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第一章 胎動
第十三話 乱入者
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1854年3月、義助の兄、久坂玄機が死没してから、わずか1か月足らずで、今度は、父、良廸が、玄機の後を追うように、逝った。大きな期待をかけていた玄機の死は、良廸にとって、受け入れるには、余りに大きすぎた。
母、富子は、玄機の死の、半年ほど前に、すでに、病没しており、義助は、わずか、1年の間に、肉親をすべて失うという、不幸にさらされた。
良廸の死によって、15歳の義助は、久坂家の跡目を継ぐことになり、名前を、玄瑞に改めた。尊敬する兄、玄機の名前から、玄の一字をもらい受けており、兄のように活躍したいという願いが込められている。
跡目は継いだものの、15歳の玄瑞は、さすがに、まだ医業を営むことはできず、医学を勉強するため、好生館に入学した。玄瑞が入学した翌年には、西洋学御用掛所が開設されており、玄瑞は、ここで、西洋学に、ふれることができた。
その日は、朝から雨が降っていた。玄瑞が、好生館で、本を読んでいると、障子戸の外が、騒がしい。やがて、バタバタと、駆けてくる足音が、聞こえてきて、障子戸が、荒々しく、開け放たれた。
そこに立っていたのは、ずぶ濡れになった男だった。頭は不揃いの坊主で、無精ひげが、そこかしこに生えていて、着流しの上から、僧衣を羽織っている。血走った眼は、間違いなく、玄瑞をとらえていた。
玄瑞は、たじろいだ。
坊主男の右手には、異様に長い日本刀が握られていたからである。
男は、睨みつけるように、玄瑞を、見つめている。玄瑞も、目を離さない。というか、離せない。離した瞬間、斬りかかられそうな、勢いだった。
「お前か、玄機の弟というのは」
兄の名前が、唐突に出されたので、意表をつかれて、黙っていると、坊主男は、咆哮した。
「お前が、玄機の弟かと、聞いとるんじゃ!ボケッ!答えんかい!」
玄瑞が、余りの迫力に圧倒されていると、坊主男は、長刀を肩に担いで、部屋に、一歩踏み込んだ。
さすがに、玄瑞が身構えようとした、その時、廊下を、走って来る、足音が聞こえて、若い男が、坊主男の後ろから、顔をのぞかせた。目力が、尋常ではない。
「ほお!これはまた、玄機君に劣らず、美男子だ」
玄瑞は、文机の下に、忍ばせている短刀に、手を伸ばした。
「やめておけ、小僧」
坊主男の声には、底知れぬ、力が宿っていた。
玄瑞の手が、止まった。
坊主男の後ろで、若い男が、笑った。
「久坂君、決して怪しいものではないよ」
そう言ってから、坊主男の方を、ちらっと見て、付け加えた。
「この人は、月性さん。一風変わって見えると思うけど、本当に、変わっているから、気を付けた方がいい。なんせ、暴れ出すと、手が付けられないからね」
母、富子は、玄機の死の、半年ほど前に、すでに、病没しており、義助は、わずか、1年の間に、肉親をすべて失うという、不幸にさらされた。
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「お前が、玄機の弟かと、聞いとるんじゃ!ボケッ!答えんかい!」
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「久坂君、決して怪しいものではないよ」
そう言ってから、坊主男の方を、ちらっと見て、付け加えた。
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