あぁ、君たちも、黒船が見たいんだね。いいよ、僕のでよければ、使ってください」
晋作も弥市も、きょとんとしている。
「いい、のですか?」
寅次郎は、首をかしげる。
「ん?いいけど、どうかした?」
「いや、だって、さっき・・・」
その時、象山が、大声で、笑い出した。
「小僧ども、そりゃ、無理というもんじゃ。吉田君は、何かに熱中し始めたら、他のことなど、全く目に入らなくなるんだからな。わしだって、何度、傷ついたことか」
弥市が、象山に聞いた。
「それじゃあ、あなた様は、なぜ我々を、無視なさったのですか?」
「わしか?」
象山は、あごひげを、撫で始めた。
「からかいたかっただけよ」
「小さくて、よく見えんな」
辺りを見回すと、近くの草むらに、武士が2人、立っているのが見えた。2人は、望遠鏡で、黒船を、覗(のぞ)いている。
晋作は、2人の方へ、歩み寄った。
「御免。少し、その望遠鏡を、お貸しいただけないでしょうか?」
武士の1人が、望遠鏡から目を離して、晋作と弥市の顔を、代わる代わる、見た。そして、何も言わずに、再び、望遠鏡を、目に当てた。
「おい、お前。無礼であろう!」
弥市が、食って掛かろうとするのを、晋作が、羽交締(はがいじ)めにして、止めた。
晋作は、もう一人の武士に、話しかけた。
「我々も、黒船が見たいので、その望遠鏡を、お貸しいただけないか?」
武士は、何の反応もせず、望遠鏡を、覗き続けている。晋作は、カチンときた。しかし、弥市の手前、大人であるところを、見せねばならない。晋作は、血管が、怒りで脈打つのを、堪(こら)えながら、もう一度、聞いた。
「失礼ですが、貴殿の望遠鏡を、少々、お貸しいただけないでしょうか?」
武士は、相変わらず、晋作を無視して、望遠鏡を、一生懸命覗き込んでいる。
晋作の怒りが、噴火した。
「やい!てめぇ!望遠鏡を貸せと言ってるんだ。何とか、言えよ!」
晋作は、武士の肩を、右手で、強く突いた。武士は、思いのほか軽く、派手にすっ転んでしまった。
それを見て、弥市が、大笑いした。転んだ武士を指さして、ゲラゲラ笑っている。すると、後ろにいた、もう一人の武士が、望遠鏡で、弥市の頭を、しこたま、殴りつけた。弥市は、頭を抱えて、しゃがみこむ。
「貴様!」
晋作が、その武士に殴りかかろうとした、その時、蒸気船の煙突から、蒸気が吹き出して、汽笛が鳴り響いた。その場にいた全員が、黒船の方を見た。
「小僧」
佐久間象山は、望遠鏡で、肩を叩いている。
「頼めば、貸してもらえるというのは、お主らの勝手な思い込みよ。貸して何の得もせんのに、なぜ貸してやらねばならん?」
「このっ!」
晋作は、思わず、刀の柄を握った。
象山は、鼻で笑った。
「抜くか?あぁ、大いに結構、抜け、抜け」
晋作は、唇を噛んだ。口の中に、血の味が広がった。いざ、晋作が、刀を抜こうとした、その瞬間、象山が凄んだ。
「私闘を演じたら、どうなるか、分かっておるのだろうな、小僧」
その眼光は鋭く、晋作は、一歩も動けなかった。
「いててて・・・」
その時、草むらの影から、晋作が突き飛ばした武士が、立ち上がった。袴のほこりを払っている。腰のあたりをトントン叩きながら、晋作たちに近づいてくる。
その武士に向かって、象山が、声をかける。
「吉田君、この小僧どもが、望遠鏡を借りたいそうだ」
寅次郎は、晋作と弥市を見た後、沖合の黒船を見た。
「あぁ、君たちも、黒船が見たいんだね。いいよ、僕のでよければ、使ってください」
晋作も弥市も、きょとんとしている。
「いい、のですか?」
寅次郎は、首をかしげる。
「ん?いいけど、どうかした?」
「いや、だって、さっき・・・」
その時、象山が、大声で、笑い出した。
「小僧ども、そりゃ、無理というもんじゃ。吉田君は、何かに熱中し始めたら、他のことなど、全く目に入らなくなるんだからな。わしだって、何度、傷ついたことか」
弥市が、象山に聞いた。
「それじゃあ、あなた様は、なぜ我々を、無視なさったのですか?」
「わしか?」
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